一般人初心者ですが暗殺業務始めます13_幼馴染その3プラスα登場

「我妻ぁ、お前一回死んどけばいいんじゃね?」
良い笑顔で…でもポキポキと指を鳴らす実弥に義勇はどう反応していいかわからない。

いや、実弥も義勇に反応を求めているわけではないのは確かだが……。


彼の視線の先には一人の青年。
実弥や錆兎よりはいくらか年下に見える。

義勇が意識を取り戻した時には一面花模様の部屋…もとい、車の中にいて、そのまま有無を言わせず錆兎の宿舎へと連行された。


いわく…優秀な軍人である錆兎は敵軍から目をつけられていて、先刻のバスの強襲はその敵軍の手の者だとのことで…さらに言うなら2人ほどに逃げられてしまい、義勇は錆兎の身内として認識されてしまっているであろうため、一人でいると危険だというのだ。

いや、だからといってそんな自軍の内部に普通に正体の知れない人間を当たり前に招き入れていいのかとか、色々言いたいことはあるわけだが…まずツッコミを入れたいのは、とりあえずと案内された錆兎の部屋にある不思議な小屋だ。


上級将校に分類される錆兎の私的なエリアは広い。
その中でも特に広いらしいリビングの一角にそれは置いてあった。

可愛らしいお菓子の家を模した小屋。
よくある子どものキッズハウスのようだ。

通常の物よりは大きい。
2m×2mくらいはあるだろうか…。


何のために?と首をかしげる義勇と、義勇に被害が及ばないようにとさりげなく義勇を居間の片隅のソファにうながしてお茶を淹れるカナエ。

「あれは不死川君と我妻君のおかえりの挨拶みたいなものだから気にしないでね」
と、疑問は疑問として周りの様子がおかしいのを心配する義勇を余所に、自分も義勇の隣に座ってお茶を飲みながらニコニコと言う。


「う…でも殴り合いが始まりそうな雰囲気なんだが…」
「危なくなったら鱗滝君が身を呈して止めてくれるから大丈夫♪ね?」
とにこやかに言うカナエ。

それに、
「身を呈して…と言うのは全く大丈夫な気がしない」
と顔をひきつらせる義勇。

「あらあら、大丈夫。全然心配は要らないわ。
鱗滝君はちゃんと止めてくれるから…ね?

再度そう言うカナエの、“ね?”という語尾に若干さきほどより力が入っている気がするのは気のせいだろうか……。

「…いざとなったら…な」
錆兎は大きく諦めのようなため息をつきながら、とぼとぼといざとなったら仲裁に入れる位置にと歩を進めた。


「俺は義勇のために色々準備しといてって言ったと思ったんだけどな?」

ぶおぉぉ~と黒いオーラをまき散らしながら怖い笑みを浮かべる実弥に、善逸は首をぶんぶん横に振る。


「いや、でもですねっ、俺のとこに宇髄さんから来たメールは、
『錆兎がまたなんか拾ったらしいから準備しとけ』だったんですよ?
今まで俺が覚えてる限りでは猫、うさぎ、小鳥、リス、アライグマまでで、人間はさすがになかったじゃないですかっ!

その後の追伸も
『ちなみに大きさは…14、5歳の子どもくらいらしいから』だったんですよ?
本当に14、5歳の子どもだと思わないじゃないですかっ!
今度は子馬あたりかな~って思ったのも仕方ないでしょっ!!」

「仕方ないじゃねえっ!きちんと確認しろぉっ!このドアホっ!!」

「アホはないでしょっ、アホはっ!
宇髄さんが出先だからって俺だって忙しい中一生懸命準備したんですよっ!」

「一生懸命でこれかぁっ?!
そんな残念な脳みそならいったんシェイクした方がいいんじゃねえかぁっ?!」

「や~め~て~!!!」


そう…錆兎が愛玩対象を拾うのは初めてではない。

そして…大抵の場合は出先で見つけて弱っているソレをカナエか実弥が手当や治療をし、連れて帰るまでに宇髄…の弟子の善逸が飼うために必要な物品を揃えるというのは、もうほとんどお約束だったのだ。


今回も当たり前に何か動物を拾ったのかと思った…というか、普通に人間を拾ってくるなどとは思ってもみないじゃないか。

それならそれで“大きさは14、5歳の子どもくらい”じゃなく、ずばり“子どもだから”と言って欲しい。


そもそも…錆兎はとにかくとして、実弥まで当たり前に気にしてないのだが、宿舎とは言っても軍の内部に身元が不確かな人間をそんなに簡単に入れて問題がないと思っているのだろうか…。


伊達に長年つるんでいるわけではない。
準備の方向が間違っていた事だけでなく、そのあたりの善逸の疑念もなんとなく肌で感じ取っているのだろう…錆兎は不機嫌だ。

しかし逃げる善逸の襟首を実弥が掴んだ時、さらに振り上げたもう片方の手を錆兎は掴んだ。


「おい…やめとけ、実弥。
お前、俺の言った事聞いてなかったわけじゃないよな?
いきなり暴力沙汰なんて見せて、義勇が発作でも起こしたらどうするんだ」

その言葉にピタっと動きを止める実弥。
そこで恐る恐る自分の襟首を掴む実弥の手を外して、善逸は錆兎に視線で問いかけた。

「あ~、義勇は重度の心臓病患者なんだ。
心身ともにストレスやショック与えないでくれ。
元ホワイトアースの入院患者で、カナエの妹と同じ病気だ。
…術後すぐくらいだから、あと2年が勝負だからな」

珍しくも複雑な表情の錆兎。

「あ…ああ…そうなんだ。気をつけますね…」
少し伏し目がちに告げる彼に、善逸は気まずそうにそう返答する。


なるほど、カナエじゃあるまいし錆兎や実弥がそんなに考えなしに内部に身元が不確かな者を入れるはずがなかった。

そのカナエだっておそらく…亡くなった実妹と同じ病気ということで、若干思い入れのようなモノもあるのだろう。
そう言えば実弥も今回は随分と親身になっている気がするが、そのせいだったのか…。


「じゃあとりあえず早急にゆっくり休めるベッド入れないとですね。
部屋は錆兎さんの寝室の隣の空き部屋使っていいですね?」

そうと分かってしまえばなんのかんの言っても善逸も上司の宇髄と一緒で元々世話好きでマメな男だ。
即頭を切り替えて、必要な物品をリストアップしていく。

「ああ、頼む。いくらかかってもかまわないから、俺の口座から落としといてくれ」
と、言う錆兎に

「了解了解。任せといておいてください」
と、軽く請け負うと、メールで次々注文をしていった。


「やっぱり…元気にしてあげたいよねぇ…」

本人のためというよりは、助けられなかった実妹の二の舞にさせたくないという、いつもよりは少しばかり深刻な気分でいるように見えるカナエとそれを気遣う実弥。

そして自分が気にかけて拾ってきた錆兎だけではなく、上司で師匠の宇髄の3人の幼馴染が皆気にかけているのを知って、善逸が呟く。

こうして他とは若干違う理由からであったにしても、もう一人、協力者が加わった。

実はスパイである天使様をスパイから守る…そんなおかしな目的のために……。



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