…そう名付けた彼女の愛車は彼女個人のモノである。
そう…車の側面にはカナエの描いた、花が飛び交う中で笑顔でピースサインを出している自分と実弥の絵。
軍の備品をよもやそんな痛車にできるわけはない。
だが“私と不死川君のお花さん号”は、みかけの痛さとは裏腹に、彼女の趣味で移動病院のように改造されているなかなかお役立ちな車だ。
備え付けられた二段ベッド。
冷蔵庫には各種薬品。
医療品が入った棚ももちろんある。
内装が一面花模様な事を除けば、立派な簡易病院だ。
給料の半分以上をつぎ込んで日々医薬品を常備し、車の改造に勤しむカナエ。
休暇ともなればそれにのって戦闘地域の村々を周り、無償で病人や怪我人の治療に勤しむ。
自身も戦災孤児で、幼い頃にたまたま村を訪れた軍の総帥だった産屋敷耀哉に拾われ教育を受けさせてもらい今に至るわけだが、彼女曰く
「産屋敷総帥は私にしてもらわないと困る事なんて何もないでしょう?
だから私は受けた分の恩は今それが必要な人たちに返すの。
で、私がその人達に恩とか返してもらう必要はないから、その人達はまたその人達の手が必要な奴に返せばいいと思うわ。
そうやって皆が誰かのために善意の手を差し伸べ続ければ、いずれは広い地球をぐるっと一周回る時がくるかもしれないでしょう?」
世界中の人達が…なんなら敵軍の人も含めて仲良く幸せになって欲しい。
自身の親を敵軍に殺されてなお、笑顔でそういう彼女の言葉や気持ちは実弥には全く理解できなかった。
だが、そんな彼女の優しい心根が傷つけられなければいいと、それを聞くたび心の底から思う。
それはカナエの意志から逸脱しているのだろうが、カナエを傷つける者がいるなら彼女が気づかないうちに排除してやりたいと思っていた。
今回も休暇の彼女に随行してボランティアに勤しんでいた実弥の元に友人の宇髄から連絡があったのは昨日だ。
いわく…
「なんだか錆兎の奴に敵さんがちょっかいかける計画があるらしい。
ま、やつなら大丈夫だとは思うんだが、中立地帯ウロウロしてっから武装してねえしな。
一応様子見に行ってやってくれ」
彼と錆兎もカナエと同様に幼い頃に耀哉が拾ってきた才能ある子どもの一人で、こちらは諜報部に所属している。
実弥も同様で、そんな風に耀哉が拾ってきた才能ある戦災孤児達は軍の養育施設で一緒に育っているため他より絆が深く、実弥が兵士として最前線に出るのが厳しくなった時にカナエが自身と一緒に前線に出る医師に誘ったように、何かと気にかけて協力しあっていた。
「あいつは殺しても死なねえ奴だからいいけどよぉ、中立地帯ってえと一般人巻き込みかねねえなぁ。しょうがねえ…行くか~」
元々気ままにあちこち回ってたのだが、そんな実弥の一言で、カナエは行こうと思っていたコースから外れてシーライトからサンルイに向かう道へと進路を変えた。
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