その声が聞こえたのは丁度バスが出発しようとエンジンをかけはじめた時だった。
弾かれたように振り向いた錆兎の視界に入ってきたのは、荷物を手に息を切らせている昨日の天使。
どうして?!と思うまもなく、
「ちょっと待ってやってくれっ!」
と、運転手に言うと、錆兎はバスを飛び降りる。
バスのステップを駆け降りるのももどかしく一気に飛び降りると、少し離れたところに膝をついている少年に駆け寄った。
「おい、どうしたんだ?大丈夫か?!」
自分も彼の前に膝を付いてそう声をかけると、肩でせわしなく息をしていた少年は顔をあげる。
真っ白な肌。
潤んだような大きく澄んだ青い瞳は昨日と変わらず美しいが、青い顔でぼ~っとしていて焦点があっていない。
顔の前で手を振ってみるが、反応がない。
強い日差しのせいで貧血でも起こしているのかもしれない。
とりあえず涼しい所に…と、錆兎は少年の荷物を運転手に頼むと少年を抱き上げてバスの中に運ぶ。
そして何かあったら面倒をみてやれるように…今だけ…と自分に言い訳しながら錆兎は少年の隣の席に座った。
少年はやはり体調を崩していたようだ。
ぐったりと気を失うように少し眠って目を覚ましたあと、ぽつりぽつりと話し始める。
彼は冨岡義勇という名で、病院ばかり集まった中立の医療地域の出身だった。
どうして?!と思うまもなく、
「ちょっと待ってやってくれっ!」
と、運転手に言うと、錆兎はバスを飛び降りる。
バスのステップを駆け降りるのももどかしく一気に飛び降りると、少し離れたところに膝をついている少年に駆け寄った。
「おい、どうしたんだ?大丈夫か?!」
自分も彼の前に膝を付いてそう声をかけると、肩でせわしなく息をしていた少年は顔をあげる。
真っ白な肌。
潤んだような大きく澄んだ青い瞳は昨日と変わらず美しいが、青い顔でぼ~っとしていて焦点があっていない。
顔の前で手を振ってみるが、反応がない。
強い日差しのせいで貧血でも起こしているのかもしれない。
とりあえず涼しい所に…と、錆兎は少年の荷物を運転手に頼むと少年を抱き上げてバスの中に運ぶ。
そして何かあったら面倒をみてやれるように…今だけ…と自分に言い訳しながら錆兎は少年の隣の席に座った。
少年はやはり体調を崩していたようだ。
ぐったりと気を失うように少し眠って目を覚ましたあと、ぽつりぽつりと話し始める。
彼は冨岡義勇という名で、病院ばかり集まった中立の医療地域の出身だった。
正確には…先天性の心臓病を持って生まれたため両親に見限られてそこにある病院に放り込まれて育ったという。
物心ついた頃からほとんど病室から出た事がなかったとのことで、なるほど世間知らずなのもうなづけた。
「今は…大丈夫なのか?顔色が悪いが…」
事情を知ってしまえば、あらためてひどく心配になってくる。
重病人なのに一人旅なんて危なくないのだろうか…。
まさか…手の施しようのない状態にまでなって、最期に外に出てみたいとかそういう事情なのだろうか…。
色々がグルグル回って自分までも青くなる錆兎に、少年…義勇は少し困ったような笑みを浮かべた。
「今は大丈夫だ。たまたまドナーが見つかって手術したから。
さっきは…外に出るの初めてだったから少し疲れたんだと思う。
心配かけてすまない」
その言葉でひとまずホッとする錆兎。
この子がこんな幼い姿のまま冷たくなっていくなんて想像するだけでゾッとする。
「そうか…。でも気分悪くなったら遠慮なく言えよ?
サンルイまではだいぶあるし」
むしろサンルイに着いても連絡が取れれば…と思うが、今の段階でそこまで踏み込めばさすがに引かれるだろうから、錆兎はもう少し親しくなるまでは待つことにした。
「風が気持良いな。草の匂いがする」
少しだけ開いた窓から入ってくる風に少年の美しい漆黒の髪が吹き上げられる。
「…綺麗だな…」
キラキラと降り注ぐ光を浴びて嬉しそうに窓の外に視線を向ける少年の姿に、錆兎が思わず目を細めてそうつぶやくと、
「そうだなっ。
リゾート地の光景も綺麗だけど…人の手の入ってない本当に自然な風景はもっと綺麗だ」
と、義勇は長いまつげに縁取られた澄んだ青い瞳を輝かせて愛らしい笑みを浮かべた。
どうやら錆兎の言葉を光景に対する感想と勘違いしたらしいが、それについては敢えて指摘しない。
それよりも手の込んだ人工物が尊いものとしてありがたがられる中で、こんなふうに自然を愛する人間が自分以外にいたのか…と、そのことにむしろ感動を覚える。
清らかで…本当に側にいるだけで空気が清浄化されていく気がする。
生きていくために両の手を血に染めて他人の屍を踏み越えて生きてきた事に後悔はなかった。
しかし、もし自分がそこまで貧しくもなく、普通に生きていくのに困らない程度の田畑でも持って生活をしていたなら、もう少しこの少年と交流を持つこともできたのかもしれない…と、それだけは残念に思った。
どんなに少年が心やすらぐ慕わしいモノだったとしても、一緒にいられるのは長くてもサンルイでの休暇の間までだ。
血塗られた軍になど連れていけるわけがない。
自分の関係者として認識されればきっと、あっという間に敵対勢力に狙われて白い羽根は無残にむしられ、儚い命は摘み取られてしまうだろう。
物心ついた頃からほとんど病室から出た事がなかったとのことで、なるほど世間知らずなのもうなづけた。
「今は…大丈夫なのか?顔色が悪いが…」
事情を知ってしまえば、あらためてひどく心配になってくる。
重病人なのに一人旅なんて危なくないのだろうか…。
まさか…手の施しようのない状態にまでなって、最期に外に出てみたいとかそういう事情なのだろうか…。
色々がグルグル回って自分までも青くなる錆兎に、少年…義勇は少し困ったような笑みを浮かべた。
「今は大丈夫だ。たまたまドナーが見つかって手術したから。
さっきは…外に出るの初めてだったから少し疲れたんだと思う。
心配かけてすまない」
その言葉でひとまずホッとする錆兎。
この子がこんな幼い姿のまま冷たくなっていくなんて想像するだけでゾッとする。
「そうか…。でも気分悪くなったら遠慮なく言えよ?
サンルイまではだいぶあるし」
むしろサンルイに着いても連絡が取れれば…と思うが、今の段階でそこまで踏み込めばさすがに引かれるだろうから、錆兎はもう少し親しくなるまでは待つことにした。
「風が気持良いな。草の匂いがする」
少しだけ開いた窓から入ってくる風に少年の美しい漆黒の髪が吹き上げられる。
「…綺麗だな…」
キラキラと降り注ぐ光を浴びて嬉しそうに窓の外に視線を向ける少年の姿に、錆兎が思わず目を細めてそうつぶやくと、
「そうだなっ。
リゾート地の光景も綺麗だけど…人の手の入ってない本当に自然な風景はもっと綺麗だ」
と、義勇は長いまつげに縁取られた澄んだ青い瞳を輝かせて愛らしい笑みを浮かべた。
どうやら錆兎の言葉を光景に対する感想と勘違いしたらしいが、それについては敢えて指摘しない。
それよりも手の込んだ人工物が尊いものとしてありがたがられる中で、こんなふうに自然を愛する人間が自分以外にいたのか…と、そのことにむしろ感動を覚える。
清らかで…本当に側にいるだけで空気が清浄化されていく気がする。
生きていくために両の手を血に染めて他人の屍を踏み越えて生きてきた事に後悔はなかった。
しかし、もし自分がそこまで貧しくもなく、普通に生きていくのに困らない程度の田畑でも持って生活をしていたなら、もう少しこの少年と交流を持つこともできたのかもしれない…と、それだけは残念に思った。
どんなに少年が心やすらぐ慕わしいモノだったとしても、一緒にいられるのは長くてもサンルイでの休暇の間までだ。
血塗られた軍になど連れていけるわけがない。
自分の関係者として認識されればきっと、あっという間に敵対勢力に狙われて白い羽根は無残にむしられ、儚い命は摘み取られてしまうだろう。
そんなことは絶対にさせられない。
そんなことになったらきっと自分は絶対に自分が許せないだろう。
守りたい…。
しかし、この愛おしい存在のために自分が唯一出来る事…それは必要以上に関わらないようにすること…悲しいがそれが現実だった。
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