寮生は姫君がお好き67_しょげかえる中学生組

藤襲の障害物競争は、ある意味チャレンジ競技だ。
全種目中で一番過酷な競技だけあって、ゴールするだけでかなりの得点が入る。

参加者はほぼ体力や運動能力に自信のある高校生。
それでも実際毎年のようにリタイアする選手が続出している。
にもかかわらず、中学生組が2人とも完走というのは驚くべき快挙である。

しかしながら…その驚異の中学生達は競技終了後、そろってうなだれていた。



「…すまなかった…1位になれなかった……」
身体を小さく縮ませるようにして、しょぼんとうなだれる炭治郎。

え?ええ??

あれ、完走しただけであり得ないレベルですごい事だし、ましてや並みいる体力自慢の高校生を向こうに回して堂々の2位って、とんでもなくすごいことじゃないのか??

と、わたわたと動揺する義勇。
まあ、そうだな、とんでもなくすごいことだ、と、苦笑する錆兎。


それでも…1位じゃなかった…。錆兎は中学の頃から1位になれてたのに……
と言う炭治郎だが、半泣きのその頭を義勇はぎゅっと引き寄せて抱きしめた。

「俺は…大事な俺の盾が折れずに傷一つ付かずにちゃんと手元に戻ってきてくれて嬉しいぞ?
ましてや完走だけでも点数がたくさん入るのに、参加者は2人除いて全員体力自慢の高校生なんて中で2位なんてすごい成績とってきてくれたおかげで、錆兎の分と合わせて銀狼寮は圧倒的にトップだ。
頑張ってくれてありがとう、炭治郎」
飽くまで柔らかくそう言う義勇の言葉を、錆兎が補足する。


「ま、そう言う事だな。
俺と宇髄が同じ点を獲得していて、もう1人の選手、炭治郎が2位、煉獄が5位だから、この競技の獲得点数は圧倒的にうちがトップだ。
さらに金vs銀の勝負という事なら、銀竜が2人ともリタイアした分を差し引いても、高得点の1~3位までは、俺の分を合わせて2人分の1位と2位を取れてて、金側は3位だけだから、銀の圧勝だ。
完走の点数自体が高い競技ではあるけど、3位までと4位以下は加点が圧倒的に違うからな。

あとは…まあ、今までずっとこの競技には出てこなかった宇髄がいきなり自分で出てくるとは俺も思わなかったから。
寮長というのもあるが、寮長の中でもあいつは、身体能力が高校生レベルじゃない。

宇髄が出て来ていたらこの競技での俺の中学時代の連戦連勝はなかったと思う。
だからあいつは気にしないで良い。
実質飽くまで一般の学生というくくりの中なら、お前がトップだ」

錆兎がそこまで言うなら、それに勝とうと言うのが無謀だったのだろう。
確かに…錆兎ですらしない、3mの壁からの飛び降りを当たり前にこなす男だ。

それでも…来年度以降を目指して少しでも近づけるように鍛えねばならないが…今はこれで良しとしよう。
と、とりあえず炭治郎は納得した。



そして同じ頃……

「銀虎の寮生として面目ないっ!!穴があったら入りたい気分だっ!!」
と涙を零すのは銀虎寮の姫君の煉獄だ。

それを寮長である宇髄は内心苦笑しながら眺めている。


割合と過酷な競技の多い藤襲の体育祭の中でも抜きんでてクリアが難しい障害物競技。

出たがるだろうと思ったので、姫君の衣装の中ではスリットがあるため比較的動きやすいチャイナドレスをピックアップしておいたのだが、それでもジャージ姿の一般生徒よりは動きは制限される。

なのに、彼はそれでもトップを取る気満々でいたらしく、完走しただけでたいしたものだと言うのに、こうして悔し泣きをしている。



「あのなぁ…全参加者11人中、ゴールしたのは6名。
順位的には上の方ではないっちゃないが、その服装によるハンデを考えればたいしたもんだぜ?
特に壁、あれは俺ですら本気で尊敬モノだわ。
ウェイト落とすの失敗した状態の体格で、手だけであれ登るってマジあり得ねえ。
握力勝負なら、お前間違いなくトップだからな?」

色々と…なぐさめているのか、フォローになっているのかなっていないのか、よくわからない言葉ではあるが、あまり褒めない寮長の宇髄のその言葉に少し気持ちが上昇したらしい。

「来年は…勝つっ!!
将軍にも宇髄にも負けんっ!!」

と宣言するが、

(え~っと…これは俺に留年しろってことかぁ?
ま、俺が3年生で来年は卒業してるから参加しねえってことをすっかり失念してるところが、ゴリプリだな、これ)

色々突っ込みたいところではあるのだが、実際に口にしようかどうか迷いつつしかし宇髄は結局口をつぐんだ。

理由は…めんどくせ~し?!!

そう、来年には宇髄が居なくても、その時は錆兎がしっかりとライバルしていてくれるだろう。

こうして波乱の体育祭も終盤へ。


あと2,3の競技が終わったら、最後のリレー。
姫君を抱えて走るリレー。

この巨体を持ち上げて走らなければいけない。

そんな問題を目前に控え、来年の事なんて考えてなんか居られない銀虎寮の寮長なのであった。


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