寮生は姫君がお好き33_機内にて

「今回は学校側に単なる交流イベントとして登録してあるから、一応3日間逃げださなきゃポイントつく系だからね」

飛行機が離陸して1時間ほどたった頃、童磨がにこやかにそう宣言すると、まず嫌な顔をしたのは金狼寮の善逸だ。


「それって…逃げだしたくなる何かをされるってことですよね?」

例えばそれが待遇の面だとか物理的な暴力とかならフリーファイトでの優勝者の寮長と逃げ足だけはピカイチな姫君な自分という自寮はなんとでも出来るという自負がある。
が、問題はホラー的な何かの場合だ。

善逸は何でも怖がる少年だがホラーも苦手だ。

なら来なければ良い…と思わないでもない。

ぶっちゃけ自分が姫君な時点で寮ポイントを稼ぐなんて事はとっくのとうに諦めているので、ポイント自体はどうでも良いのだ。

実際、そうは言っても来てしまえばどうやっても巻き込まれるので、

『今回はもうそれで寮としてのポイントが下がろうと知ったこっちゃないし、不参加決めましょうよ』
と、この話が舞い込んできた時に善逸はそう勧めたのだが、不死川は断固として参加を主張した。


いわく…
『表向きは寮の制度をないがしろにしてるとかいう風に見せたらまずいだろうがぁ』
と、言い放って…。

だが善逸は知らないが不死川の本音としては
(銀の姫君は隠してはいるが本当の女なんだし、男として守ってやらねえとなァ)
で、目的が自寮の姫君ではないどころか他寮の姫君なあたりで、ないがしろにしている感満載である。


よもやヌーブラをつけた義勇の胸を触ってしまったことで不死川が義勇を本当の少女と勘違いしているなどということを想像もしていない善逸は、それでも不死川が義勇に何か特別な思いを持っているために動いていることは薄々感じていた。

そして彼はため息をつく。
ああ、もう本当にため息である。


確かに銀狼寮の姫君は小さく華奢で愛らしい。

アレを見た瞬間、善逸はもともと姫君として名をあげようとは思ってはいなかったが、もう名をあげるどころか姫君を名乗るのもおこがましいからやめようと思ったくらいだ。

つい半年ちょっと前までは小学生をやってました…というのもうなづけるような…むしろまだ小学生ですと言われても納得のいとけなさ。

少女のように長いまつげに夢見るように潤んだ丸く大きな青い目。

本当に頭のてっぺんから足のつま先まで可愛らしさがにじみ出ている日本人形のような美少女と言っても差し支えない。


というか…自寮の強面の寮長様は何故かこの姫君を本当の少女だと思っているふしがある。

そして…その可憐な少女であるところのお姫様を男としては守らねばならないと言う事が彼の学園生活における最優先事項と言わんばかりなのだ。


しかし善逸は寮長様に進言しておきたい。

この学園は男子校だ!と。

つまりは男しか入学ができない。
だからいくら愛らしくとも彼は少年だ。少女ではない。


更に言うなら…よしんば少女だったとしても、もしくはお姫様が少年でも構わないと開き直ってみたとしても、彼にはちゃんとナイトがついている。

それも学園最強のナイトだ。
そう、全校屈指の強さと賢さを誇る模範生の銀狼寮の寮長が完璧に護衛しているのだ。


そんな思いを込めて

「そんなこと言って、実はイベント参加の目的って義勇ちゃんですよね?
でも別にあんたが行かなくても平気じゃないです?」
と思わず本音を漏らしても、

「護衛は多い方が良いだろうがぁ!」
と、あちらからも今度こそもうごまかすことすら放棄した返事が返ってきた。


しかしながら、それがなくとも自分達が前回の姫君制度ガン無視宣言で立場がまずくなったことも、だからなるべく寮関係の諸々は重視しているのだという態度を示さないとやばいのも嘘ではない。
本当のことだ。
だから様々な理由から善逸には拒否権はなかった。

……ということで仕方なく来たわけなのだが、案の定、まだ現地に着く前からいちいちしっかりと脅されて生きた心地がしない。


これ…ほんとに3日間続くの?
と、思うとめまいがする。

「あの…ポイント要らないんで、俺達も脅す側に混ぜてもらっちゃダメですか?」
とダメもとで問えば、3年組からは

「別に俺ら脅したりしないぜ?
今回はただの古城に泊まって交流を深めようイベントだからな」
とにこやかに返されて絶望する。

(あんたら脅す気満々じゃん)
という言葉を飲みこんで、善逸はため息をついた。


善逸の予想を裏切らず、
「で?今回の別荘も何かいわくあるんだろ?」
と、どうやら脅かすためのネタフリをする銀虎寮の寮長の宇髄。

それに金虎寮の寮長で別荘の提供者の童磨が
「ああ…実は古い洋館なんだけどね…子どもができず妾を謀殺し続けた正妻を最終的に夫の地主が結果的に殺したんだけど、その正妻の霊に呪われて自殺して、今でも霊となって出るらしいよ~。
なんだか買ってみて持て余した信者の知り合いがうちの教団になんとかして~って寄付してくれちゃったんだよねぇ」
と、わざとらしく声をひそめて話し始めた。


「昔々ね……その洋館にはとても豊かな土地を持つ地主が住んでいて、その地主が没落はしたがとても高貴な家の娘を妻にしたんだ。
まあ…金が出来れば今度は名が欲しくなるっていうやつだよね。
いわゆる政略結婚てやつね。

ところが数年たっても正妻に子が出来ない。
子が生まれなければ家が滅んでしまう。
だから当たり前に地主は妾を迎え入れたんだって。

そして1人目…数カ月後に子どもを身ごもったとわかった数日後…その側室は3階のバルコニーから落ちて死んだ。
最初は誰もが事故だと思った。
だけどそれからまもなく迎え入れた2人目の妾は、1階のバルコニーに出たところで何故かすぐ側の大木の枝が折れて上から降ってきて、それが頭に突き刺さって死んだんだって。

妾が2人まで死んだところで、この館は呪われているという噂が広まって、相手が見つからず、地主は仕方なく貧しい村娘を3人目の妾として迎え入れたらしい。
そしてその3人目の娘が身ごもった時、地主は目撃したんだ。
正妻がバルコニーで3人目の妾を殺そうとしているところを。

で、止めようと揉み合っているうちに今度は正妻がバルコニーから落ちて死んだ。

これで全てはめでたしめでたし…と言いたいところだが……その夜、地主の様子がおかしくなったんだそうだよ。

ずっと正妻の名を呼んで館中をさまよい歩いて、使用人も自分の子を身ごもっている妾も、みんなみんな殺して回って、最後に自分も3階のバルコニーから飛び降りて死んでしまったんだって。
唯一の生存者だった使用人の1人が言うには、みんなを殺して回っている時の地主の後ろには、血まみれの正妻の姿が見えたらしい。

結局その唯一の生存者もすぐに気がふれて死んで、その後、館は他人の手に渡ったんだけど、みんな夜になると館をさすらう地主の幽霊に怯えて手放して…ずっと放置されてたのを廃墟好きな俺の信者の一人が買い取って必要最低限だけ手を入れたんだけど、それから彼にはおかしなことばかり起こるっていうんで怖くなって、教祖様なら大丈夫でしょうって俺の教団に寄付されたわけ。

まあ…使用人達も夜は滞在したがらないんで、夕食は温めれば良いだけのモノを用意して夕方には帰るし、朝も日が登ってからまた来るから、夕食の盛り付けだけは自分達でね」


銀狼組は錆兎がずっと義勇の耳元で何かを囁き続けているので、おそらく話は何も聞こえていない。
一方で話している最中にすでに善逸に絞殺されそうになっている不死川。

村田は無一郎に震えながら抱きついていて、金竜組は相変わらず通常運転でお茶を飲んでいる。

3年寮長組はそんな4組の後輩達の様子をにやにやと楽しそうに観察していた。


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