突然訪れた暗闇の中…
ザン!!!と殺気と共に何かが振りかざされる気配に、宇髄は無言で隣に座っていた善逸を片手で伏せさせて、それを特注の腕時計で受け止めた。
キン!と乾いた音がする。
そのあたりで暗闇に慣れて来た目が捉えたそれは、案の定磨き抜かれたナイフだった。
と、同時に多方向からの殺気。
それは見知った人間達から漏れたものではないと瞬時に判断して、宇髄は
「童磨っ!何でも良いから灯りをつけろっ!!」
と、叫びつつ、ナイフを持つ襲撃者の手首を掴んで投げを打つ。
「了解っ!!!」
と、その切迫した言葉に童磨がスマホのライトをつけて宇髄の声の方向へと向けた。
それと同時に村田が弾かれたように消されたランプの代わりにと非常用の懐中電灯をつける。
若干明るくなる室内。
一瞬にして凍りつく部屋。
襲撃者は3年生組以外の金銀2組の1,2年生に向かい4方向に散っている。
金竜寮組は寮長だけではなく、中学生の副寮長である姫君も昨年までの錆兎ほどではないが武道に通じているらしい。
当たり前に不審者を2人で左右両方から押さえつけていて、銀竜寮組は寮長である村田が迷うことなく無一郎を庇って、腕から血を流している。
金狼寮組は伏せさせられたソファから身を起こす善逸が不死川が投げ飛ばした不審者の手から叩き落したナイフを拾いあげて武器を確保すると宇髄にそれを渡して待機。
そして…最後の銀狼寮は……
「童磨っ!何でも良いから灯りをつけろっ!!」
と、叫びつつ、ナイフを持つ襲撃者の手首を掴んで投げを打つ。
「了解っ!!!」
と、その切迫した言葉に童磨がスマホのライトをつけて宇髄の声の方向へと向けた。
それと同時に村田が弾かれたように消されたランプの代わりにと非常用の懐中電灯をつける。
若干明るくなる室内。
一瞬にして凍りつく部屋。
襲撃者は3年生組以外の金銀2組の1,2年生に向かい4方向に散っている。
金竜寮組は寮長だけではなく、中学生の副寮長である姫君も昨年までの錆兎ほどではないが武道に通じているらしい。
当たり前に不審者を2人で左右両方から押さえつけていて、銀竜寮組は寮長である村田が迷うことなく無一郎を庇って、腕から血を流している。
金狼寮組は伏せさせられたソファから身を起こす善逸が不死川が投げ飛ばした不審者の手から叩き落したナイフを拾いあげて武器を確保すると宇髄にそれを渡して待機。
そして…最後の銀狼寮は……
「義勇をどこにやったっ?!!!」
心底顔色を失くした錆兎。
その腕の中からはしっかり抱きしめていたはずの姫君が煙のように消えていた。
しかしながら驚きの色を浮かべているのは襲撃者の方も同じである。
「ちょ…さっきまで自分抱きしめてなかったか?
それなんてイリュージョンだよ…?」
と、動揺の色を浮かべながらもかろうじて口を開くのは錆兎とは同じ銀側の寮長同士という事もあり、それなりに親しい宇髄。
他の寮長副寮長も驚きのあまり固まっている。
「…これは…よもや計画の一環とかじゃないよな?」
錆兎にギロリと殺気じみた視線を向けられて童磨は首を横に振った。
「将軍には…言っただろう?
怪我人を出すような計画はさすがにたてないよ。
というか、こいつらは俺の家の者じゃないよ…」
「でもここ湖上だし。
船に隠れていたということは、誰か手引きしたってことじゃ?
残ってる使用人全員集合で事情聴取したほうがいいんじゃないですか?」
「ああ、それは確かにっ!」
と、呼び鈴に手を伸ばしかける童磨に、待て!と錆兎が制止をかけた。
「…使用人の中に仲間がいるなら、先にこいつら縛っておかないと加勢に入られたらやっかいだ」
その腕の中からはしっかり抱きしめていたはずの姫君が煙のように消えていた。
しかしながら驚きの色を浮かべているのは襲撃者の方も同じである。
「ちょ…さっきまで自分抱きしめてなかったか?
それなんてイリュージョンだよ…?」
と、動揺の色を浮かべながらもかろうじて口を開くのは錆兎とは同じ銀側の寮長同士という事もあり、それなりに親しい宇髄。
他の寮長副寮長も驚きのあまり固まっている。
「…これは…よもや計画の一環とかじゃないよな?」
錆兎にギロリと殺気じみた視線を向けられて童磨は首を横に振った。
「将軍には…言っただろう?
怪我人を出すような計画はさすがにたてないよ。
というか、こいつらは俺の家の者じゃないよ…」
「でもここ湖上だし。
船に隠れていたということは、誰か手引きしたってことじゃ?
残ってる使用人全員集合で事情聴取したほうがいいんじゃないですか?」
「ああ、それは確かにっ!」
と、呼び鈴に手を伸ばしかける童磨に、待て!と錆兎が制止をかけた。
「…使用人の中に仲間がいるなら、先にこいつら縛っておかないと加勢に入られたらやっかいだ」
「…おっけい。じゃ、3年生組縛って回って下さい」
と、2人で相手を拘束している金竜寮の寮長が言うのに頷いて、童磨はテーブルクロスを惜しげもなく切りさくと、宇髄と2人、それで厳重に襲撃者を縛り上げて行く。
その後3人全員を縛り上げた時点で改めて童磨が呼び鈴を鳴らした。
念のため…逃走防止にとドアの所に不死川と錆兎がスタンバっておく。
そうして呼びだされた使用人達。
他の使用人達は何故か縛られている見知らぬ男達にポカンとするばかりだが、1人若い男の使用人の顔から血の気が失せる。
「…何か…知ってそうだな」
と、そのことに即時に気付いた宇髄がそう宣言をすると、ビクッと後ろへ逃げようとするが、ドアの両側に控えていた1年生寮長組に取り押さえられた。
ガタガタとただ震える男。
無理もない。
その左腕をしっかりと拘束している錆兎からはかつてないほどの殺気が溢れ出ている。
「もう他はどうでもいい。うちの姫さんはどこだ?!」
そう言う声は低く、怒りをなんとか押し殺した感じだが、男はただ首を横に振るばかりだ。
「言わないつもりなら…俺にも覚悟があるぞ…」
と、懐から出すナイフ。
ギラリと光るその刃はよく磨き抜かれている。
「いっきに指を切り落とすなんて甘い真似はしない。
指一本一本の爪を削ぎ落とすところから始めるからな…」
と、掴んだ男の手の指先の爪の間にナイフをあてると、男のみならず部屋のあちこちから悲鳴があがる。
それまでいつでも淡々と事態を静観していた金竜寮の姫君さえ初めて蒼褪めて寮長にしがみついた。
「ま、待ってくれっ!!本当に知らないんだっ!
俺は脅されてそいつらを船に隠して乗せて来ただけでっ!!!」
と、申告通り本当にただの一般人なのだろう。
男は泣き叫んだ。
と…その時……どこからともなく冷たい風が吹いた。
ぞわり…と嫌な感覚がする。
それに錆兎だけが気づく。
これは…昼間に白昼夢のようなものを見た時の感覚だ……
――主の…妻に害をなそうとする使用人……それだけで万死に値する……
自分の声とまるで違う声が自分の意志とは関係なく自分の口から発せられた事に錆兎は驚愕した。
ナイフを持った手が自然に使用人の男の首元へ…
「将軍っ!そこまでやったらやばいよっ!!」
と童磨が叫んで立ち上がろうとするが、何か見えない力に押さえつけられたように椅子から立てない。
「…っ!俺じゃないっ!!」
必死に自らの手をコントロールしようとしながら錆兎は叫ぶ。
プルプルと震える手。
見えない力に必死に抗おうと試みる錆兎を嘲笑うように、その錆兎自身の口から
――ほう…私の意志に抗うか……
と、自身とは違う声がまた発せられる。
そうしている間にもじりじりと使用人の男の喉元に近づく手。
くそっ!!とそれでも抗おうとする錆兎。
…こんなところで……と、それは自分に言い聞かせるように発せられた言葉…
「…俺はっ……こんなとこでっ…犯罪者になって捕まるわけには…いかないっ…んだっ!!姫さんっ守れなくなるだろうがーーー!!!!」
パンッ!!!
と、すごい破裂音がして、身体を支配していた何かが離れていく気配がした。
一気に抜ける力。
そのまま床にへたりこみそうになる足を叱咤して、錆兎はなんとかその場に立ち続ける。
どうやら力から解放されたのは錆兎だけらしい。
他はピクリとも動かない。
そんな錆兎の目前にぼんやりと形をつくっていく影。
「…お前…誰だ…。俺の姫さんを攫ったのは、お前か?!」
全身の力が抜けて立っているどころか言葉を発するのも辛いが、自分の辛さなど関係ない。
自分は姫君を守る一振りの剣で…それ以上に重要なことなどない。
気力を振り絞ってそう言って影を睨みつけると、その影はうっすら笑った…ような気がした。
「将軍っ!そこまでやったらやばいよっ!!」
と童磨が叫んで立ち上がろうとするが、何か見えない力に押さえつけられたように椅子から立てない。
「…っ!俺じゃないっ!!」
必死に自らの手をコントロールしようとしながら錆兎は叫ぶ。
プルプルと震える手。
見えない力に必死に抗おうと試みる錆兎を嘲笑うように、その錆兎自身の口から
――ほう…私の意志に抗うか……
と、自身とは違う声がまた発せられる。
そうしている間にもじりじりと使用人の男の喉元に近づく手。
くそっ!!とそれでも抗おうとする錆兎。
…こんなところで……と、それは自分に言い聞かせるように発せられた言葉…
「…俺はっ……こんなとこでっ…犯罪者になって捕まるわけには…いかないっ…んだっ!!姫さんっ守れなくなるだろうがーーー!!!!」
パンッ!!!
と、すごい破裂音がして、身体を支配していた何かが離れていく気配がした。
一気に抜ける力。
そのまま床にへたりこみそうになる足を叱咤して、錆兎はなんとかその場に立ち続ける。
どうやら力から解放されたのは錆兎だけらしい。
他はピクリとも動かない。
そんな錆兎の目前にぼんやりと形をつくっていく影。
「…お前…誰だ…。俺の姫さんを攫ったのは、お前か?!」
全身の力が抜けて立っているどころか言葉を発するのも辛いが、自分の辛さなど関係ない。
自分は姫君を守る一振りの剣で…それ以上に重要なことなどない。
気力を振り絞ってそう言って影を睨みつけると、その影はうっすら笑った…ような気がした。
――子を為さぬ妻でも…守り慈しんでいくか…?
「姫さんの事ならっ…俺の命に換えたって守るに決まっているだろうがっ!
俺はっ、姫さんを守る一振りの剣でっ…姫さんはっ…この世で一番っ大事な…っ…俺の…姫君だっ!!!」
――…よかろう…
叫んだ瞬間に脳内で声がして、視界がグルグル回った。
ものすごい勢いで情報がなだれ込んでくる。
遥か昔…地主の男がいた…。
出自は元農民だが豊かで資産家。
ゆえにいわゆる成り上がり者ではあるが、没落した貴族の家の美しい娘を妻にする事が出来た。
娘は高貴な生まれでありながら、生まれた時にはすでに家が没落していたせいか、貴族にありがちな気位の高さはなく優しく穏やかな性格で、2人は政略結婚ではあるが互いを想いあって幸せに暮らしていた。
…が、男が資産家であったがゆえに、悲劇は起きる。
娘が嫁いできて1年の月日がたつ頃…娘は子を身ごもったが階段から足を滑らせて流産。
結果子を産めぬ身体になった。
男はそれでも娘を愛したが、周りは跡取りがない事を許さない。
なので娘と離婚をせぬ代りに、子を作るための妾をもつことになった。
だが男は妾に手をつけない。
ゆえに…最初の妾は男の親族と通じて離縁され、2人目の妾は別の男と駆け落ちした。
そして3人目は…男が手をつけてこないのが妻のせいだと思い、使用人と共に事故にみせかけて妻を殺害。
だが男にバレて殺された。
そこで男は犯人の片割れである使用人が、実は3人目の妾の実家と通じていて、3人目の妾を妻とするために男の妻が流産をするよう仕組んでいた事を知り、葬儀にかこつけて3人目の妾の実家の親を呼びつけてこれを殺害。
妻を害した者を全て断罪したあとに守れなかった事を悔みつつ妻の後を追った…。
その無念さ悲しさ辛さがドッと脳裏に流れ込んで来て、気が狂いそうになる。
そしてそれが収まった時、錆兎は暗い部屋に居た。
それは昼間…錆兎が引きずり込まれた部屋だった。
しかし昼間感じたような嫌な気配はない。
そこはただ多くの悲しみと悔恨…そして安堵に満たされていた。
静かにたたずむ男…
顔色は青く、疲労の色は濃く…しかし今はどこか安らいだ表情で部屋の奥に視線を向けていた。
――守る任を与えられた者よ…それを超えて守る意思を持つか…?
静かな問い。
それに対して錆兎は一片の迷いもなく頷く。
すると男は穏やかに微笑んだ。
微笑んで
――ならばそれを口にして伝えよ…常に伝え続けよ…それが真に守ると言う事だ…
「姫さんの事ならっ…俺の命に換えたって守るに決まっているだろうがっ!
俺はっ、姫さんを守る一振りの剣でっ…姫さんはっ…この世で一番っ大事な…っ…俺の…姫君だっ!!!」
――…よかろう…
叫んだ瞬間に脳内で声がして、視界がグルグル回った。
ものすごい勢いで情報がなだれ込んでくる。
遥か昔…地主の男がいた…。
出自は元農民だが豊かで資産家。
ゆえにいわゆる成り上がり者ではあるが、没落した貴族の家の美しい娘を妻にする事が出来た。
娘は高貴な生まれでありながら、生まれた時にはすでに家が没落していたせいか、貴族にありがちな気位の高さはなく優しく穏やかな性格で、2人は政略結婚ではあるが互いを想いあって幸せに暮らしていた。
…が、男が資産家であったがゆえに、悲劇は起きる。
娘が嫁いできて1年の月日がたつ頃…娘は子を身ごもったが階段から足を滑らせて流産。
結果子を産めぬ身体になった。
男はそれでも娘を愛したが、周りは跡取りがない事を許さない。
なので娘と離婚をせぬ代りに、子を作るための妾をもつことになった。
だが男は妾に手をつけない。
ゆえに…最初の妾は男の親族と通じて離縁され、2人目の妾は別の男と駆け落ちした。
そして3人目は…男が手をつけてこないのが妻のせいだと思い、使用人と共に事故にみせかけて妻を殺害。
だが男にバレて殺された。
そこで男は犯人の片割れである使用人が、実は3人目の妾の実家と通じていて、3人目の妾を妻とするために男の妻が流産をするよう仕組んでいた事を知り、葬儀にかこつけて3人目の妾の実家の親を呼びつけてこれを殺害。
妻を害した者を全て断罪したあとに守れなかった事を悔みつつ妻の後を追った…。
その無念さ悲しさ辛さがドッと脳裏に流れ込んで来て、気が狂いそうになる。
そしてそれが収まった時、錆兎は暗い部屋に居た。
それは昼間…錆兎が引きずり込まれた部屋だった。
しかし昼間感じたような嫌な気配はない。
そこはただ多くの悲しみと悔恨…そして安堵に満たされていた。
静かにたたずむ男…
顔色は青く、疲労の色は濃く…しかし今はどこか安らいだ表情で部屋の奥に視線を向けていた。
――守る任を与えられた者よ…それを超えて守る意思を持つか…?
静かな問い。
それに対して錆兎は一片の迷いもなく頷く。
すると男は穏やかに微笑んだ。
微笑んで
――ならばそれを口にして伝えよ…常に伝え続けよ…それが真に守ると言う事だ…
そう言うと、す~っと暗闇に消えて行った。
不思議な事にあれほど不吉さを感じた部屋が、今は和やかで温かい。
そうして部屋の奥、ひときわ温かさを感じる古びた天街付きの寝台の上に、錆兎の失せ物は丁重に横たわらされていて、無事その手に返還されたのであった。
不思議な事にあれほど不吉さを感じた部屋が、今は和やかで温かい。
そうして部屋の奥、ひときわ温かさを感じる古びた天街付きの寝台の上に、錆兎の失せ物は丁重に横たわらされていて、無事その手に返還されたのであった。
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