寮生は姫君がお好き32_ホラー再びっ

「う…わぁ……村田、これ本当に大丈夫なの?今にも壊れそうだけど…」
と、眉を寄せて自寮の寮長にしがみつく無一郎。

「もちろん。怖かったら目をつむってて。
足元が悪そうな場所があったらちゃんと抱き上げて運ぶから」
と、抱きつかれた銀竜寮の寮長村田は、おそるおそる足を踏み出す自寮の姫君に腕を差し出す。


その横では義勇が無言でそっと錆兎のシャツを掴んだので、

「ああ、姫さん、抱き上げて運ぶから目閉じてて良いぞ」
と、こちらは有無を言わさず錆兎が義勇をひょいっと当たり前に抱き上げて、そのまま何事もないように歩き始めた。



前回のイベントから早2カ月。
学園はすっかり夏の様相を呈していた。
広大な敷地のほとんどが森と言う事もあり、蝉がミンミンと煩く鳴き、暑さをより一層感じさせる。

そんな中で各寮長と副寮長の交流会をしようと言いだしたのは、3年の金虎寮の寮長童磨だった。

代々宗教家の一族で、学生ながらすでに自身がその教祖を務めている彼は、世界中に新しいものから古いものまで数多くの別荘を持っているらしく、この時期に

「暑いし、きもだめしがてらうちの別荘にでも泊まろうよ~」
と言いだすのは、同じく3年の銀虎寮の寮長宇髄いわく毎年の事らしい。

泊まる別荘も誘うメンツも毎年違うらしいが、同学年で互いに優秀なため宇髄とはライバルであり同じクラスだったという彼は、必ずそのメンツの中に含まれていたのだと言う。


『肝試しって言っても別に何やるわけじゃなくてな、単に薄気味悪い雰囲気がある洋館に泊まるだけ。
まあ…年によっては夜に集まって怪談したりするけどな。
あとは基本的には自炊なのが面倒だな。
料理出来ない奴ばっか集まって、ほぼ1人で全員分の飯作らされた事あるし…』
と、苦笑交じりに語る。


一応最高学年の3年の寮長2人が主催となっているこのイベント。

学校側から許可を取ったため、これも寮のポイントに含まれるとなれば、1年2年の各寮長も巻き込まれるしかない。

こうして7月半ば。
無事期末試験も終わり、終業式までは試験返却日に1日登校するだけであとは休みの1週間の中の連休に、童磨が寄越した迎えに寄越した自家用機で場所もわからないその別荘へと、全員連行されて行ったのだった。



虎寮の2人主催なのでタイガー達のミステリーツアーと称された金銀両虎寮寮長が計画したこのイベントは、出資者が有名な新興宗教団体の教祖である金虎寮長の童磨だけあって、迎えの飛行機からして凝っていた。

外側はさすがに普通だが、タラップは表面は古木で、足を進めるたび揺れながらギシギシと鳴る。
もちろんちゃんとそうなるように計算をされて作られているだけで、実際には古いとか脆いとかではないのだが、なかなかに怖い。

主催の3年生の寮長組はちゃっかり自寮の姫君は自寮に置いて来ているが、強制参加の1,2年の寮長は姫君同伴だ。

ということで、姫君が小柄な1,2年の銀寮組の寮長達は姫君を横抱きに抱きあげて階段を登り、2年で不安定な足場を抱えあげてのぼるには少し不安な金竜はしっかりと姫君の手を取った上で落ちたらまず自分が下敷きになるようにと若干先にのぼらせ…最後に1年の金狼寮は………

『いやああぁーー!落ちるっ!!これ、絶対に乗ったら壊れるでしょおぉぉーーー!!!』
と汚い悲鳴をあげる善逸に、それを抱き上げていることで両手が塞がっているので耳を塞ぐことも出来ない不死川は

「うるせえっ!!階段壊れる前に俺の耳が壊れるっ!!
マジ黙らねえと本当に突き落とすぞっ!!」
と、怒鳴りつけていた。


こうして入った機内。
こちらも雰囲気たっぷりに薄暗い。
さすがに機内だけあって実際は電気だが、炎を模した蝋燭の灯りが室内を照らしている。

黒地に金模様の床。
窓は艶やかな地の紅と黒のカーテンで覆われていて、2人掛けの座席は赤いベルベットの布張り。

たまにどこからが、ヴォ~だのゴォ~だのという呻き声のようなものが聞こえるたび、怯える下級生達。

「な、なんだか変な声が聞こえない…?」
とぎゅうっと隣に座る無一郎に抱きつく村田に

「童磨先輩らしい悪趣味さだね…」
と、呆れ顔で答える無一郎。

銀竜寮組は姫君の無一郎よりも村田の方がこの手のことが苦手らしい。


一方で金竜寮の姫君は冷静で
「…凝った演出だね」
と、出された紅茶を一口。
ふぅ~っと美味そうに息を吐き出す。

その横では同じく現実主義者ならしい寮長が少し眉尻をさげて
「まあそうなんだけどな。
少しは可愛く怖がってみようか」
と苦笑する。


銀狼寮はゆったりと自分の腕の中に姫君を抱え込んで、頭を撫でたり髪をいじるフリをしながらさりげなく義勇の耳を塞ぐ錆兎。

「俺達の姫さんは世界一可愛いからな。
お化けにさらわれてしまわないように、俺がこうして抱え込んでおくな?
怖くなったら俺に抱きついてて良いからな」

と、ニコニコ言いながら頭に髪に耳に口づける錆兎に気を取られすぎてただただ真っ赤になって俯く姫君。
羞恥で他の情報が入って来ないようである。


(…錆兎将軍…あんなキャラだったかい?)
(…ん~~あれじゃね?ああやって羞恥心煽ることで怖さを感じさせないようにしてるんじゃね?)
(なるほど…。賢いな)
(それに…)
(それに?)
(他寮ながら、銀狼のお姫ちゃん可愛いしな)
(あー確かに。ちっちゃくって眼なんか零れ落ちそうに大きくて、女の中に紛れても群を抜いた美少女に見えるよね)
(羞恥で涙目になってぷるぷる震えてんのエロ可愛くね?)
(それ…将軍に聞こえないようにね?肝試しのつもりが自分の方が幽霊にされちゃうよ?)
(うあ~、それ笑えねえ)

双方姫君不在のため、並んで座って語り合う3年寮長組。

そしてその視線は最後の一組に……


「あ、ありえないんですけどぉっ!!なんなのっ?!この変な声はっ!!!」
「ぎゃああ~~!!!放せぇぇーー!首っ!首絞めてるっ!!!
てめえ、俺を幽霊の一員にしようなんて野望抱いてたりすんのかあああ?!!!」


タラップに続いて盛大に怖がっている善逸は不死川に抱き着くのは良いが、回した手が思いきり不死川の首を絞めている。

そして…抱きつかれている寮長は、それでも理性で先輩諸兄の前で自寮の姫君を殴り倒してはいけないと、苦しさにうめきながらこちらも手を宙に伸ばしながら叫んでいた。


(これ…なんとかしないと、不死川が死ぬんじゃね?)
(確かに…ちょっと止めるね)
と、童磨はさすがに苦笑いを浮かべて、流している音声スイッチを切ると、その代わりにと音楽を流し始めた。


まあ…今回はいつものただの別荘に泊まって怪談をして過ごす別荘にお泊まりツアーではなく、一応学校が認めた寮長副寮長交流イベントということになっている。

場所は童磨所有の洋館。
個人のイベントとして普通に招いても来てはくれないであろう錆兎を引っ張り出して出し抜くためだけに、学校に交流会として申請したのだ。

内容は例によって肝試しにみせかけたビックリである。

もちろん3年生組が仕掛けるわけなのだが、錆兎を出し抜きたいため…などとわかれば反撃が怖い。
だから主催の3年組以外が全員仕掛けられる側に回ることにしたので、事情を知っている2年生組も内容は知らされていない。

ということで、3年側はとりあえず、脅しやすくなるように事前情報を流す事にする。


そして……
(…不死川…生きろよ?)
と、3年生2人組はさきほどの様子を見て一年の金狼寮の寮長に秘かに同情しながらも、しかけを始める事にした。


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