寮生は姫君がお好き31_新寮長耐久イベント夏の陣

放課後の視聴覚室に4人の男子高生。
3年の金虎寮、銀虎寮、2年の金竜寮、銀竜寮の各寮長達。

一応、学園を代表する文武両道の優等生達。
それが人目を避けるように集まって、にこやかに黒い会談に興じていた。

「ふっふっふ。1年坊主達、絶対にあれで全部終わったと思っているよね」
「だろうなぁ」

「思っててもらわなきゃ困るけどね。そう思わせるためにこんなに日を空けたんだからね」
「だよな。絶対にもう油断しきってるぜ、きっと」

「ほんと、甘いよなっ。俺らは苦労させられたんだ。
今年の1年だけ先輩巻き込んで楽な耐久ですますなんて許さねえ」

「まあ…俺はうちの無一郎をあまり巻き込みたくはないんですけど…」

「そりゃあどこの寮も一緒だろうよ。自寮の姫は巻き込みたくねえ」

「でも…まあ、俺達のフォローもあって乗り越えた前回で、1年坊主達だけが加点されてる分を取り戻すということになれば、話はまた別。寮のポイントは姫のポイントだしねぇ」
「まあなぁ…」

「ともあれ…とりあえず錆兎将軍を出し抜いてみたいねっ!」
「おまおれ」
「やっぱり一番の目的はそこですか…」

「…あとが怖えけどなぁ……」
「………」
「………」
「………」


怖いもの知らずの猛者達…だが、そのほとんどが今年卒業した銀狼寮の前寮長だった本田に戦いを挑んで、何故か彼をもお守りしていた当時の中学生の錆兎に返り打ちにされていた。

寮長はそれぞれに護身術を身につけているし、そもそもが寮長の条件と言うのが成績とその年のお題になった武道で勝ち抜く事だということもあり腕に覚えがある者ばかりなのである。

それなのに、入学当時にはその寮長達よりも二周りくらいは余裕で小さかった中学1年生にコテンパンにのされたのは衝撃過ぎた。


そして、その強すぎる護衛についたあだ名が件の【錆兎将軍】。

その後も寮長達に限らず腕に覚えのある寮生達が挑み続けたが、百戦錬磨。
いまだ勝てた者はいない。

すでに彼も一応一般の中学生の寮生ではなく寮長『皇帝』なのだが、卒業までに一度はなんらかのことで勝ってみたい相手ナンバーワンだ。

…まあ…正面切って挑んでも勝てる気は全くしないのではあるが……


正式な決闘という形で申し込めば申し込んだ側も受けた側も自己責任と言う事で、急所を狙わないというルール以外はルールらしいものもなく怪我も容認というものなので、文字通りボコボコにされる。
降伏すればストップはかけてはくれるものの、それまでの攻撃は実に容赦ない。

もちろん今の寮長達も村田以外は全員、寮長時代または寮長になる前、一度は錆兎に勝負を挑んでいる。

それどころか、なかには年上と言う事もありプライドが邪魔をして降伏宣言が遅れて、半月ほど医療設備が整った保健室で寝たきりで特別授業を受けた猛者もいるくらいだ。

その公明正大な姿勢のため遺恨を残したり嫌われたりする事はないが、勝負を挑んだことのある者は皆その圧倒的な敗北を経験しているので、彼を敵に回す事に恐怖心を覚えていた。

それは現在学園のスクールカーストのトップに君臨する寮長達ですら例外ではない。


――あとが怖えけど……

と、その銀虎寮の寮長宇髄の呟きは、村田以外のあとの2人の脳裏に体育館の床にたたきのめされた時の殺気と物理的な激痛を思い起こさせた。


自然と青くなる顔色。
開かなくなる口。

そこでぽん!と手をうつ金虎寮の寮長童磨。

「ぎ、銀狼寮のお姫ちゃんを巻き込めば大丈夫だよっ!
錆兎将軍はあの子にベタ惚れみたいだしねっ」


前回の新寮長イベントで錆兎が連れていたちっちゃな姫君。

去年までランドセルを背負っていたのであろうその少年は随分と小さく幼く見えて、同性と言うのが嘘のように愛らしかった。

そして…自分たち以上に錆兎が彼を愛らしいと思っているのが何かにつけヒシヒシと伝わってきたイベントだったのだ。


「だよなっ!
本来は5月に行われるはずだったのにきちんと行われなかった新寮長と副寮長でのみ行われる耐久イベントの代わりのイベントだし、それでポイントを取れれば前回の分と2倍ポイントが入るわけだしな。
1年坊主達にしたって悪い話じゃないはずだ」
「うんうん」

(あの子なら丸めこめるっ!)
全員が全員脳内で思った。


「ま、そういうことで…会場は俺が別邸を用意するから、学校への許可申請とか細かい準備は村田君、頼むね」
童磨がそう言って、金銀虎の寮長達が左右からぽんぽんと銀竜寮の寮長の肩を叩いた。


「…嫌な予感しかしないんですけど……」
と、それでもそれほど強い後ろ盾を持たない銀竜寮の寮長村田は政財界の大物を親に持つ両先輩には逆らえず、深い深いため息をつく。

こうして新寮長耐久イベント夏の陣は水面下で着々と準備が行われる事になったのであった。



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