一般人初心者ですが暗殺業務始めます26_すれ違う言葉

「俺は実はスパイなんだ…」
という言葉に対する返答は
「とりあえず籍いれるか」
だった。

もうわけがわからない。
もともと不思議な男だったが、もう完全に理解の範疇を超えていた。

事実を話すとか虚構で騙すとか、そんな以前に会話が成立していない。
いや、自分がわからないだけで彼の方では成立しているのかもしれないが…。


「わけがわからないんだけど…」
とさすがに呆れて返す義勇に、

「この国は同性婚が認められているんだ。大丈夫だ」
とにこやかに言い放つ錆兎。

「へ~、そうなのか……じゃなくてっ!」

ほぼ外に出ることを許されなかった義勇には縁遠すぎて興味もなかったが、普通は男女でするものだと思っていたので素直に驚いて…しかしハッと気づく。
問題はそこじゃない。

少し声を大きくすると、錆兎が慌ててそれを止めた。

「あまり興奮するな。
この前外の空気吸ったせいで、今お前の身体すごく弱っているんだからな」

言葉の後半でひどくつらそうに沈み込む深い藤色の瞳。

「…なにもしないからな?お前が嫌がる事なんてなにもしない。
でも身元不確かなのが問題だと思うのなら俺のになればいいだろう?
出身と言うならば、俺とて産屋敷元帥に拾われるまでは戦争地域の荒んだ村の片隅で荒んだ生活していた天涯孤独の子どもだったんだからな。
それに比べたら義勇なんか元の身元はめちゃくちゃしっかりしているぞ?」
そう言って大きな手がソッと頬を撫でていく。

「お前がどう思っているのかは知らんが、俺はお前の事がとても大事だし、好きだし、ずっとこの安全な場所で守られて暮らして欲しいし……幸せでいて欲しいんだ。
俺は孤児だから…生まれながらの大切な人間というものが存在しない。
幼馴染達はいるが、彼らだっていずれ自分の1番大切な相手をみつけるだろうし、互いに一番大切な相手にはなりえない。

…だから、俺の唯一で一番はお前だけなんだ。

お前がボロボロになっていくのを見ているのは、自分の身ズタズタに切り裂かれるより100倍つらい。
ましてや死なれてしまったら耐えられる気がしない。
お前がいなくなってしまったら思うと……死ぬよりつらいんだ…」

笑みを浮かべているのに泣いている時よりつらそうな顔。
今回もこの優しすぎる軍人にずいぶん心配をかけたらしい。


『少し…眠っていろ』

ここを出て何か自分にも出来る事を見つけて生きて行こうと決めたあの日…。
外に出て急に苦しくなって動けなくなった所を猗窩座に拾われた。

最後の記憶は車の中で猗窩座に言われたその言葉で途切れている。

そして…目が覚めた時にはベッドの上だった。


こうして最近、何かで意識を失ったり倒れた時には必ずそうであるように、目の前には泣きそうな顔で自分を見下ろす錆兎。
何故かはわからないが、連れ戻されたらしい。

体中のあちこちにつながれた管。
口元には酸素マスク。
見慣れた錆兎に与えられている自室に運び込まれている様々な計器のついた機械…。

猗窩座と何かしらのやりとりがあったとしたら自分の正体はバレているに違いない。

これは…何かの拷問の準備なんだろうか…と、ほんの一瞬思ったが、自分のほうがひどく憔悴した様子で心配そうに

「義勇…痛くはないか?辛くはないか?俺の事がわかるか?」
と言う錆兎の優しい声に、そうではないらしい…と判断した。



「義勇、ダメだ…。これはダメだぞ?
お前は病身なんだから、こんな無理をしていたら本当に死んでしまうぞ。
頼むから…。もうこんな真似は二度としないでくれ」
点滴がついてない方の義勇の手を取って額に押し付ける錆兎。

手の震えからかなり心労をかけたであろうことが伺われる。
刺殺する以前に、心労でストレス死させるんじゃないだろうか…。

カナエや善逸達のように誰の迷惑にもならないように…出来れば誰かの役にたって慎ましく生きようと思ったが、錆兎には迷惑しかかけてない気がした。

きっとこのままでは迷惑をかけ続ける事になるだろう。

これ以上迷惑をかけないようにと思っても、出ていくことさえ失敗してこうして心労をかけているのだ。
どうやっても迷惑をかけるのに、死ぬ事も離れる事もまたひどく相手を傷つける。

本当に八方塞がりだ。
一体どうすればいいんだろう…。

ズキンズキンと胸が痛むと、錆兎が慌てて立ち上がって何かボタンを押した。

バタン!とドアが開いてカナエが飛び込んでくる。

ああ…錆兎が悲痛な様子で叫んでる……。

その声を遠くに聞きながら、義勇の意識は再び途切れた。



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2 件のコメント :

  1. 錆兎さん動揺してるのか「同性が婚…」って言ってるけど、多分「同性婚が…」ですよね(;^ω^)

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    1. ですです!
      どうしてだかおかしな文になってました💦
      ご指摘ありがとうございます

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