一般人初心者ですが暗殺業務始めます10_姫先生

「なぁ…これ大丈夫なのかぁ?!」

どこまでも続く広い道をありえないスピードで疾走する車。
その助手席で手すりを握り締める不死川実弥。

「錆兎んとこにたどり着く前に車がひっくり返って俺達が死にそうな気がするのは俺だけかぁ?!」

顔をくっきり横断する大きな傷痕のせいで周りに怖がられる実弥が助手席で厳つい顔を引きつらせながら怒鳴るのにも全く臆することなく、それどころかに運転席の美女はふふっと愛らしい笑みさえ浮かべて

「大丈夫っ!!もし車がひっくり返ったら不死川君が起こしてくれるでしょう?
と、無茶ぶり発言をする。



天然で無邪気でどこかお育ちの良さが滲み出ていて優しく美しい軍医、胡蝶カナエ。
そんな諸々からついたあだ名は姫先生

その、最前線だろうと弾丸が飛び交っていようと笑顔で駆け抜ける彼女を護衛するのは怪我で第一線を退いてなお、そんじょそこいらの兵よりは強そうでおっかないと評判の強面の医療助手だ。

美女と野獣、天女と鬼など色々揶揄されながらも、そんなコンビであちこちを飛び回っている。

2人が乗っているのはガッタンゴットン本来はこんなスピードで走らせる車種ではない救急用の車。
それが舌を噛みそうな勢いで車体を揺らしながら一歩間違えば霊柩車になりそうな勢いで走っていた。
それでも運転席のドライバーは楽しげに歌など歌っている。

「胡蝶…こんなだから別嬪なのに嫁の貰い手ねえんだよ…」
安全運転をさせるのは諦めて小さくため息をつきながらそう言う実弥。

それにカナエはにっこりと
「あら、不死川君はそんな私が好きでしょう?
などとのたまわる。

ちげえっ!どうしてそういう発言になる?!
…と、言いたいところだが、当たらずとも遠からずなので、実弥はせめてもの抵抗に口を閉じた。



この姫先生、美人なだけではなく、腕の方もかなり良い。
自軍の中でその名を知らぬモノはいない優秀な外科医だ。

ただし…その性格に難ありという事でもとても有名な……。


元々は出世街道まっしぐらだったカナエがコロンとそこからドロップアウトしたのは、当時の中将様のご子息様に随行して戦場をかけめぐっていた時だった。

危険な戦場で名をあげさせたい…そんな偉いさんの無茶な希望で、決して怪我をさせてはならない、無事に返さないといけないお坊ちゃんを配属された最前線の部隊は混乱を極めていた。

そこでお坊ちゃんのお守役の一人に抜擢されたのが、当時はまだ現役だった不死川実弥だ。


軍人として優秀な彼なら、万が一の事があってもなんとかするだろう…そんなはた迷惑な理由で配置されたのだが、軍人の仕事は子守ではない。
敵を倒すことには長けていても実弥には世間知らずのお坊ちゃんの暴走は止められない。

待てっ!というのに功を焦って敵のど真ん中に特攻し、当たり前の一斉砲火。
その時に文字通り肉盾となってなんとか撤退。


お坊ちゃんは腕に一発かすめたくらいで済んだのだが、実弥は足に重傷を負って、それが元で第一線を退くこととなった。

その時に撃たれた、血が出た、早く手当しろと叫ぶお坊ちゃんを放置で重傷だった実弥の手当を優先したのがまず気に触ったらしい。
それでもその後軽傷のお坊ちゃんを手当して本部まで撤退。

名誉の負傷を負いながらも生還したっ、さすが我が息子!と手放しで褒めるバカ親に

「そのおバカなお坊ちゃんの暴走のおかげで優秀な軍人が大怪我をして、しないでいい撤退することになったんですよっ?」
と、素直に言ったのもまずかったらしい。

それがトドメで出世街道から見事脱落。
しかし本人はあまり気にする様子もなく現場を駆け回っている。

むしろその時の怪我が元で日常生活には問題はないがもう全力で走るのは無理と第一線を退くことになった不死川を、それなら戦場で敵を退けることもできる最強の医者を目指しましょう!と助手につけて、パワーアップした感じだ。

いまでは【腕はいいのに非常に残念な迷医】と言う名で名を馳せている事だけが本人の不満の種である。


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