寮生は姫君がお好き56_茂部太郎、姫君入寮

「来たあ~~~~っ!!!!」
「「何が?」」


中等部から高等部へあがるものの、高校生は寮や部屋その他は変わりない。

今まで自宅通学だった小等部の少年達と若干の外部生の少年が、今までいた高等部の先輩が卒業したあとに入ってくるだけだ。

その中等部の新入生の顔写真はいち早く入寮予定の寮の高校生の寮生に配布される。
そう、副寮長、姫君を選出するためである。


その日は茂部太郎の友人の1人が茂部太郎達の分もまとめて顔写真を受け取って来てくれることになっていたのだが、その友人が、ずらっと写真が並んだ紙を振りかざしながら興奮して叫ぶのに、茂部太郎ともう一人の友人は首をかしげた。

写真の事なら、今日に配布されるのは分かっていた事だし、そんなに驚く事でもない。

なので、明らかに興奮した友人に、2人揃ってそう聞き返したわけなのだが、写真を持った友人は、バッと紙を茂部太郎達の眼前につきつけて叫んだ。


「この上から2行目の左から3番目の子っ!!
アリアじゃねっ?!!
リアルのアリアそのものじゃねっ?!!!!」
「「おおおおお~~~!!!!!!」」



5行5列に並んだ新入生の顔写真。
中には顔立ちの整った少年もいたが、その中でも一際目立った愛らしい顔。

現寮長は、きりりと男らしく精悍な感じの美形だが、その少年は透き通るように真っ白な肌に夢見るように潤んだ大きな青い瞳で幼げな少女のような愛らしさ。

人形のように可憐な顔立ちで髪をサラサラのロングヘアにしたら、茂部太郎達が大好きな【エルサイア・オデッセイ】のヒロインの蒼玉の巫女姫アリアそのままだ。

主人公カインが皇帝になったと思ったら、次はヒロインのアリア登場かっ!!
と、それからの彼らの盛り上がりはすごかった。


自分達はもちろんその子に票をいれる。
新入生の中で群を抜いて可愛いので、他も絶対に入れる、入れない奴は目が節穴なのだろうと思いつつも、万が一を考えて周りにさりげなく誰にいれるかを聞きまくる。

まだよく見ていないなどというやつがいたら、アリア似のその子を推しまくる。

普段は友人以外に自主的に声をかけたりはしない茂部太郎達に寮生は驚きながらも、勧められたその子が実際に抜きんでて愛らしかったので、票を約束してくれた。

こうして中等部の入学式。
例年通りこっそりと新入生を見に行く。


(実物…写真よりもアリアだ~~!!!)
互いに互いをバンバンと興奮気味に叩く茂部太郎達。

この日の夜に高等部生は1人1票を自分がこれぞと思った新入生に投じる。
そして翌朝には集計に入り、その日の午前中には新姫君が決定。

その日のランチタイムに最終的に決定した姫君の名が寮生に告げられ、教師にはその人選が提出されて、新入生には最終日のランチタイムに伝えられる事になっている。

そして…決定っ!!

やったあぁぁ~~!!!
と、飛び上がる茂部太郎達。

銀狼寮の同級生達も小さく可憐な姫君の選出にテンションがあがる。


中等部の新入生は入学式後3日はウェルカム寮にいて、3日目の午後に入寮してくるが、卒のない自寮の寮長錆兎は、発表から入寮までの姫君の護衛を弟弟子の炭治郎にきちんと命じていたらしい。

こうして炭治郎少年に連れられて、茂部太郎達が待ちに待ったヒロインは、主人公たる寮長の部屋へと到着したのである。



せっかくのヒロインなのに、自分達は近くに行けなくていいのか?
普通の人間ならそう思うかもしれないが、茂部太郎は飽くまで白モブである。

頭数としてヒロインに何かあった時の壁の一片としてそこにいる存在で、舞台の中央に立ちたいわけではない。

いや、むしろ立ちたくはない。

だって立ったらヒロインの愛らしさを落ち付いて堪能できないではないか。

ヒロインはイケメンのスパダリに愛されてこそのヒロインだ。

決してヒロインに接触したりせず、認知もされず、ひっそりと空気のように存在しながら、その様子を愛でるモブ、それこそが正しい白モブの姿でなのである。


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