寮生は姫君がお好き28_陰謀と策略の学園2

村田が来たということは、それが錆兎にとって良いことであれ悪い事であれ、きちんとした説明は浮けることが出来るのだろうと錆兎はホッとして詰めた息を吐き出して、そして聞く。

「…今回の諸々について何か知っているのか?
何が目的なんだ?」

「えっとね、僕のその目的自体はそんなにすごい事じゃないんだ。
ただ他人に害されずに平和に楽しく暮らしたいだけ。
それだけ」


不穏な動きがあるのだとしたらあまり義勇と離れたくない錆兎が率直に尋ねた質問に、無一郎はベッドに腰を掛けて足をプラプラさせながら、コテンと小首を傾ける。
そして何でもない事のように言った。


「………」
そんな無一郎にジッと視線を向ける錆兎に無一郎は小さくため息。

「あのね、わかってる。
錆兎だって今のこの状況では完全に僕を信用できない。
だからまず僕の方から秘密を全部晒すよ。
それが公けになったら多分僕は殺される。
だから錆兎がもし僕に協力しようとするまいと、それは絶対に他言無用だよ?
そのあたりの錆兎の良識は信用してるから」

「…わかった……聞くだけは聞く」
「うん。ありがとう」
と、それは珍しく裏の無いホッとしたような笑みをこぼして、無一郎は少し目を伏せて話し始めた。


「最終的に全部話すけど、まず結論。
今回の諸々、たぶんただのイベントじゃない。
人も本当に死んでると思う。
でも当たり前だけど今回のは僕が企んだ事じゃない。

前提として、僕は色々あって今回の学園長の交代劇がすごく不穏な状況の中行われてる事については知ってたんだ。
これについてはあとで話すけど、とりあえず先に今回の事について。

僕は普通にたぶん錆兎達と同じように招待された生徒の1人なんだけど、着いてみたら色々怪しかったんだ。
事前情報も持ってたから僕は余計にそう思っててね、エントランスの甲冑も怪しければ、窓にしろドアにしろ、一度入ったら簡単に出られない仕組みになっているのも怪しいと思ってた。

で、控室。
どこで見られてるかわかんないから単純に退屈しのぎのフリしてあちこち触って回ったけど、銀系の副寮長用の控室に関しては特に仕掛けらしい仕掛けはなくて、用意されてたドリンクにも特に何か仕込まれてるとかはなかった。

ドアに関しては城と一緒で内開きだったから、最悪閉め切って内側から家具とかで押さえれば籠城も出来るしね。
まあ安全地帯だと思ったよ。
だから義勇を引きとったの。

相手が何か企んでて完全に相手側のアウェイでって言う感じだったから、あそこであまり揉めると強硬手段に出られかねないからね。

もちろん義勇に危害加える気は全然?
だって僕は錆兎を味方につけたいって思ってるし、実際そう言い続けてきたでしょ?
将を射んと欲すれば先ず馬を射よって言うしね。
錆兎を動かそうと思ったら、錆兎の大事な大事なお姫様に気に入られるのが一番手っ取り早いから。

これからもそれは変わらないと思うし、錆兎に中立を通りこして敵にまわられたら僕もさすがに終わるからね。
だから安心して良いよ。
下心はあるけど、義勇には絶対に危害加えないし、良い先輩で居続けるから。

というわけで控室ではちゃんと僕が毒見済みのジュース飲みながら錆兎に助けられた時の話とかね、あとは学校の話とか副寮長の話とかね?そんなあたりさわりのない会話してた。
途中で煉獄さんも加わったし。
で、まあ時間になって合流してあの惨劇だったわけなんだけど…錆兎はどう思った?」

「どう思ったってのは?」

「うん、イベントにみせかけてたけど、実は本当に人が死んでると思ったから僕のところへ来たわけでしょ?」

「あー………。
どうせお前も気づいてんだろうけどな。
最後に出て来たバトラー、あれは俺達を城内案内した男だろう?
最初に挨拶に出たバトラーは本当に死んでいて、案内役の男が着替えて入れ変わってたよな」

「…どこで気がついたの?」

「んー…利き手?
最初の乾杯の前にな、案内役は左手でドリンク注いでたから、ああ、左利きなんだなと漠然と思ったんだ。
で、バトラーの乾杯の手は右手。右利きだよな。
で、最後にバトラーの格好して出て来た男は椅子を左手で引き寄せてたから、状況からして、ああ、これはもしかして…と思った。
たぶん…寮長全員にマスク被せたのも、そういう趣向に見せて案内役とバトラーの入れ変わりをごまかすためだよな」

「さすが錆兎、よく見てるね」

「そういうお世辞は良いから。
お前だって気づいてたんだろう?」

「ん~、だって僕は“彼らが”何か企んでいるって前提で動いてそういう前提で観察してたから」
無一郎は飽くまで淡々と続ける。


「これは本当に僕の想像でしかないんだけど…」
「ああ?」
「今回のターゲットは我妻…だったのかなって」
「…根拠は?」
「錆兎も覚えてるよね?
金系の副寮長の部屋にだけ辛い食べ物があって飲み物がなかったって」
「あーそれか」
「理由…わかった?」
「ん。たった今な」

「ふふっ。本当に話が早いね。
そう、たぶんね、普通に姫君やってたらこんな時間にポテトチップスなんてジャンクフードを食べようと思わないでしょ。
特に梅之輔先輩は美意識高いし。
だから、あれは外部生で姫君の自覚もない我妻用でしょ。

で…広間での乾杯も同じく。
寮長にしても副寮長にしても、たくさん飲まないともったいないとか思うような育ち方してる人いないからさ、ジュース飲んでる暇あったら情報交換でしょ。
乾杯のジュースを飲みほしてグラス空にするなんて、喉が渇いてる彼くらいだし…」

「はからずも…義勇と不死川が奴の命救ったってことだな」

「うん。毒はピッチャーのジュースに浮かんだ氷の中だね。
最初みんなに注いだ時には氷の中心部にある毒は閉じ込められたまま。
だから飲んでも問題ない。

でも時間がたったら中央に毒を仕込んだ氷がとけて毒入りジュースの出来上がり。
2回目の乾杯のタイミングでジュースを注ぎ直すのはたぶん彼だけ。
でもって…他にバトラーと卒業生、2人死んでたら、“実は我妻を殺したかった”って言うのもわからないしね。

ターゲットがわからないってことは、暗殺を企んだ相手も特定しにくいし。
たまたま起こった無差別殺人でたまたま犠牲者になったって思わせるつもりだったんだろうね。

まあ…その“たまたま”って言うのが使えなくなっちゃったから、今後警戒されないためにもイベントでしたって事にしちゃったんだろうけど…。
さすがに有力者の子息揃いの寮長全員殺害したらごまかしきかないし特定されちゃうから、巻き込む相手もそういう意味では消えても揉み消せる一般人の元姫君にしたんだろうね」

「ちょっと待てっ!!」
ひどく不安になるような聞き捨てならない事を聞いた気がした。

「ちょっと待ってくれ…つまり…お前の予想だと相手は一般家庭の人間なら巻き込んでも良いと思っているって事…か」

「うん。そうだと思う。
だから僕のところへ来たんじゃないの?」

「…正直そこまでピンポイントで危険だとは考えてなかった…。
単に今回の巻き込まれくらいの感じだと……」

「…結局さ…有力者の家の人間としての危機管理に関しては錆兎は他と比べてもあり得ないくらい出来てるんだけどさ、やっぱり有力な家の人だから、そうじゃない方向性の危機察知能力が少しないよね。
有力者の子息が多数の中で後ろ盾がないって事はそう言う事なんだよ。
今回犠牲者に選ばれた姫君だってさ、普通の家の人だから行方不明になったところでそこまで大騒ぎはされないで揉み消せるし、家族があまりに騒ぐようなら家族ごとね…消されちゃって終わりだと思う」

「…………」

「だから…ね?
僕なら色々見えるし相談にも乗れるし協力も出来るよ?
義勇とだってもう仲良くなれたからくっついててもストレスや不安与えないし」


正直…錆兎自身はそれほど政治や財界で君臨したいという欲求はなく、今現在の実家の維持以上の野望を持つ事もなかったので、世間では裏で画策する輩がいると言うのは知ってはいたが、巻き込まれる事も必要以上に興味を持つ事もなかった。

ゆえに現状圧倒的にデータ不足だ。
だからおそらくそれに通じているらしい無一郎の情報は欲しい。
言ってる事は正論だし矛盾もない。

金持ちの養子になったとは言っても政財界に影響やコネがあったりする実家を持たない義勇の人権が軽んじられる可能性と言うのは否定できない。

もちろん手は尽くす。
これからは情報も集めて備えるつもりではあるが、果たして間に合うのか……

そうは思うものの、あと一歩…あと一歩、自分と義勇の危機管理の一端を任せる相手としては村田はとにかくとして無一郎に対する信頼が足りない。

どれだけ取り繕っても動揺している今は感情など隠せるわけもない。

そう諦めて錆兎は綺麗な形の眉を寄せて、真剣に考え込んだ。


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