寮生は姫君がお好き34_食事前の攻防戦

一行が洋館についたのは夕方だった。
なんと館は湖の中央の小島に立っていて、そこまでは今度は船で行く。

(…これ…何かあっても逃げられないんじゃ?)
と、主催の3年組を除いた誰もが思い、青くなった。


これも雰囲気を大切にしたのか、実際にはモーターで動いているらしいのに、ギィィ…ギィィ…と不気味な音をたてて進む船。
おりしも湖は濃い霧に包まれていた。

そして10分ほど進むと霧の中にぼんやりと見えてくる洋館。
長い間手入れをされていなかったというだけあって、周りは蔦に覆われている。

一見廃墟に見えるが、船を降りれば先に来て食事や部屋の準備を整えていたらしい使用人達に迎えられ、そこで一応廃墟ではない事に全員ホッとした。

重厚なドアを通り抜けて城内に入ると、どこかぞわりと悪寒がして、錆兎は大事な自寮の姫君を改めて抱え込むようにその肩に腕を回す。

ここに来るまでに乗って来た飛行機の機内と違ってこちらは本当の火を使ったランプのみが光源で、それも薄気味悪さに拍車をかけた。


案内された部屋はそれぞれの寮の寮長と副寮長で2人一部屋。
まあ…こんな場所で姫君と引き離されても困るので、それは助かる。

もちろん別室ならソファに寝る事になっても同室に陣取るつもりではあるが…。


食事は食堂で。
なのでその前に荷解きをする。
と言ってもおそらく主催側は何か企んでいるだろうし、いくらかは肌身離さず仕込んでおかなくては……

だから置いていくのは失くしても大丈夫なものだけ。

そう決めて錆兎はライターやアーミーナイフ、絆創膏その他最低限の救急道具など諸々をこっそり上着や靴底など色々な場所に忍ばせておいたので、着替えの入ったバッグだけそのまま部屋に置いていく事にする。

「…姫さんは支度良いのか?」

自分は本当にベッド脇に鞄を置くだけなので、錆兎はキョロキョロと室内を落ちつかない様子で見回す義勇に声をかけると、振り向いた義勇に向かって両手を広げた。

最初はなかなか慣れなかった人見知りの姫君も、一緒に暮らし始めて3カ月強、一日のほとんどを一緒に過ごせばさすがに慣れて来て、ホッとしたようにポスンと錆兎の腕の中におさまると、両手を腰に回して抱きついてくる。


怖いのか?と問うまでもなく、見あげるその大きな瞳が如実に不安を訴えているのがわかる。
だから錆兎は安心させるように笑って言うのだ。

「俺から離れなければ大丈夫だ。
俺がいる限り絶対守ってやるから任せてくれ。
何しろ俺は姫さん所有の一振りの剣だからなっ」

そしてそれを聞いて安心したような微笑みを浮かべる義勇をひょいっと横抱きに抱えあげて、
「じゃ、飯行くか。
足元悪そうだからこのまま運ぶな?」
と、上機嫌で部屋を出た。


あらかじめ言われていたように、夕食の時間にはもう使用人は帰っている。
なので隣のキッチンからダイニングまで、料理を運ぶのは1,2年の寮長の仕事だ。

「少しだけ無一郎と待っててくれ」
ちゅっと義勇の小さなの頭に口づけを落として隣の席から立ち上がる錆兎。

そうしておいて、自分と反対側の義勇の隣に陣取っている無一郎に
「じゃ、無一郎、うちの姫さん頼むな?」
と言うと、その頭をポンポンと軽く叩く。


一方で銀竜寮の寮長の村田も

「じゃあ少し行って来るな?」
と無一郎の頭を軽く撫で、

「ということで、うちの無一郎をよろしくね」
と、義勇にニコリと笑みを向けた。


金竜寮は相変わらずクールで

「じゃ、そういうことで~」
「うん、しっかり働いてね~」
とお互いヒラヒラと手を振るのみ。


問題は……

「や~ですぅぅ~~!!!
不死川さん居なくなったら誰が俺を守ってくれんのっ?!!
連れてきたの自分なんだから責任とってよおぉぉーー!!!
姫君の俺を1人で置いていくなんて寮長としてダメでしょおぉぉーー!!」

と、力の限り不死川にすがりつく善逸と
「だ~か~ら~~1人じゃねえだろっ!?隣に行くだけだっ!!!」
と、それを引きはがそうとする不死川の攻防。

「あ~あ…」
と、苦笑する面々。


「笑ってないで助けろっ!!」
と、必死の形相の不死川に言われて、錆兎は仕方なく間に入る事にした。

「お~い、右向け右っ!」
と、両手で善逸の頭をもって右を向かせる。

その向いた先にはぎゅっと互いの手を合わせて寄りそう無一郎と義勇。
2人は急に自分達に向いた矛先に不思議そうな眼をしている。

「特別に銀側の姫さん達に混じらせてやるから、大人しく行ってこい。
このままだとキレた実弥に張り倒されるぞ」
と言われて、ありうる!と思ったのだろう。
善逸は大人しく不死川から離されて、銀側の姫君達に加わった。


そこで善逸の気が変わらないうちに急いで逃げろと錆兎は視線で不死川を促し、それを受けて不死川がキッチンへと駆け込んだ。

それを確認して錆兎と宇髄もキッチンへ。


そんなドタバタな一幕もあったが、まあ夕食は平和だった。

一応寮長達はキッチンに行ったものの、料理はきちんとシェフによって作られていて温めればいい状態だったので、普通に美味しい。

さすがに食事中は空気を呼んだようで、3年生組も特に不気味な話をすることもなく、普通に今後の学園でのイベントや成績の話など、ごくごく普通の会話をしつつ和やかに食事終了。

洗い物は明朝使用人がするということで食器はそのままで、さあ各自部屋に帰ろうと立ち上がった段になって、どうやら始まったようだ。


「ちょっと待て。
危ないから部屋に戻るのは全員で。
俺らは主催だから全員を送ってから戻るな」
と、意味ありげに言う宇髄。

不死川の隣で満腹でご機嫌だった善逸の顔がこの時点で引きつって、お化けより怖い自寮の姫君に不死川の顔も引きつって行く。


「もう幽霊タイムだから…ね。
俺はここに来るの初めてだからまだ見た事ないんだけど、支度をさせた使用人達は見ちゃったみたいでね…中には病んでやめた子もいて、使用人全員ここで夜を過ごすのが嫌だとか言って通いになったから…。
君達も部屋についたら絶対に外に出ないようにね?」

というトドメ。
幽霊に殺される前に金狼寮寮長は自寮の姫君に殺されかけている。

助けてやらないと…と一瞬思うが、ぎゅっと自分の腕を握る小さな手に力がこもった事に気づいて、錆兎はあっさりと同級生を見捨てる決意をして、行きと同様、大事な姫君を抱き上げた。


結局3年生組に救出された不死川。
善逸は銀虎寮の寮長の宇髄にしがみついてはいるが、不死川に対するよりは随分と加減はしているらしい。

歩きにくそうではあるが、宇髄はなんとか下級生のを引きずりながら進んでいた。


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