寮生は姫君がお好き37_湖上の幽閉者達

「…船が…動かない…?」

錆兎は遊戯室に降りて行くと、信じたくない話を耳にする事になった。

使用人達が乗って来た、この湖の真ん中にある洋館と陸地を繋ぐ唯一の交通手段である船が動かなくなったと言う事だ。


正直呆然とした。
何もこんなタイミングで…と思う。

しかしすぐ気を取り直した。

おそらくこれは3年組寮長達のシナリオなのだろう。
脅せばきっと退避手段くらいは出てくるはずだ…。

そう思って3年生寮長組の首根っこを掴んで有無を言わさず隣室へと連れ込んだ。


「…あの…錆兎??」

引きつった笑みを浮かべる2人をそれぞれ片手で壁に押し付け、錆兎もにこりと笑みを浮かべる…。

そう…いわゆる目が笑っていない…という笑みを。


「腐っても要人の子息が多数いるわけだから?
“緊急用の”脱出手段がないとは言わないよな?
病人、けが人が出たらことだしな?」

そう、それである。
本気で孤島に閉じ込められるなどありえないだろう。

「今回は…本当に予期しないトラブルで……」

と、言う金虎寮寮長でこの洋館の持ち主である童磨が言うのに、錆兎はスッと笑みを消した。
そして言う。

「うちの姫さんの安全がかかってると思えば、俺は完全犯罪を試みるくらいはやってみるぞ?
そうだな…湖上の洋館殺人事件とかどうだ?」


ひぃ…と3年寮長組が揃って蒼褪めた。
脅しではなく本気だ…と言う事は伝わったらしい。

そこで銀虎寮寮長宇髄がまず折れた。

横の金虎寮寮長の童磨を肘でつついて、

「これ…もうこういう状況になった時点でイベントどころじゃなくね?
全部打ち明けた方がいいって…」
と言う宇髄に童磨も渋い顔で
「仕方ない…よね」
と、頷く。


しかしながら…3年寮長組が全ての種明かしをするつもりになったところで、事態は好転する事はなく、2人の説明を聞いて錆兎は天を仰ぐ事になった。


「…結局…ガチなのかっ!」
「…うん…悪いけど……」
錆兎の言葉に身をすくめる童磨。

そう、船の故障は本当の事だったらしい。


「もともとはね、1年生組を脅かそうって事で、いわくつきの洋館で過去にあった事件とかを話して煽りつつ、1日目の昨日は2年生組がお化けに扮して脅しに行って、今夜は夕食の支度で寮長達が姫君から離れたタイミングで灯りを一斉に消して、姫君達に攫われてもらうって趣向だったんだけどねぇ…。

で、確かにそのために今晩は使用人達を数名こっそりと城内に待機させる予定だったんだけど、帰ったって事にしないとなんで残る?って怪しまれるし、意味ないでしょ?
だから待機組以外は普通に全員乗ってるって見せかけた船で返す予定だったんだよ。

でも船が急に故障したみたいで…。
一応外と連絡は取ろうと試みてみたんだけど、なんだか無線も繋がらないんだ。

でも明日の夕方には帰る予定だから、どうやっても迎えはくるし、水も食料もちゃんと備蓄されてるから、実質俺達の生活は変わらないし、戻れない事以外は不自由はないと思う」


…戻れない事以外は不自由はない……

実際に3階を探るまでなら錆兎もそう思っただろう…。


しかしあの不気味な一件を体験すると、急に壊れて動かなくなった船…助けを求めようにもつながらない無線と、まるで自分達をここに繋ぎとめようとするかのような嫌な要素が多すぎる。

さて…ここで彼らを信用すべきか疑うべきか…非常に迷うところではあるのだが、やはり1人で全てを背負うのは少々辛いレベルか……

一応彼らも要人の子息のなかでさらに寮長選出に勝ち残る人材だけあって、色々な事態に対応する訓練も受けている。

「俺は基本的にはリアリストで他人ごとなら信じないんだけどな…」
と、錆兎はため息交じりに爪痕の残る手を見せながら、さきほどの出来事を語って見せた。


「それは…俺達じゃねえ。さすがに実際に傷を残すような計画はたてねえよ」
と、全てを聞いた宇髄は蒼褪めた。

「わかっている。
というか、どうやっても人為的にやるのは無理すぎだろう。
薬プラスなんらかの装置を使ったにしても、俺があのタイミングであの場へ1人で行く事が絶対条件だ。
誰もそんな誘導はしてないし、薬を盛るにしても朝食の席もランダムだったからな。
俺にピンポイントで盛るのは無理だ。
だからこそ…俺も嫌なんだ。
相手もわからないし、目的もわからない。
俺に矛先が向いてるならそれはそれで仕方ないが、分からない事だらけで姫さんを絶対に守れるって保証がない。
それどころか自分が加害者になりかねないのが恐ろしい」


「…将軍くらいの人間が操られて誰かの首絞めちゃうって…まずいよね……。
意図とせず殺し合いが始まっちゃう可能性があるってこと?」
と童磨も血の気を失う。

「これは……本気でまずい…よね……。
さすがに自分が自分の別荘使って企画したイベントで宇髄や将軍あたりの家の人間が死ねば、俺もただじゃすまない気がするし……」

「どうする?全員に事情話すか?」

「…いや…別にこうなったら責任転嫁する気はないけど……話したらパニック起こらない?
俺達がちょっと脅しただけでもすごいことになってるわけだし……」

「でも少人数でいるのは危険だよな?」
「そうだな…」

蒼褪めた顔で相談し始める3年生組。
周りのメンタルまで考えるのがさすがに3年生だが…

そこで宇髄が

「よし、今晩は全員で遊戯室で楽しくワイ談大会だっ!」
霊なのだとしたらエロだろっ!と言い出したのは、やはりDKだな…と、こんな時なのに錆兎も笑ってしまった。

こうしてその晩は【無礼講、ここだけの話なワイ談大会】を開くことに決定。

楽しく全員でオールナイトする事になった。


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