その後の棒倒しは、高校生組はとにかくとして、中学生は1年生と３年生では体格差が如何ともしがたく、圧倒的に３年の虎寮達の勝利に終わった。
ここからは騎馬戦、その後はスウェーデンリレーと、寮長の強制参加競技が続くので、寮長は体力的に苛酷になっていく。
「さあて、行って来るか…。
炭治郎、姫さんの護衛頼むぞ」
すでに勝敗は見えている棒倒しも中盤に差し掛かった頃、錆兎がそう言って立ち上がると、左右からささっと寮生が来て、仁王立ちする皇帝にサポーターをつけて行く。
まずは胸部。
胸全体を覆う、いわゆる胸甲というやつで、なんだか中世の騎士物語に出てくるような物のように見える凝った細工のものだ。
頭にはヘルメット…ではなく、どう見ても兜。
それもなんだかファンタジー系のゲームに出て来そうな、左右に尖った銀色の獣の耳のような形の飾りがついているものである。
え？え？え？
俺が知ってる騎馬戦と違う？？？
まるで戦争に行く中世の騎士みたいな格好の錆兎に、義勇はポカンと呆ける。
その驚いた様子に気づいた錆兎はどこかいたずらっぽいような…得意げな子どものような、そんな顔でにやりと義勇を見下ろした。
「ああ、姫さんはうちの学園の騎馬戦は初めて見るもんな。
これはそんじょそこらの騎馬戦じゃないぞ。
各寮の寮長達の晴れ舞台だ。
しっかり見といてくれ」
訳が分からないまま、それでもまんまるの目を見開いて錆兎を見あげたままコクコクと頷く義勇の頭をくしゃりと撫でると、錆兎は視線で炭治郎に何か促したようだ。
「俺が説明します」
と、炭治郎がそれを受けて頷くと、どうやら事前に渡されていたらしいメモに視線を落とす。
「藤襲の騎馬戦は寮長６人がそれぞれ騎馬の上になっての直接対決です。
だから騎馬は６騎のみ。
ルールは単純で、寮長が地面に触れたら負け。
最後の１人が決まるまでやります。
点数は１位から６位までの寮別とは別に金銀のグループ点があります。
武器は先が尖っていない物で先端に布を巻きつけた木製の物を一振りまで。
直系が２ｃｍ以下は尖っているとみなされます。
武器自体の長さは問われません。
だから騎馬の馬役は皆完全防備。
寮長も心臓などの急所はサポーター装着を義務付けられています。
あとはそれなりの高さから不安定な体勢で落ちる事を想定して頭を保護するものの装着も義務とされています。
サポータの形状は問わないし見た目の評価点などはありませんが、ある意味寮長の晴れ舞台だけあって、各寮装飾にもそれなりに気合いが入っているとのことです」
そこで少し言葉を切ってチラリと錆兎の方に眼をむける炭治郎の視線にならって義勇もほぼサポーターの装着を終えた錆兎に視線を戻した。
──…かっこい…い……
まるでファンタジーの中の騎士のような格好をした錆兎がそこに立っている。
寮のイメージで作ったのだろうか…
全体的に銀色で、シルエットがシャープな感じだ。
手に持つのはやはり銀色に輝くエストックのような細身の剣。
もちろんルールにのっとって細い部分も２ｃｍで、先端には布のカバーがついている。
鎧と兜にもところどころ、それは錆兎の目をイメージしたのであろう紫のラインストーンがちりばめられていたが、この剣も柄の部分にしっかりと紫のラインストーンが埋め込まれていた。
こうして全てを身につけた状態で最後に寮生が恭しくその肩に羽織らせたマントはやはり銀色で止め具は紫の石。
それをひらりと翻して、
「じゃあ、行って来る。
我が銀狼寮と姫君のために勝利を捧げるためになっ」
と、言うと、錆兎は少し身を屈めて義勇の額にキスを落とす。
そして騎馬役の寮生の高校生達３人を従えて、参加者の待機場所へと移動して行った。
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