一般人初心者ですが暗殺業務始めます7_優しい破壊者

見せられた写真はとある兵士が命がけで取ってきたものだった。

レンズ越しに写されたそれでさえも、その戦場にいた自軍の兵士の恐怖はいかばかりだっただろうと推測されるほどの恐ろしさ。

長い宍色の髪を無造作に紐でしばり、鋭い光を放つ藤色の瞳はまるで獲物を前にした肉食獣のソレで…その腕には血塗られた大ぶりのナイフ。

銃器や戦車、戦闘機など、近代的な機械が多くなってきた中で、飽くまで身一つの原始的な戦いでもそれに匹敵どころか、それを超える破壊力を持つのが恐ろしい。
この生身での驚異の戦闘力が様々な予測を狂わせた一番の要因である。

今まで戦場と言うのはあくまでディスプレイ上のデータとして存在するもので非常に平面的なものと認識していたがゆえに、現実世界で実際に起こっているであろう現場を取ったその写真は、義勇にとって非常に衝撃的なものだった。

ましてやその恐ろしい破壊者と実際に接触しなければならないどころか、自分の手で葬らなければならないと言われた時の恐怖ときたら、言葉もでなかった。


……はずだったのだが……

「ほい。義勇の分も買ってきたぞ。冷めないうちに食えよ?」
自分にパンのようなモノを差し出す大きな…でもどこか温かさを感じさせる手。

この手が本当に血塗られたナイフを握っていた手なのだろうか。

「…ありがとう……」
と、義勇が恐る恐るその手から食べ物を受け取ると、空いた手はくしゃくしゃと義勇の頭をなでる。

写真と同じものとは思えないほど優しげな藤色の瞳は義勇が周りの人間を真似てそれをかじると柔らかく笑みの形を作った。
そこにはあの凶悪なまでの殺気は微塵も感じられず、ただただ穏やかな光を帯びている。

バスが途中で立ち寄った街で休憩を取る間、バス停近くの露店を冷やかして歩こうと誘われて義勇が了承すると、
「しんどくなったらすぐ言えよ?無理するなよ?」
と、気遣わしげに義勇の手を引いて、おそらく彼の歩調からすればかなりゆっくり、義勇の歩調にあわせて歩く。

強い日差しや風が義勇に当たらないようにと細やかに立ち位置を変えながら、義勇の興味を引きそうな店に案内していくその姿は、とてもあの写真の男と同一人物には見えない。


あくまで優しく穏やかに…まるで壊れやすい宝物のように大事に大事に扱われているような気がした。
バスに戻ってもまず義勇の体調を気遣い、自分にもたれて休むように勧めてくれる。

これは…本当に自分が殺さなければいけない、あの写真の男なのだろうか?


義勇は混乱した頭でそんな事を考えながら軽く目をつむる。

ソッとかけられる…おそらく男の上着。

こんなに近く人の気配を感じる生活をしてこなかったのだが、人の温かさというのは存外に気持ちがいいものだ。

しかしこれが男の本質であってもなくても、おそらくこんな時間を過ごせるのは目的地であるサンルイで男が休暇を過ごして帰る時まで。

どれだけこの温かさが快適であろうと、この男を殺さなければ義勇には明日がないのだ。


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2 件のコメント :

  1. 義勇さん持たれてます…💦(;^ω^)錆兎さんお持ち帰り案件かしら…

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    1. ご指摘ありがとうございます。
      確かにストーリー展開的にはお持ち帰り案件も間違ってはいませんが(笑)
      ここの部分は単なる誤字です💦

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