「お化けでなかったなっ。
錆兎、やっぱりあれってエロい事…なのか?」
晴ればれとした顔で聞いてくるお姫さんになんて答えるべきなんだろうか…と、錆兎は朝っぱらからどこか頭の痛くなるような悩みを抱えつつ首をかしげた。
「あー…エロいこと…に入る…のか?」
微妙に自信がない。
だって別に錆兎的に色っぽい何かがあったわけじゃない。
性教育を受けずに第二次性徴を迎えてしまって戸惑うお子様の処理を手伝っただけだ。
いや…でも出させるところで止めただけで、出せるまでにいたしたことは、普通に女性との性交時と変わらなかった気がするのだが……
「あーうん…まあ入るかもな」
錆兎、やっぱりあれってエロい事…なのか?」
晴ればれとした顔で聞いてくるお姫さんになんて答えるべきなんだろうか…と、錆兎は朝っぱらからどこか頭の痛くなるような悩みを抱えつつ首をかしげた。
「あー…エロいこと…に入る…のか?」
微妙に自信がない。
だって別に錆兎的に色っぽい何かがあったわけじゃない。
性教育を受けずに第二次性徴を迎えてしまって戸惑うお子様の処理を手伝っただけだ。
いや…でも出させるところで止めただけで、出せるまでにいたしたことは、普通に女性との性交時と変わらなかった気がするのだが……
「あーうん…まあ入るかもな」
疑問形を肯定形に変更修正すれば、
「じゃあ、錆兎が言ってたお化けはエロい事が苦手って本当だったんだなっ」
さすが錆兎!とばかりにキラキラとした目でそう言って笑顔を浮かべる姫君。
朝食時に寝不足気味の隣の寮の姫君が口にするお化けの襲来と、その横でそれをなだめていた寮長の眠そうな様子を見て、さらに得意げな顔になる。
そしてその中でどこか気まずそうな顔でこちら側…もっと言うならば義勇の方をチラチラと見ながらやや顔を赤くする村田に気づいて、(なるほどな…そういうことか…)と、錆兎は1人内心事情を察した。
寮長副寮長交流イベント二日目の朝の事である。
昨日の夕食と違って、ひどく騒がしい朝食時…
常にクールな金竜寮コンビは別として、銀竜寮の寮長は寝不足気味の目で姫君に寄りそっているし、人一倍臆病でホラーが苦手な金狼寮の姫君は涙目なのに元気に大騒ぎ。
そしておそらくお化けよりは自寮の姫君に寝かせてもらえなかったのだろう。
金狼寮の寮長の不死川は寝不足気味の目でうんざりした表情を浮かべている。
「…お前らなんだかすげえすっきりしてる感じだなァ」
と、その不死川にため息交じりに言われれば、自分自身はそれほどすっきりしているわけでもない錆兎にしてみると苦笑いだ。
だが、確かに姫君の方は怯えるでも寝不足になるでもなくにこにこしているので、そう見えるのだろう。
そして、重要なのは自分よりも姫君の機嫌である。
「あ~…まあな。
俺達の部屋は“お化け”も脅さずにまわれ右して帰ったようだしな?」
朝食時に寝不足気味の隣の寮の姫君が口にするお化けの襲来と、その横でそれをなだめていた寮長の眠そうな様子を見て、さらに得意げな顔になる。
そしてその中でどこか気まずそうな顔でこちら側…もっと言うならば義勇の方をチラチラと見ながらやや顔を赤くする村田に気づいて、(なるほどな…そういうことか…)と、錆兎は1人内心事情を察した。
寮長副寮長交流イベント二日目の朝の事である。
昨日の夕食と違って、ひどく騒がしい朝食時…
常にクールな金竜寮コンビは別として、銀竜寮の寮長は寝不足気味の目で姫君に寄りそっているし、人一倍臆病でホラーが苦手な金狼寮の姫君は涙目なのに元気に大騒ぎ。
そしておそらくお化けよりは自寮の姫君に寝かせてもらえなかったのだろう。
金狼寮の寮長の不死川は寝不足気味の目でうんざりした表情を浮かべている。
「…お前らなんだかすげえすっきりしてる感じだなァ」
と、その不死川にため息交じりに言われれば、自分自身はそれほどすっきりしているわけでもない錆兎にしてみると苦笑いだ。
だが、確かに姫君の方は怯えるでも寝不足になるでもなくにこにこしているので、そう見えるのだろう。
そして、重要なのは自分よりも姫君の機嫌である。
「あ~…まあな。
俺達の部屋は“お化け”も脅さずにまわれ右して帰ったようだしな?」
と、昨夜解散後にあったのであろうお化け騒動は、もう絶対に先輩寮長達の仕業だと分かっている前提で語れば、
「…すげえ。来る前に追い払ったのかよォ?」
と、わりあいと何に対しても淡々と応じる不死川も目を丸くした。
――正確には…たぶん部屋の前で帰ったんだろうな……
と、それに直接は答えず脳内でそう思って、錆兎は遠い目になる。
そう、昨日は解散まで散々脅されたせいで怯える義勇に『幽霊はエロい事が苦手だって言うよな』と、ワイ談でもして過ごそうかと思って言ったら、それならキスしていればエロいとみなされてこないのでは?といきなり口づけられて、一瞬理性がログアウトして、口づけを深くしたら勃ってしまったらしい。
そのくせ自分で処理の仕方がわからないというついこの前まで小学生だった姫君の処理を手伝ってやったのだが……声がエロかった。
もう、自分がエロい事が苦手なお化けなら確実に風の速さで遁走するエロさ。
おそらく3年生寮長に命じられた村田がそのあたりの時間に来て、勘違いして引き返したのだろう。
まあ…引き返さずにドアを開けて大事な自寮の姫君のあられもない姿なんか見た日には、間違いなく今頃こんな風に和やかに朝食を摂れる状態にはしておかない。
その場で沈めて朝に使用人達が乗ってくる船で緊急入院する事になっているだろうが…
そんな微妙な空気の中で全員揃って朝食。
その後は自由行動。
(…まあ…どうせ怖がらせるために考えた先輩達のデマだろうが……)
と思いつつも、姫君を連れた寮長としては、その身の安全には細心の注意を図らなければならない。
なので、錆兎はくれぐれも…と言いつつ義勇を無一郎達銀竜寮組に預けて、1人、3年の寮長組の話に出て来たバルコニーを調べに出た。
(…ここが…例のバルコニーに続く…開かずの部屋か……)
と、わりあいと何に対しても淡々と応じる不死川も目を丸くした。
――正確には…たぶん部屋の前で帰ったんだろうな……
と、それに直接は答えず脳内でそう思って、錆兎は遠い目になる。
そう、昨日は解散まで散々脅されたせいで怯える義勇に『幽霊はエロい事が苦手だって言うよな』と、ワイ談でもして過ごそうかと思って言ったら、それならキスしていればエロいとみなされてこないのでは?といきなり口づけられて、一瞬理性がログアウトして、口づけを深くしたら勃ってしまったらしい。
そのくせ自分で処理の仕方がわからないというついこの前まで小学生だった姫君の処理を手伝ってやったのだが……声がエロかった。
もう、自分がエロい事が苦手なお化けなら確実に風の速さで遁走するエロさ。
おそらく3年生寮長に命じられた村田がそのあたりの時間に来て、勘違いして引き返したのだろう。
まあ…引き返さずにドアを開けて大事な自寮の姫君のあられもない姿なんか見た日には、間違いなく今頃こんな風に和やかに朝食を摂れる状態にはしておかない。
その場で沈めて朝に使用人達が乗ってくる船で緊急入院する事になっているだろうが…
そんな微妙な空気の中で全員揃って朝食。
その後は自由行動。
(…まあ…どうせ怖がらせるために考えた先輩達のデマだろうが……)
と思いつつも、姫君を連れた寮長としては、その身の安全には細心の注意を図らなければならない。
なので、錆兎はくれぐれも…と言いつつ義勇を無一郎達銀竜寮組に預けて、1人、3年の寮長組の話に出て来たバルコニーを調べに出た。
(…ここが…例のバルコニーに続く…開かずの部屋か……)
と、その部屋のドアに一応手をかけてみるが、しっかりと鍵がかかっていて開かない。
なので隣の部屋のバルコニー伝いに調べようと、その隣の部屋のドアの前に立つ。
そして持参した手袋をはめてドアの鍵を調べようとした瞬間…何故かカチャリ…と、鍵が開くような音がして、錆兎は身を固くした。
あたりに人の気配はない。
寮長副寮長は皆自室か遊戯室。
使用人達も3階には足を踏み入れないと聞いている。
ぞわり…と気温は低くないはずなのに、背に冷たいモノが走った。
…入…れ……
それは自分の心の声なのか、実際何か外部から聞こえた声なのか……
しゃがれたような声が耳元で響く。
ひどく震える身体…。
固まる足……
なので隣の部屋のバルコニー伝いに調べようと、その隣の部屋のドアの前に立つ。
そして持参した手袋をはめてドアの鍵を調べようとした瞬間…何故かカチャリ…と、鍵が開くような音がして、錆兎は身を固くした。
あたりに人の気配はない。
寮長副寮長は皆自室か遊戯室。
使用人達も3階には足を踏み入れないと聞いている。
ぞわり…と気温は低くないはずなのに、背に冷たいモノが走った。
…入…れ……
それは自分の心の声なのか、実際何か外部から聞こえた声なのか……
しゃがれたような声が耳元で響く。
ひどく震える身体…。
固まる足……
それでも何か危険なモノがそこにあるのなら、なおさら確認しないという選択はない。
万が一、自寮の姫君に何か害があるなら大変だ…
「俺は姫君所有の一振りの剣。
姫君を守る義務があるんだ…。絶対に入るぞ」
と、錆兎は幻を振り切るように敢えて小さいながらも声に出す。
するとまるで金縛りのように動かなかった足の圧力が消え、今度はススーっと自然に開いたドアの中に滑るように引きこまれた。
――…え……?
確か今は朝のはずだ……
なのに室内にはランプがともっていて、カーテンの向こう、バルコニーは薄暗い。
――…ここが……本当の場所だ……
またぞわりとした空気と共に聞こえる声。
寒くて…さらに胃がひっくり返りそうな不快感…
ズズーっ!!とまた勢いよく滑って行く身体。
バン!!と開くバルコニーへ続くガラス戸…
ガクン!!とそこで止まってつんのめりかけるが、グン!!と何か強い力に引っ張られるように身体が起こされて、それ以上前にはいかない。
有無を言わさず顔をあげさせられれば、目の前に見える二つの影。
どちらも着物を着た女である。
そして片方の女が妙にとげとげしい様子で目の前のもう一人の女に何か言って手を伸ばし、ドン!とその女を突き飛ばした。
蒼褪める女…ふらりと後ろに倒れ込むと、その身はバルコニーの柵を超えて下へと落下する。
――危ないっ!!!
慌てて伸ばす手は届かない。
万が一、自寮の姫君に何か害があるなら大変だ…
「俺は姫君所有の一振りの剣。
姫君を守る義務があるんだ…。絶対に入るぞ」
と、錆兎は幻を振り切るように敢えて小さいながらも声に出す。
するとまるで金縛りのように動かなかった足の圧力が消え、今度はススーっと自然に開いたドアの中に滑るように引きこまれた。
――…え……?
確か今は朝のはずだ……
なのに室内にはランプがともっていて、カーテンの向こう、バルコニーは薄暗い。
――…ここが……本当の場所だ……
またぞわりとした空気と共に聞こえる声。
寒くて…さらに胃がひっくり返りそうな不快感…
ズズーっ!!とまた勢いよく滑って行く身体。
バン!!と開くバルコニーへ続くガラス戸…
ガクン!!とそこで止まってつんのめりかけるが、グン!!と何か強い力に引っ張られるように身体が起こされて、それ以上前にはいかない。
有無を言わさず顔をあげさせられれば、目の前に見える二つの影。
どちらも着物を着た女である。
そして片方の女が妙にとげとげしい様子で目の前のもう一人の女に何か言って手を伸ばし、ドン!とその女を突き飛ばした。
蒼褪める女…ふらりと後ろに倒れ込むと、その身はバルコニーの柵を超えて下へと落下する。
――危ないっ!!!
慌てて伸ばす手は届かない。
心が引きちぎられそうな苦痛。
…違う…違う…違う…!…
悲鳴…絶叫…真っ赤に染まる視界……
頭を抱える自分の前で、もう一つの影が振り返る。
残された女はまだ若い。
普通なら労わる対象であるはずの彼女を目にして自分が感じている感情は紛れもない憎悪と殺意…。
そんな感情を持つ自分に戸惑いと嫌悪を感じるモノの、自分でも感情が抑えきれない。
――殺してやる……
まるで自分の声ではないような声が喉の奥から絞り出て、錆兎は恐怖のあまり逃げる事もできずに立ちつくすその女の首に両手を回し…力を入れた。
――うっ…わあああああーーーーー!!!!!
声にならない悲鳴。
視界が暗転して…そして目の前には閉まったままのドア。
…え??
…違う…違う…違う…!…
悲鳴…絶叫…真っ赤に染まる視界……
頭を抱える自分の前で、もう一つの影が振り返る。
残された女はまだ若い。
普通なら労わる対象であるはずの彼女を目にして自分が感じている感情は紛れもない憎悪と殺意…。
そんな感情を持つ自分に戸惑いと嫌悪を感じるモノの、自分でも感情が抑えきれない。
――殺してやる……
まるで自分の声ではないような声が喉の奥から絞り出て、錆兎は恐怖のあまり逃げる事もできずに立ちつくすその女の首に両手を回し…力を入れた。
――うっ…わあああああーーーーー!!!!!
声にならない悲鳴。
視界が暗転して…そして目の前には閉まったままのドア。
…え??
と、一度まばたきして確認するも、やっぱり目の前にあるのはがっしりとした木のドアである。
ぞわ…と、気味の悪い感覚が背に走った。
何かが…そう、何か得体のしれないものがそこにある…そんな気配がして、錆兎は2階に戻る階段まで走って離れる。
そうして階段まで辿りつくと、気味の悪い気配は消え、ごくごく普通の夏の日差しと木々の匂いの移ったやや涼しげな風が窓から入り込んでくるのを感じてホッとした。
…なんだったんだ……白昼夢とか…か?
夢にしてはあまりにリアルだった…と、さきほどまで触れていた婦人の首の感触も生々しい両手に視線を落として、そして錆兎は血の気を失った。
手首や手の甲に残る爪痕……それは夢の中で首を絞められて抵抗した婦人がつけたはずのもので……
――夢…じゃない…のかっ?!!
ありえない…そう思うものの、もう一度あの場所に戻って確認する気はさすがに起きなかった。
あんなに恐怖を感じたのは初めてだ。
自分はたいていの事には対応できると自負していたが、その自信がガラガラと崩れ落ちて行くのを感じる。
――ダメだ…逃げよう……
と、思った。
これは自分の手には負えない案件だ。
姫君の身を守るどころか、自分自身の事に関してすらままならない。
そう決意すると錆兎は今回のイベントに関しては姫君の安全を優先するために降りる事にして、それを伝えるために階段を駆け降りた。
しかし事態は錆兎が気付いた時にはもう、引き返せないところまで来ていた事を知って、青くなる事になる。
ぞわ…と、気味の悪い感覚が背に走った。
何かが…そう、何か得体のしれないものがそこにある…そんな気配がして、錆兎は2階に戻る階段まで走って離れる。
そうして階段まで辿りつくと、気味の悪い気配は消え、ごくごく普通の夏の日差しと木々の匂いの移ったやや涼しげな風が窓から入り込んでくるのを感じてホッとした。
…なんだったんだ……白昼夢とか…か?
夢にしてはあまりにリアルだった…と、さきほどまで触れていた婦人の首の感触も生々しい両手に視線を落として、そして錆兎は血の気を失った。
手首や手の甲に残る爪痕……それは夢の中で首を絞められて抵抗した婦人がつけたはずのもので……
――夢…じゃない…のかっ?!!
ありえない…そう思うものの、もう一度あの場所に戻って確認する気はさすがに起きなかった。
あんなに恐怖を感じたのは初めてだ。
自分はたいていの事には対応できると自負していたが、その自信がガラガラと崩れ落ちて行くのを感じる。
――ダメだ…逃げよう……
と、思った。
これは自分の手には負えない案件だ。
姫君の身を守るどころか、自分自身の事に関してすらままならない。
そう決意すると錆兎は今回のイベントに関しては姫君の安全を優先するために降りる事にして、それを伝えるために階段を駆け降りた。
しかし事態は錆兎が気付いた時にはもう、引き返せないところまで来ていた事を知って、青くなる事になる。
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