寮生は姫君がお好き23_宴

それからは3人、和やかにおしゃべりに興じる。
実際、今現在の中等部の諸々や姫君の仕事のあれこれなど、なかなか興味深い話が多く、話し混んでいる間に時間はあっという間に過ぎていった。

トントンとノックの音がして、姫君3人で並んで出ると、そこには先ほどの案内係の男がいて、その後ろにホッとした様子の錆兎と、村田、宇髄が立っている。


「義勇、無事で良かった」
と、手を広げる錆兎。
義勇が迷わずその手の中に飛び込むと、ぎゅっと筋肉質な腕で抱きしめられた。

無一郎や煉獄が一緒だったのでこれまで心細さも忘れていたが、こうして錆兎の側に戻ってくると、心の底からホッとする。

そんな義勇達の横では銀竜寮の寮長の村田が少し腕を折り曲げて、無一郎は当たり前に村田の腕に手をかけた。
べたべたするわけではないし村田に対して無一郎はニコリともしないが、とても信頼し合っているのがわかってしまう。

そして最後の一組、最高学年の3年生の銀虎寮は、こちらはもう皇帝と姫君というより、皇帝と次期皇帝と言った雰囲気で、煉獄は姫君としていたというより各皇帝から離れている間の姫君達の護衛していたといった感じだ。


案内の男はそんな風にそれぞれの再会の様子を気にすることもなく恭しく礼をすると、

「大変お待たせしました。
まだ卒業生の白石様がまだいらしておりませんが、時間もだいぶ過ぎましたこともあり、交流の宴を始めたいと主が申しておりますので、広間までご案内させて頂きます」
と、告げて促すように先頭に立ってゆっくり歩き始めた。

それを慌てて追う6人。


(そう長い時間じゃないが大丈夫だったか?心細くはなかったか?)
と歩きながら小声で問う錆兎に、義勇は
(いや?先輩姫君達に色々話を聞いてすごく楽しくて時間がたつのあっという間だった)
と心配性な寮長に伝えたあと、でも、と、錆兎を見上げる。

(錆兎がいなくて寂しかった…。
他の姫君がいるのは楽しいけど…錆兎がいないと寂しい…)

全く他意はなく思ったままを告げる義勇の言葉に錆兎はへたり込みそうになる。

正直、錆兎は色々他より出来る人間だったし、好意を向けられることだって多々あった。
でも義勇の好意というのは何故こんなに胸を打つのだろうか…


(ああ、俺も心配もしていたし寂しかった)
と、思わず抱きしめれば、腕の中で義勇がくすぐったそうにくふふと笑った。

互いに再会が嬉しくてなんとなくテンションがあがってしまって、最初の緊張が嘘のようである。


その隣では無一郎と銀竜寮の寮長が優雅に歓談中だ。
ツン…とした態度の無一郎だが、村田といるとどこか嬉しそうなのがわかってしまう。
そう言えば黒い髪も丸い目も素直でない性格も、どこか黒猫のようだなと義勇は思った。


そんな風に色々考えているのもあって、来る時はあんなに怖かった廊下に立ち並ぶ甲冑もその存在すら忘れるくらい気にならなくなっている。

軽い足取りで一階に降りていくと、先ほどまでは閉まっていた、階段に挟まれるようになっていたドアが大きく開いて、やはり全てランプと松明を中心にした光源のようだが、天井に吊るされた大きなシャンデリアや壁を囲むように設置された灯りのおかげで他の場所よりは随分と明るく感じる広間に案内された。


広間の中央には大きめの丸テーブル。
その上には綺麗に盛り付けられたオードブル各種と乾杯用のグラス。

それにコロンコロンとまんまるの氷の浮かんだグレープジュースらしき飲み物が入ったピッチャーが設置してある。

「全部電気じゃなくて蝋燭やランプだけど、これだけ揃うと明るいし綺麗だね」
とわずかに笑みを浮かべる無一郎に頷く村田。

「まるでおとぎ話のお城の舞踏会みたいだ」
と、姉が持っていた漫画本を思い出して義勇が言うと、
「そうだな」
と、錆兎がそんな自寮の姫君を愛おし気に見下ろしながら同意する。

それだけでも十分空気が明るくなるが、さらにそこに一歩遅れて案内されてきたらしい聞きなれた明るすぎるのを通り越して緊張感がふっとぶような善逸の声。


「喉乾いたあぁぁ!
ポテチを置いておいてくれるのは良いけど、ハラピニオ味の激辛で飲み物がないってなしじゃない?
あ…こっちにはちゃんと飲み物が用意してあるんだねっ!
ごめん、先少し飲んで良いかな?口の中がひりひりして…」

その声に目を丸くして振り向く義勇。
その義勇の横では錆兎が吹きだしている。


善逸達の横に並ぶ金側の寮の寮長や姫君達はそんな善逸に冷ややかな視線を送っていて、不死川は善逸の隣で

──いいけどよォ、お前、そういうことはもっとこっそり言え…
と、呆れ顔でため息をついた。


そこで善逸はようやく金側の先輩諸兄の反応に気づいて気まずげに口をつぐんだが、そんな中、よもやっ!と声をあげたのは煉獄だ。

「金の方には食べ物が用意されていたのかっ!!」
と。


善逸より…というより、他の誰よりもドデカイ声で叫ばれたその言葉に、皆の注目は一気に煉獄へ。
クスクスと冷笑する金寮2,3年生組。

だが煉獄本人は全く気にすることなく、寮長の宇髄も

「生徒の性格とか知ってたら普通逆だよなぁ。
まあ終わったことは仕方ねえ。
交流会が始まったら食え食えっ!
残したら捨てるだけだしエコじゃねえしなっ!」
と、素知らぬふりで笑って言う。


そして村田が
「ちょっと無一郎よろしく」
と、錆兎に無一郎を預けると、自身はテーブルのピッチャーからグラスにジュースを注いで
「ほんと、わざわざ激辛な食べ物用意するあたりが意地悪いよね。
あれば普通食べちゃうだろうし」
と、そのグラスを善逸に渡してやる。

「あ、ありがとうございます」
と、金側の先輩に冷笑されて少し涙目になりかけた善逸が礼を言ってそれを受け取ると、村田は
「どういたしまして。災難だったね」
と、穏やかに笑みを浮かべてそう答えて、無一郎の元へ戻ってきた。


「村田さん…優しいな」
と義勇が思わず口にすると、無一郎は
「まああれくらい当たり前だけどね。
むやみやたらに喧嘩を売ったりしても良い事ないし。
村田は最低限の賢明さは持ち合わせてるから」
と言いつつも、どこか得意そうな顔をする。

普段なら真っ先に動きそうな錆兎は、さきほどから少し何か考え込んでいた。

そして
「…宇髄…」
と、宇髄に向かって手招きをする。

「…あ~、俺もな、ちっと思うところはあるが、いまここで話すことじゃあねえな。
用心はする。
でもって…これが終わったら少し話すぞ」
と、小声で言った。

顔は笑顔。
それでも二人の間には若干の緊張が見え隠れしている。


なんなんだろう?
と、義勇は小首をかしげたが、そこで横にいる無一郎が

「考えるのも用心するのも全部皇帝達の仕事で姫君の仕事じゃないからね。
放置していいよ」
と、アドバイスしてくれるので、義勇はそれに頷いた。


確かに何か問題があるのだとしても、義勇にはどうしようもないことだ。

ともあれ交流会もまずは定番通り乾杯から始まって、案内係が丁寧に右手で一つ一つのグラスにナプキンを添えながら、左手でジュースのピッチャーから各グラスにジュースが注いでいく。

そして全部のグラスにほぼ同量のジュースが注がれ終わると、各自グラスを手に取るように促された。
そこでそれぞれ中央に置かれた大きな丸テーブルの周りに集まってグラスを手に取る。

すると広間の奥、闇から浮き出るように男が1人現れた。


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