寮生は姫君がお好き17_きんきら皇帝とゴリプリと

こうして村田と無一郎と別れると、
「じゃ、ちょっと時間食ってしまったが飯にしよう、姫さん」
と、錆兎はいつもの笑顔に戻ってそう言うと、歩き始める。

これで協力関係にある寮の先輩の一端を垣間見ることができたわけだが、まだ終わりではなかったらしい。
ばいば~いとそれに手を振る無一郎と村田に手を振り返したあと、錆兎がさらに言った。

「とりあえずな、無一郎を見ればわかるが皇帝や寮生と姫君の関係と言うのはそれぞれだ。
あそこの寮は村田が外部生でな、でも奴はなんというか…強い。
物理じゃなくて精神がな。
無一郎は本人はそこまでのつもりじゃないんだが傍から見てるとすごく突き放した言い方をするから並みの護衛じゃ心が折れるが、村田は許容した上で他へのフォローまで入れられるすごい奴だ。
たぶん大人なんだな。
で、今日はこれから3年生の銀虎寮の寮長副寮長と会食予定だ。
寮長の方はちょっと癖があるが面倒見の良い奴で、副寮長はめちゃくちゃまっすぐでわかりやすくて悪気も全然ない…でもゴリプリと呼ばれている少々変わった姫君だ」

…ごり…ぷり?
え?ええ????

「…ご…ごり…ぷりって?」
目が驚きでまんまるくなる義勇に、錆兎はあっさりと言い放つ。

ゴリラプリンセスの略だなっ!」
「…ごっゴリラっ?!!!」


他所の寮の姫君をそんな呼び方をしていいんだろうか…と義勇はびっくりするが、錆兎は明るく笑って

「あ~、呼び始めたのは銀虎の寮長なっ。
腕力がすごい。
たぶん来年度に高等部に進級したら間違いなく銀虎の寮長になるな」
と、続けた。


「あそこの寮は現寮長も元姫君でな、なんかそういうことを見越して選んでいるわけじゃないんだが、何故か中等部で姫君だった奴が高等部で寮長になることが多い面白い寮なんだ」


なるほど。

確かに寮対抗の中でも協力関係を築くことの多い銀の側の寮の顔見せというのもあるのだろうが、錆兎はそれ以上に立派な姫君にならねばと足掻いている義勇に、姫君像は様々で正解はないのだということを見せてくれようとしているのだろう。


清く正しく美しく、そして強く、寮生には親切に寮長とは仲睦まじく…
姫君とはそうあらねばならないと思っていたのだが、必ずしもそうではないらしい。

それでも無一郎を見ると、なるほど、気ままな姫君に振り回される皇帝の図というか、義勇が思い描いていたのとは少し違うが、ちゃんと愛らしい姫君に見えた。
あれが無一郎にあった姫君像なのだろう。


そして錆兎に連れてこられた初日に善逸達と来た中庭。

何組かの学生たちが食事を摂っているが、“姫君”らしい姿は見つからない。

どこだ?どの人が最高学年3年生の銀側の寮の姫君なんだ?
…と、義勇がきょろきょろとあたりを見回していると、

「お~い!錆兎、こっちだっ!!」
と、声が聞こえた。

声の方を振り向いてみると、目を見張るくらい整った顔の体格の良い高校生が手を振っている。
そしてその隣には獅子のたてがみのような雰囲気の色鮮やかな髪をした、やはり体格の良い学生。

錆兎を呼ぶからにはその綺麗な顔立ちの男が待ち合わせ相手なのだろうが、その隣はどう見ても“姫君”ではないだろう。

何かで都合が悪くなって代わりに同行したのだろうか…。


そんなことを思いつつ、手を振り返してそちらに向かう錆兎についていくと、目の前で重箱弁当をむさぼり食べていた同行者の方が顔をあげて、カッと見開いたような目で義勇を見ると、
「君が銀狼寮の姫君かっ!愛いなっ!!」
と、ものすごい音量で言ってきたので、びっくりしすぎて固まった。

それに錆兎と寮長らしき高校生が笑う。

「おいおい、煉獄、声でけえよ。
お姫ちゃんびっくりしてんだろうが」
と、その同行者に苦笑しつつ言うと、今度は立ち上がって義勇の方を向き、

「驚かせて悪かったな。
俺は宇髄天元、こっちは煉獄杏寿郎。
3年生の寮、銀虎寮の寮長と副寮長だ」
と言って手を差し出してくる。

…え……ふく…りょう…ちょう????

反射的にその手を握り返しながらも、思わず煉獄…と紹介を受けた副寮長に驚きの目を向けてしまう。

「あ~、こいつぁもう3年だからな。
1年の頃はもうちっとちっこかったんだが、よく食うし気づけばこれだ。
腕っぷしも強いし来年はたぶんうちの寮長になってっから、仲良くしといてやってくれ」
と寮長の宇髄はそう説明を加えた。

「まあ、前も話したが寮対抗と言っても金銀対抗もあるから金同士銀同士は一つの寮がひどく落ち込むと不利になるからな。
行事で2寮が対峙したとか言う時以外は基本的には信用していい。
というか、ここは姫君も強いから金にちょっかいかけられて銀狼が助けられそうにない時は煉獄の所に逃げておけ」

錆兎が義勇のために椅子をひいてくれながら、そう言うと、

「ああ!任せてくれっ!可愛い後輩の姫君だっ!しっかり守ろう!!」
と、煉獄がまたデカい声で請け負った。

「ほんと、ちっこくて生まれたての子猫みてえだな、お姫ちゃん。
ちょっと前まではランドセル背負ってたんだもんな、可愛いわけだ」
と、くしゃくしゃと頭を撫でまわしてくる宇髄。

いかにも最年長の先輩と言った感じだ。
他には義勇を近づけることをやや警戒していた錆兎も全く緊張した様子がないところをみると、本当に安全なあたりなのだろう。

義勇にはお弁当を広げて食べるように言ってくれたあと、

「…ということでな、その姫さんを守るためにも、少しばかり確認しておきたいことがあるんだが、話を聞けるか?宇髄センパイ?」
と、自分は弁当を開けるだけ開けて手を付けることなく、錆兎は宇髄に少し厳しい視線をむけた。

錆兎が言わんとしていることはとっくに察しているらしい。

その錆兎の言葉に宇髄も口元に笑みは浮かべつつも視線は鋭く、
「あ~…恒例にして不変だったはずの“新寮長と新副寮長の交流イベント”についてか?」
と、口を開いた。



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