寮生は姫君がお好き62_独占欲

錆兎の大切な姫君の肌は透明で儚げで、どこか脆さを感じる白さだと思う。
手足も肩、腰なども、造り全体が繊細で、強い衝撃を与えれば簡単に壊れてしまいそうだ。

実際自分達では日課になっているレベルの軽い運動でも倒れてしまったりするのだから、その印象もあながち間違いであるとは言えない。

そしてその脆さにひどく惹かれた。
自分が守ってやらねば…そう感じるたび甘美な喜びが心に満ちあふれる。


元々は貴人をお守りする武士だったという先祖の血は、それから千年以上の時を経ても子孫である錆兎の中にしっかり受け継がれているらしい。

もっとも…先祖のそれは恋情を伴うものではなかったかもしれないが…。


そう、自分の気持ちは確かに恋情を含んでいる…と、錆兎はもう自覚していた。
でなければこんなに独占せずにはいられない気にはならない。

いつでも自分が一番でありたいし、自分以外を見て欲しくないし、自分以外に触れさせたくない。

それは本来の武士の精神からはひどくかけ離れたようなものの気もするのだが…


元々は自分で言うのもなんだが、割合と距離感のバランスはある方で、感情に溺れるような事は全くなかった。

好意を持っていても、相手の意志を尊重しながら、互いに適切な距離を置いてつきあう主義で、他人には親切にする一方で、相手は最終的に相手自身の人生を生きて行かなければならないという前提の元、必要なアドバイスは与えてどうしても無理な事は手伝っても、依存させるレベルでの補助は控えるようにしてきたし、逆に相手がこちらに敵意を向けて来た場合でも、自分は自分と流して距離を取る理性もあった。

なのに、姫君に対してだけはその鉄壁のバランス感覚が働かない。

可愛くて愛おしくて、何でもしてやってやりたくなってしまうし、むしろそれで依存させて自分の手の中に閉じ込めてしまいたくなる一方で、自分以外に手を出されると、手を出して来る相手を徹底して排除したくなってしまうのだから困りものだ。

感情のコントロールが効かない。
恋はするモノではなく落ちるモノだというのは、本当に言い得て妙だと思う。


始めの頃はそれでも多少はしていた適度な距離を保とうとする努力など、とうの昔に放棄してしまった。

幸いにして錆兎の姫君は家庭に恵まれず…というより事故で家族を失って、全寮制のこの学園に来たらしい。
こんなに可愛い姫君が天涯孤独の身の上というなら、自分がもらってもいいんじゃないか?
そう思った瞬間に、気持ちは完全に固まってしまったのだ。

──俺は合法的に義勇を手に入れる!

そう、もちろん法に触れない範囲でなら、手を回し策を弄し他を蹴落とす事も辞さないわけだが…それは単に大切な大切な姫君に不安な思い、不快な思いはさせるわけにはいかないからで、本当に姫君のためとなれば、どんな事も辞さないつもりではある。

それはともあれ、とにかくまずはお姫様の心を掴むところからだ。


正直意図的に他人の気を惹こうとした事はない。
周囲からは好意的な感情を向けられる事も多いが、そういう類の事が特に得意なわけでもない。
ただ錆兎のお姫様に関して言うなら、それまでの境遇のせいだろうか。
心配になるほど他人からの好意に弱かった。

錆兎からしたら本当にちょっとした気遣い程度の事で、眼を潤ませてしまう。

そんなところも可愛くて愛おしくて胸がいっぱいになるわけだが、逆に自分以外からの好意に対してもそうかもしれないので、油断できない。

だから姫君の安全を守るため、と、称して、寮長の権限を最大限に使って現在抱え込み中だ。

少なくともお姫様にとって自分が特別な人間になるまでは、過度に他の人間を近づけさせないようにしなければ…と思う。

その代わり、お姫様が不安に心を痛めたりしないように、錆兎以外の好意が直接届いていない事など気づかないくらいに、ドバドバと愛情を注ぎ続けるつもりだ。

こうして錆兎は今日もお姫様が大好きな甘い菓子やフルーツもいっぱい詰め込んだランチボックスを作って、自らの手でその小さな口に運んでやるのである。


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