猗窩座が去って義勇を回収すると“私と不死川君のお花さん号”は一路基地へと向かう。
その道中で難しい顔のままそう言うカナエに、錆兎は眠ったままの義勇の手をしっかり握りしめたまま、不安げに視線を向けた。
「なあ…さっきの話。どういう事なんだ?」
その問いに運転しているカナエの代わりに彼女の助手をしている関係で多少の知識を持つ実弥がひどく緊張した面持ちで口を開く。
「心臓に異物を埋め込んでいるってことは…だなぁ、それでなくても術後の拒絶反応で2年以内に5割は死ぬって確率がほぼ10割に近くなるってことだ」
「うそ…だろう?…」
思わず血の気を失って倒れかかる錆兎を善逸が慌てて支えた。
そんなやりとりを前に実弥は小さく首を横に振った。
「いや、そのまま放っておけばたぶん2年も持たねえ。
だから取り出さねえとなんだけどなぁ…」
「それならちゃっちゃと取り出してくれっ!費用ならいくらでも出すっ!」
「それが簡単なことじゃねえ。
まず探してみねえとだけど、取り出しにくい所に埋めてる可能性が少なくねえし、それでなくても大きな手術をしたばかりでまた大きな手術っていうと、こいつ自身の体力的な問題もある。
拒絶反応が起きるギリギリまでこいつの体力の回復を待つのが理想なんだけど、そのタイミングを誤ると、取り返しのつかねえことになるし…」
「そんなの、カナエは名医だろうっ?!!助けられるだろうっ?!!」
思わず実弥の襟首を掴む錆兎を善逸が慌てて止める。
が、実弥は揺さぶられるまま、あいつだって出来る限りのことをやる気はあるけどなぁ…なにしろ妹が死んだ原因になったのと同じ病だから…と、うつむいた。
運転に集中していたと思っていたカナエは、そんな幼馴染二人の会話をちゃんと聞いていたらしい。
「大丈夫っ!ただの孤児だったあの時と違って私はお医者さんだからっ。
私と不死川君がちゃんと助けるから、鱗滝君は心配しないでも大丈夫よっ」
と、声をかけてくる。
そこでなんで俺の名前も出すかなぁ、この女は……
と、実弥は思うものの、何故だか悪い気はしない。
「ああ、助けるから。絶対助ける。全力で助けるから、任せておけぇ」
と、まるでカナエのように根拠のない前向きな言葉をかけてしまったのは何故なのか…
そんな中で善逸だけが少し心配そうな表情で、それでも
「姫先生は名医だからね」
と、不安を押し込めるように言ってやや複雑そうにだが笑みを浮かべた。
「ただ、もちろん姫先生は全力を尽くしてくれると思うけど、でも追い詰め過ぎないように注意はしてあげた方が良いと思います。
姫先生の妹さんが亡くなった病気ってことは、先生自身も色々思うところはあると思うし。
まあ、不死川さんの方が先生のことはよくわかっているでしょうし、俺が心配するようなことじゃないかもですけど…」
そのまま義勇の容態をみるのに集中し始めた実弥をちらりとみて、善逸は錆兎に向き合った。
上手くいけばいい。
だが失敗した時にはカナエは目の前の患者に対してということだけではなく、この病気に対するトラウマをひどく刺激されることになる。
そして不死川もそれをひどく心配しているのは人の気持ちに敏感な善逸にはビシバシ感じられた。
なのでそうフォローをいれてみると、今度は錆兎が両手で顔を覆って大きく肩を落としてうなだれる。
善逸にとって彼が入隊以来ずっと面倒を見てくれながらもからかいがすごい宇髄に適度にストップをかけ、善逸をかばい、フォローをいれてくれる実弥や錆兎は宇髄と同様に仕事の上司という以上に、家族や友人のような気持ちをもっている人達だった。
そんな彼らはいつだって自分と違って強くて頼もしい人生の先輩だったのだが、
「だらしない話だが、俺も今は誰かを気遣う余裕が欠片もない」
と、どれだけ落ち込んでいても目の前に弱者が居ればいつも手を差し伸べる錆兎がうなだれて首を横に振るのに善逸は驚きと心配で
「へ?何かあったんですか?」
と、声をかける。
すると、何か思い出したのだろう。
人の顔色ってこんなに急激に変わるんだな…と、変なところで感心してしまうくらいに一気に血の気の失せた顔をあげた錆兎は、彼に似つかわしくない力のない声で語り始めた。
「先日俺がたまたま仕事が早く終わって帰宅したら、義勇が……居間で思いつめた目をして包丁を握ってたんだ」
「…へ??」
「…もう少し帰りが遅かったら死んでたんだろうな…。
そう思ったら心臓をズタズタに切り裂かれた気分だった。
ちゃんと根回しておくべきだったんだよな…。
俺がきちんと気遣いをしなかったせいで無責任な噂を義勇の耳に入れてしまったから、あいつをそこまで追い詰めたんだ。
そもそも義勇がここに居るしかなくなったのは全て俺のせいだしな…。
なのにあいつ、スパイだと思われるような自分がいたら俺の立場悪くなるんじゃないかなんて心配してたんだぞ?」
寝耳に水の新事実に驚く善逸。
そういうことなら、諸悪の根源は義勇を勝手に連れ出した自分なんじゃないだろうかと、ひどく焦った。
「うわあ…ごめんなさいっ。
それって直の原因は俺ですよね?
責任もってもうちょっと色々根回ししとくべきでした」
「義勇は優しい奴だから…。
あいつ自身の事言うよりそのほうが効果あるかと思って、義勇になにかあったら俺も死ぬからと言ったんだが、今度は死ななかったら良いのかと思って、出て行こうとしたんだろうな…。
このあたり空気が異常に悪いから、あいつみたいに体が悪いと即命に関わってしまうのに…」
「うん…そのあたりちゃんと説明してなかったですよね…。意識戻ったら説明しておこう」
「うわあ…ごめんなさいっ。
それって直の原因は俺ですよね?
責任もってもうちょっと色々根回ししとくべきでした」
「義勇は優しい奴だから…。
あいつ自身の事言うよりそのほうが効果あるかと思って、義勇になにかあったら俺も死ぬからと言ったんだが、今度は死ななかったら良いのかと思って、出て行こうとしたんだろうな…。
このあたり空気が異常に悪いから、あいつみたいに体が悪いと即命に関わってしまうのに…」
「うん…そのあたりちゃんと説明してなかったですよね…。意識戻ったら説明しておこう」
「義勇に何かあったら全部俺のせいだ…俺も責任取って死ぬ…」
「それ、シャレにならないからやめてください」
無言でうなだれながら作業を続ける実弥と、ず~ん!と地の底まで落ち込む錆兎に囲まれて、善逸は(姫先生、助けて…)と、視線を送ってみるが、普段は読まない空気を自衛の時のみは思い切り読めるらしいカナエに華麗にスルーされる。
ああ、本当に俺ってば大失敗だよ…。
お願い二人して落ち込まないで…。
これ…義勇ちゃんに何かあったらこんなもんじゃすまないよね?
下手すると二人して俺達みんな巻き込んで無理心中くらいしかねない勢いなんだけど…
全面花模様の無駄に明るい室内で無駄に暗く落ち込む先輩たちに善逸は頭を抱えた。
「それ、シャレにならないからやめてください」
無言でうなだれながら作業を続ける実弥と、ず~ん!と地の底まで落ち込む錆兎に囲まれて、善逸は(姫先生、助けて…)と、視線を送ってみるが、普段は読まない空気を自衛の時のみは思い切り読めるらしいカナエに華麗にスルーされる。
ああ、本当に俺ってば大失敗だよ…。
お願い二人して落ち込まないで…。
これ…義勇ちゃんに何かあったらこんなもんじゃすまないよね?
下手すると二人して俺達みんな巻き込んで無理心中くらいしかねない勢いなんだけど…
全面花模様の無駄に明るい室内で無駄に暗く落ち込む先輩たちに善逸は頭を抱えた。
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