いつのまにか眠ってしまった義勇は肩を軽く叩く手によって起こされた。
眠い目をこすりながら外を見るとすでに薄暗い。
食事の時間には起こすと言っていたからもうそんな時間なのかとおもいきや、錆兎の口から出たのはとんでもない言葉だった。
(…あのな…悪い奴らが近づいているようなんだ。
でも義勇の事は俺が絶対に守ってやるから言う事をよく聞いてくれ。
俺が合図したらその上着頭から被って、椅子の間の床に伏せて大人しくしててくれ。
そしたら俺が敵をちゃちゃっと退治するから。
俺が良いと言うまで絶対に起き上がるなよ?)
小声で囁かれるとんでもない話に一気に眠気が吹っ飛んだ。
悪いやつというのはおそらく自軍の暗殺者達で…自分が彼らの事を知らなかったのと同様に彼らも自分の事を知らないだろう。
本来は戦闘禁止の中立地帯であえて行動を起こすと言うことは、おそらく目撃者を残さないために関係者以外皆殺しというのが鉄則で…その関係者以外の中には当然義勇自身も含まれる。
前門の虎後門の狼ではないが、片や自分の正体を知らないので自分を殺すであろう自軍の暗殺者集団、片や自分の正体を知ったら殺すであろう敵軍のエース。
唯一、錆兎が本当に自分の正体に気づいていなくて今後も気づかず勝利してくれれば助かるかもしれない。
が、義勇が見た限り、中立地帯をいうルールを守って錆兎は武器を携帯していないので、武装した複数の暗殺者集団を相手に勝てるとは思えなかった。
ああ、俺も終わったな…と、絶望的な気分で思う。
それでも…あのまま基地内の自室で苦しいことも楽しいこともなく、ただただディスプレイを相手に無為に時間を過ごしていた事を考えれば、たった四日ほどだったが外の生活は楽しかった。
本来は戦闘禁止の中立地帯であえて行動を起こすと言うことは、おそらく目撃者を残さないために関係者以外皆殺しというのが鉄則で…その関係者以外の中には当然義勇自身も含まれる。
前門の虎後門の狼ではないが、片や自分の正体を知らないので自分を殺すであろう自軍の暗殺者集団、片や自分の正体を知ったら殺すであろう敵軍のエース。
唯一、錆兎が本当に自分の正体に気づいていなくて今後も気づかず勝利してくれれば助かるかもしれない。
が、義勇が見た限り、中立地帯をいうルールを守って錆兎は武器を携帯していないので、武装した複数の暗殺者集団を相手に勝てるとは思えなかった。
ああ、俺も終わったな…と、絶望的な気分で思う。
それでも…あのまま基地内の自室で苦しいことも楽しいこともなく、ただただディスプレイを相手に無為に時間を過ごしていた事を考えれば、たった四日ほどだったが外の生活は楽しかった。
特に…ただ己の利害だけのために接触する玉壺と違って、義勇の感情に触れようとまるで家族や友人のように接してくる錆兎とのやりとりは楽しかったなと、今更ながら思う。
どうせ死ぬならその温かい腕の中がいいな…などとまるで子供か少女のような事を思う気持ちが無意識に両手で錆兎のシャツをつかませた。
それに気づくと錆兎は安心させるように笑って、
「大丈夫だ。お前のことは俺が絶対に守るから」
と、ぎゅっと抱きしめてくれた。
温かい…。
とても幸せな気分になる。
しかしそれはそれとして、言っていることは無理だと思う。
いくら強くても錆兎は素手で、相手は多勢で武装しているのだ。
勝てるわけがない…。
すぐそう思って、次の瞬間考えた。
義勇を守ろうとしなければ、錆兎はもしかして生きられるんじゃないだろうか…。
自分が足かせにならなければ…
どうせそばに居られないならいっそのこと逃げて生き延びればいいのに…と、まるで他人ごとのように思った。
勝手なのだが、義勇自身も錆兎を殺そうとしているのに、自分以外が殺すくらいなら生きていた方がいいんじゃないか…などという考えが浮かぶ。
自分を殺すであろう見知らぬ暗殺者の都合と自分に楽しい思いをさせてくれた錆兎の人生…どちらを優先させてやりたいかなんて決まってる。
しかし一人で逃げろ…そう提案してみたら、断固として拒否された。
どうせ死ぬならその温かい腕の中がいいな…などとまるで子供か少女のような事を思う気持ちが無意識に両手で錆兎のシャツをつかませた。
それに気づくと錆兎は安心させるように笑って、
「大丈夫だ。お前のことは俺が絶対に守るから」
と、ぎゅっと抱きしめてくれた。
温かい…。
とても幸せな気分になる。
しかしそれはそれとして、言っていることは無理だと思う。
いくら強くても錆兎は素手で、相手は多勢で武装しているのだ。
勝てるわけがない…。
すぐそう思って、次の瞬間考えた。
義勇を守ろうとしなければ、錆兎はもしかして生きられるんじゃないだろうか…。
自分が足かせにならなければ…
どうせそばに居られないならいっそのこと逃げて生き延びればいいのに…と、まるで他人ごとのように思った。
勝手なのだが、義勇自身も錆兎を殺そうとしているのに、自分以外が殺すくらいなら生きていた方がいいんじゃないか…などという考えが浮かぶ。
自分を殺すであろう見知らぬ暗殺者の都合と自分に楽しい思いをさせてくれた錆兎の人生…どちらを優先させてやりたいかなんて決まってる。
しかし一人で逃げろ…そう提案してみたら、断固として拒否された。
ああ、お前はそういうやつだよな…と、接触を持ってまだ一日なのにそんなことを思った。
やがて暗殺者達がついたのかバスは止まり、錆兎に促されて義勇は座席の間の床につっぷし、上から錆兎の上着をかけられる。
様子は見えないが銃声と悲鳴がひどく近い位置で聞こえた。
出来る事もなくただ頭上の阿鼻叫喚を耳にしながらふと思う。
考えてみれば…自分の正体を知らない相手から見れば自分は十分錆兎の関係者だ。
普通に一撃で殺してもらえるのだろうか…。
死ぬ…その一点については諦めたものの、その前に拷問の末という文字がつくのは勘弁して欲しい。
『全く適正の欠片もなさそうなお前がスパイとして敵地に赴く事になったのは気の毒だとは思う。
これはせめてもの餞(はなむけ)だ。
敵に正体がバレて拷問とか受けそうになったりとかした時には、これ使え。
そうしたら敵はお前に手出しをしなくなるだろう』
外に出る前、疑われないよう手術跡があった方がという事で義勇に開胸手術を施した医者からもらった錠剤。
それがそう言えば今懐の中にあった。
不愛想で感情の読めない男の言う事だったが、試してみる価値はあるかもしれない。
どちらにしてもこれ以上状況が悪くなるとは思えなかった。
もしかしたら自殺用の薬なのかもしれないな…そんな事を思いながら、義勇はその錠剤を口の中に放り込んで、コクンとそのまま飲み干した。
できれば…錆兎の側で死にたいな…そんな事を思いながら……。
もしかしたら自殺用の薬なのかもしれないな…そんな事を思いながら、義勇はその錠剤を口の中に放り込んで、コクンとそのまま飲み干した。
できれば…錆兎の側で死にたいな…そんな事を思いながら……。
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