寮生は姫君がお好き27_陰謀と策略の学園1

毎年恒例なはずだった新寮長と副寮長の交流会。
いつもとは違う趣向。
殺人事件が起こって自分達も命を狙われているという設定。
結局最後は死んだはずの主催者も普通に出てきてめでたしめでたしだった。

……が……

(本当に…?)
錆兎は違和感を拭えない。


そもそもが城内に入った時から…いや、そのずっと前から、誰かに監視されているような嫌な空気を感じていた。

もちろん姫君に不安な思いをさせるわけにはいかないので、敢えて気付かない何でもないふりをしていたのだが、実際はずっとまとわりつく嫌な空気が気になっていた。


ひどく冷ややかで酷薄な視線。

それがハッキリ自分達に向けられた殺気か何かなら、寮としての評価がどうなろうと、よしんばそれで学園に在籍できなくなったとしても、お姫様の安全にはかえられないので断固として引き返すところなのだが、正直判断しきれず、ついつい流されるまま城内に入って後悔した。


まず扉だ。

内開きの鉄の扉。
中に入って閉まった扉にチラリと視線を向けて確認すれば、ドアノブのような物がない。
ということは、内側からは特殊な仕掛けで無いと開かないと言う事だ。

閉じ込められた…と、まず後悔して、決断を先送りにした自分を呪った。

そしてエントランスに並ぶ甲冑。
姫君が怯えていたこれも、ただの甲冑ではないというのは瞬時に見て取れた。
何かただの空洞ではない気配を感じる。

だが、これもこうなってしまえば今現在、危険な状況かもしれないのに対処しようがないなどと、間違っても姫君には悟らせるわけにはいかない。

それにも用心しながらもなんでもないふりで、案内されるまま二階へ。


そこで寮長と副寮長、別々の控室にと言われた時には当然ながら断固として拒否した。

最悪案内役を人質にとって脅してでも…と、怯える義勇を抱え込んでそう思っていると、副寮長用の控室から出て来た無一郎が言ったのだ。

――あまり拒否するとかえって危険な事になると思うよ?

…と。


時透無一郎。
とても愛らしい容姿をしているが、基本的に他人に対しては塩対応。
言葉がきつくて誤解されやすいが、実は本人にはきついことを言っているという自覚はなく、裏表も悪気もない。

それが彼を知る大多数の人間からする彼の人物評だ。

しかし人物像を深く観察する習慣を持つ錆兎は、彼が表面的に見られているような性格だけの人物ではない事をいち早く見抜いていた。

そして…とても聡い無一郎もまた、錆兎が見抜いた事を即察して、それ以来、しばしば秘かに協力関係を保っている間柄だ。


だからこその彼の本音。

彼自身を心の底から信頼できるかと言えば否だし、彼に大事な姫君を託したいかと言うとこれも否なのだが、彼が今自分と敵対する気が無い事は見て取れるし、今が危険な状態であると言う事を認識した上で、暗に自分は義勇を守れるし、主催の意志にそぐわない行動を取れば危険が及ぶと言われれば、自身の安全等どうでもいいが、義勇の安全のためには託すしかないと思い、託した。

そう、理由はわからないが、自分は確かにあの時の状況を危険だと感じ、無一郎もまた危険だと認識していたのだ。

気のせいではないと思う。
そして…これで危険が終わると言う保証があるわけではない。
そう思うと、放置するわけにも行かない。


…仕方ないな……

「姫さん、今日のお休みの護衛は炭治郎とキツネ達な。
俺はちょっと今後の計画とか相談しに銀竜寮行って来る」

とりあえず可哀想だとは思うが明け方に帰宅後すぐ炭治郎を起こして自分の代わりに義勇の添い寝係に任命し、自分は銀竜寮へ。

もちろん訪ねる相手は無一郎だが、今はまだ薄暗い明け方で、姫君を訪ねる時間帯ではない。

ということで…錆兎はこっそり銀竜寮内に忍びこむと手頃な木を伝って無一郎の部屋の窓をノックする。

すると緊張の連続で寮に着く頃には疲労でフラフラしていた錆兎の姫君と違って、こちらは余裕で起きていたらしい。


「そろそろ来る頃だと思ったよ」
と、笑みを浮かべ、無一郎は窓を開けて錆兎を室内に招き入れた。


「…お見通しか?」
と、驚く様子もない無一郎にため息をついて見せれば

「そりゃあね。大事な大事な自寮の姫君の安全にも関わる事だしね?
錆兎なら絶対に来ると思ってたよ」
と、無一郎はことさら邪気のなさげな愛らしい笑みを返してきた。


中身を知らなければただただ友好的な印象を受けるが、ずっと何か重要なことを隠されているという感じを受ける相手だ。
文字通りの意味になんて捉えようがない。

「今何か淹れるから座ってて?」
と勧められた椅子に腰をかけるも、

「話を聞きたいだけだから、何もいらない。
本題入らせてくれ」
と、飲み物などは固辞する。


「やだな。今日の事があったから?
俺は毒なんていれないよ?」

「…だろうな。
自室で毒殺なんてした日にはさすがに落ちた評判のリカバリは難しいだろうしな」

良くも悪くも感情的になれば飲み込まれる。
錆兎が務めて感情を出さないように淡々と言うと、無一郎は

「ひどい言い方だなぁ」
と言いつつも、それほど気にした様子もなく、軽く肩をすくめて錆兎に寝室には一つきりしかない椅子を勧めてしまったので自分はベッドへと腰を下ろした。


そして

「でもそうだね、僕はどうも言葉で信用を得るのが下手ならしいから。
村田を呼ぶ?」
と、スマホをいじりながらそう聞いてくる。


「いいのか?」
「うん、いいよ。村田が居た方が補足するだろうし考えていること伝わりやすいかもね」
と言いながら、それ以上の返事を待たずに無一郎は村田を呼び出した。

もちろん彼らもリビングその他共有で部屋は隣なので、村田はすぐやってくる。


「無一郎、なんかあった?…って、錆兎??」

入ってくるなり目に飛び込む、ここにいるはずのない人物に村田は目を丸くするも、すぐ何かを察したらしい。

「あのこと話すの?」
と、無一路に聞いた。

「うん。錆兎は銀側の人間だし、人柄も信用できるし…なにより今の僕たちと違って力があるからね」
「…そっか、そうだよな」
「うん」

「ま、そういうことで。
これでやっと交渉の席についてもらえそうだし?」
スプリングの上で小さく足を揺らしながら、無一郎は小首をかしげて窺うように錆兎に視線を合わせる。


落ち着いていそうに見えてどこか不安げで緊張をはらんでいるのがわかる。

それは村田も感じているようで、──大丈夫。俺も補足するからね。…と、ポンポンと宥めるように無一郎の肩を軽くたたいた。


Before <<<  >>> Next (2月16日公開予定)



0 件のコメント :

コメントを投稿