昼休みの事である。
義勇の昼休みは教室内のざわめきで始まる。
そう、優秀なイケメン寮長様が中1の教室に顔を出すからだ。
目を見張るような筋肉に覆われた男らしく立派な体躯。
もちろんその筋肉は伊達ではなく、運動神経抜群で武芸に秀で、頭脳は優秀。
風になびく鮮やかな宍色の髪に同色のキリリとした少し太めの眉。
その下の藤色の目はその強い意志を代弁するかのように鋭い光を放ち、形の良い唇はかなりの確率で笑みの形を作っている。
スッと常に姿勢が良く、黙っていればどちらかと言うとストイックな軍人のような雰囲気だ。
なのにその整いすぎるくらい完璧に整った顔に笑みを浮かべれば、言葉もなく呆けてしまうくらいには美麗なのに温かみがある。
さらに、その、ともすれば完璧過ぎるスペックを持ってして、全身全霊で兄貴肌。
非常に面倒みが良いと言うのだから、下級生には寮や学年を問わず大人気だ。
そんなみんなの憧れの銀狼寮の寮長様が自らの責務と決めているのか、昼休みになると自作の弁当を片手に副寮長である義勇を迎えにやってくるのだ。
義勇の昼休みは教室内のざわめきで始まる。
そう、優秀なイケメン寮長様が中1の教室に顔を出すからだ。
目を見張るような筋肉に覆われた男らしく立派な体躯。
もちろんその筋肉は伊達ではなく、運動神経抜群で武芸に秀で、頭脳は優秀。
風になびく鮮やかな宍色の髪に同色のキリリとした少し太めの眉。
その下の藤色の目はその強い意志を代弁するかのように鋭い光を放ち、形の良い唇はかなりの確率で笑みの形を作っている。
スッと常に姿勢が良く、黙っていればどちらかと言うとストイックな軍人のような雰囲気だ。
なのにその整いすぎるくらい完璧に整った顔に笑みを浮かべれば、言葉もなく呆けてしまうくらいには美麗なのに温かみがある。
さらに、その、ともすれば完璧過ぎるスペックを持ってして、全身全霊で兄貴肌。
非常に面倒みが良いと言うのだから、下級生には寮や学年を問わず大人気だ。
そんなみんなの憧れの銀狼寮の寮長様が自らの責務と決めているのか、昼休みになると自作の弁当を片手に副寮長である義勇を迎えにやってくるのだ。
――姫さん、迎えに来たぞ?
とにこやかに手にしたランチバッグを揺らす錆兎。
当たり前に差し出される右手を取れば、そっと少し曲げた左腕にかけるように誘導される。
おそらく義勇の歩くスピードに合わせているのだろう。
自分1人で歩く時よりは若干ゆっくりした歩調。
別に一般道ではなく学校の廊下なのでこれと言って車などが通るわけでもないのだが、当たり前に通路側を歩かされる。
同学年の副寮長の善逸が自寮の寮長と一緒にいる所を目にした事があるが、極々普通の先輩後輩といった感じで特に丁重に扱われている様子もなかったので、別に自分も特にお姫様のように丁寧に扱ってもらわなくても大丈夫だと言ったのだが、錆兎は『あ~…あそこが特殊なだけだから。本来はあれはNGだ』と苦笑した。
釈然としない…そんな様子が顔に出ていたのだろうか…。
錆兎は少し考えて、
「義勇、ちょっと今日は回り道していくから」
と、いつものように一年の教室からまっすぐ下に降りずに、そのまま2年の教室の方へと向かった。
中1でもそんな感じなわけなのだから、昨年、錆兎が中3だった頃に中1だった現中2はさらに顔を見知っている人間も多いのだろう。
片側には中庭に続く大きなガラス戸や窓が並ぶ大理石の廊下を普通に歩いているだけで、昼食を摂ろうと中庭に陣取った学生や開け放たれた教室のドアの向こうでランチを広げる学生達から、ざわめきと共に視線を送られた。
敢えて声をかけてきたりはしないが、寮対抗という学園のシステムからすると学年が違う時点で別寮なので相容れないはずなのに、それが概ね好意的な視線なことに義勇は感心した。
その人気者の寮長に連れられているせいだろうか。
義勇にまで向けられる視線は柔らかくてホッとする。
そんな中で、教室の中からサラサラの長い髪をなびかせて愛らしい少女のような少年が飛び出してきた。
とにこやかに手にしたランチバッグを揺らす錆兎。
当たり前に差し出される右手を取れば、そっと少し曲げた左腕にかけるように誘導される。
おそらく義勇の歩くスピードに合わせているのだろう。
自分1人で歩く時よりは若干ゆっくりした歩調。
別に一般道ではなく学校の廊下なのでこれと言って車などが通るわけでもないのだが、当たり前に通路側を歩かされる。
同学年の副寮長の善逸が自寮の寮長と一緒にいる所を目にした事があるが、極々普通の先輩後輩といった感じで特に丁重に扱われている様子もなかったので、別に自分も特にお姫様のように丁寧に扱ってもらわなくても大丈夫だと言ったのだが、錆兎は『あ~…あそこが特殊なだけだから。本来はあれはNGだ』と苦笑した。
釈然としない…そんな様子が顔に出ていたのだろうか…。
錆兎は少し考えて、
「義勇、ちょっと今日は回り道していくから」
と、いつものように一年の教室からまっすぐ下に降りずに、そのまま2年の教室の方へと向かった。
中1でもそんな感じなわけなのだから、昨年、錆兎が中3だった頃に中1だった現中2はさらに顔を見知っている人間も多いのだろう。
片側には中庭に続く大きなガラス戸や窓が並ぶ大理石の廊下を普通に歩いているだけで、昼食を摂ろうと中庭に陣取った学生や開け放たれた教室のドアの向こうでランチを広げる学生達から、ざわめきと共に視線を送られた。
敢えて声をかけてきたりはしないが、寮対抗という学園のシステムからすると学年が違う時点で別寮なので相容れないはずなのに、それが概ね好意的な視線なことに義勇は感心した。
その人気者の寮長に連れられているせいだろうか。
義勇にまで向けられる視線は柔らかくてホッとする。
そんな中で、教室の中からサラサラの長い髪をなびかせて愛らしい少女のような少年が飛び出してきた。
「錆兎っ!どうしたの?2年の教室になんて珍しいね」
軽い足取りで走ってくる少年。
ふわりふわりと長い髪が楽し気に揺れる。
ああ、これは…と思っていると案の定で、錆兎がちらりと義勇を振り返って
「銀竜の姫君の時透無一郎だ」
と、小声でおしえてくれた。
可愛い…本当に可愛い。
中2の教室にいるのだから中2なんだろうが、年上に見えない。
ほわ~っと見惚れていると、相手は錆兎に視線を向けて、にっこりと天使のような笑みを浮かべた。
「今日は姫君の紹介?
僕は正直言って他寮のことには興味はないけど、錆兎のところの姫君なら仲良くしてあげてもいいよ?
同じ銀同士なら寮生も村田も納得するだろうしね。
そう言えばこの前、新副寮長の紹介で見たけど、あのワンピース可愛かったなぁ。
錆兎が選んだんだよね?」
ぴょんっと少年は一歩錆兎の方へ移動して、ちょこんと小首をかしげる少年。
その視線はまっすぐ錆兎に向けられていて、義勇には興味がなさそうだ。
かといって敵対心を向けられるわけでもなく、本当に目に入っていないと言った感じで、少年はひたすらに錆兎に向かって
ふわりふわりと長い髪が楽し気に揺れる。
ああ、これは…と思っていると案の定で、錆兎がちらりと義勇を振り返って
「銀竜の姫君の時透無一郎だ」
と、小声でおしえてくれた。
可愛い…本当に可愛い。
中2の教室にいるのだから中2なんだろうが、年上に見えない。
ほわ~っと見惚れていると、相手は錆兎に視線を向けて、にっこりと天使のような笑みを浮かべた。
「今日は姫君の紹介?
僕は正直言って他寮のことには興味はないけど、錆兎のところの姫君なら仲良くしてあげてもいいよ?
同じ銀同士なら寮生も村田も納得するだろうしね。
そう言えばこの前、新副寮長の紹介で見たけど、あのワンピース可愛かったなぁ。
錆兎が選んだんだよね?」
ぴょんっと少年は一歩錆兎の方へ移動して、ちょこんと小首をかしげる少年。
その視線はまっすぐ錆兎に向けられていて、義勇には興味がなさそうだ。
かといって敵対心を向けられるわけでもなく、本当に目に入っていないと言った感じで、少年はひたすらに錆兎に向かって
「いいなぁ…。
僕もあと1年遅く生まれてたら錆兎にエスコートされてたかもしれなかったのに」
と、やはりニコリと笑って言った。
僕もあと1年遅く生まれてたら錆兎にエスコートされてたかもしれなかったのに」
と、やはりニコリと笑って言った。
ああ、そうだよな…。
本当に申し訳ない。
そんな皇帝のパートナーとして自分はさぞや不似合いに映るのだろうな…と想像すると怖くて義勇は思わず俯くが、ぎゅっと握ったその手を自分と同じくらいの大きさの柔らかい手が包み込んだ。
本当に申し訳ない。
そんな皇帝のパートナーとして自分はさぞや不似合いに映るのだろうな…と想像すると怖くて義勇は思わず俯くが、ぎゅっと握ったその手を自分と同じくらいの大きさの柔らかい手が包み込んだ。
顔をあげると目の前で本当にこの世の全ての愛らしさが凝縮したような顔が目に入る。
「僕は時透無一郎。銀竜寮の副寮長だよ。
僕ね、正直きみ自身には全く興味がないけど、錆兎にとって君が大切な姫君なら少しくらいは助けてあげてもいいよ。
だから何か助けられるような事があったら遠慮なく言ってね?」
この言い方はどうとらえればいいのだろう。
一応善意を持っている錆兎の前だし、錆兎も特に注意をするわけでもないので、嫌味…ではないだろう。
好意はないが善意はある…と思えばいいのだろうか。
義勇が反応に困っていると、そんな姫君を追ってきた一人の高校生が、
「ごめんねぇ。
無一郎はなんていうか…言葉足らずで誤解されやすくって。
でも他意はないし言ってることも本当にそのまんまで裏はないから。
個人的にはまだ君のこと知らないから興味があるとは言えないけど、好意を持っている錆兎が好意を持ってる相手ならいい関係を築いていきたいって発言だからね、さっきの」
と、苦笑しつつフォローをいれてくれる。
どうやら彼が例の“村田”らしい。
その村田のフォローに無一郎は
「だからそう言ったじゃない。
村田、何わけのわからない事いってるの?」
と、馬鹿にしたような表情で言い放つ。
しかしその言い方に腹を立てるわけでもなく、彼、村田が
「いやいや、あの言い方じゃ伝わらないからね?
下手すると嫌味言われてるみたいだからね?
お前、相手に真意を伝えようって気ぜんっぜん感じられないしっ!」
とむしろ困ったように言うと、
「誤解されたらされたでいいよ。
されたら困る場合は村田がちゃんと補足するから問題ない」
と、無一郎はきっぱり断言した。
そのやりとりに錆兎が小さく苦笑しながら
「ちなみに村田は銀竜の寮長な?」
と、これも補足してくれると、無一郎がさらに
「寮長史上初のモブ寮長って言われてるけどね」
と、言う。
しかし仲が悪いのかと思いきや、少しの間のあと無一郎が
「まあ僕は変な奴が寮長になるより村田が楽でいいけど」
と、みずから付け加えるあたり、実は関係は意外と良好なのかもしれない。
「あ…村田さんも無一郎さんもありがとうございます」
という義勇に
「あ、別に敬語は使わないでいいよ?
1歳しか違わないんだし、僕も錆兎にも村田にも使ってないから」
緊張して礼を言う義勇に無一郎は淡々とそう言って、再び錆兎に向き合った。
僕ね、正直きみ自身には全く興味がないけど、錆兎にとって君が大切な姫君なら少しくらいは助けてあげてもいいよ。
だから何か助けられるような事があったら遠慮なく言ってね?」
この言い方はどうとらえればいいのだろう。
一応善意を持っている錆兎の前だし、錆兎も特に注意をするわけでもないので、嫌味…ではないだろう。
好意はないが善意はある…と思えばいいのだろうか。
義勇が反応に困っていると、そんな姫君を追ってきた一人の高校生が、
「ごめんねぇ。
無一郎はなんていうか…言葉足らずで誤解されやすくって。
でも他意はないし言ってることも本当にそのまんまで裏はないから。
個人的にはまだ君のこと知らないから興味があるとは言えないけど、好意を持っている錆兎が好意を持ってる相手ならいい関係を築いていきたいって発言だからね、さっきの」
と、苦笑しつつフォローをいれてくれる。
どうやら彼が例の“村田”らしい。
その村田のフォローに無一郎は
「だからそう言ったじゃない。
村田、何わけのわからない事いってるの?」
と、馬鹿にしたような表情で言い放つ。
しかしその言い方に腹を立てるわけでもなく、彼、村田が
「いやいや、あの言い方じゃ伝わらないからね?
下手すると嫌味言われてるみたいだからね?
お前、相手に真意を伝えようって気ぜんっぜん感じられないしっ!」
とむしろ困ったように言うと、
「誤解されたらされたでいいよ。
されたら困る場合は村田がちゃんと補足するから問題ない」
と、無一郎はきっぱり断言した。
そのやりとりに錆兎が小さく苦笑しながら
「ちなみに村田は銀竜の寮長な?」
と、これも補足してくれると、無一郎がさらに
「寮長史上初のモブ寮長って言われてるけどね」
と、言う。
しかし仲が悪いのかと思いきや、少しの間のあと無一郎が
「まあ僕は変な奴が寮長になるより村田が楽でいいけど」
と、みずから付け加えるあたり、実は関係は意外と良好なのかもしれない。
「あ…村田さんも無一郎さんもありがとうございます」
という義勇に
「あ、別に敬語は使わないでいいよ?
1歳しか違わないんだし、僕も錆兎にも村田にも使ってないから」
緊張して礼を言う義勇に無一郎は淡々とそう言って、再び錆兎に向き合った。
さらさらと揺れる髪。
軽やかな足取りでクルリとターンをしながら、そう言えば…と、少年の顔から少し笑顔が消える。
そして何か言おうと口を開いて、それから少し考え込み、また口を開いた。
軽やかな足取りでクルリとターンをしながら、そう言えば…と、少年の顔から少し笑顔が消える。
そして何か言おうと口を開いて、それから少し考え込み、また口を開いた。
「錆兎、あの…ね、今年度から学園長が変わったでしょ?
それで、今年“から”…なのか、今年“は”なのかわからないけど、もうすぐある新寮長と新副寮長の交流イベントに、今年は僕達2年や3年の先輩達も参加するんだって」
なんなんだろうね…面倒ごととかが増えるの嫌だなぁ…と、煩わし気に少し眉を寄せる少年。
交流イベントというのが何なのかは義勇にはわからなかったが、何をするにも寮対抗と言う事は知っていたし、それなら他の寮と何かをする場合、それは何かの競争になるのだろう。
争いごとが好きでない義勇も、その無一郎の情報に秘かに嫌だなぁと同意した。
そんな義勇の横では錆兎が少し難しい顔をして考え込んでいる。
形の良い眉を寄せて綺麗な藤色の目を少し細めるようにして…きりっとした形の良いの唇も少しへの字型。
それで、今年“から”…なのか、今年“は”なのかわからないけど、もうすぐある新寮長と新副寮長の交流イベントに、今年は僕達2年や3年の先輩達も参加するんだって」
なんなんだろうね…面倒ごととかが増えるの嫌だなぁ…と、煩わし気に少し眉を寄せる少年。
交流イベントというのが何なのかは義勇にはわからなかったが、何をするにも寮対抗と言う事は知っていたし、それなら他の寮と何かをする場合、それは何かの競争になるのだろう。
争いごとが好きでない義勇も、その無一郎の情報に秘かに嫌だなぁと同意した。
そんな義勇の横では錆兎が少し難しい顔をして考え込んでいる。
形の良い眉を寄せて綺麗な藤色の目を少し細めるようにして…きりっとした形の良いの唇も少しへの字型。
義勇の前ではいつも笑顔なので、そんな錆兎を見るのは珍しい。
何か気にかかる事があるのだろうが、そんな風に考え込んでいる錆兎もカッコいいな…と、義勇はこの時は呑気にそんな事を思っていた。
「なあ、村田……」
「うん?」
と、錆兎はしばらく考え込んだあと、寮長の村田の方に声をかける。
「俺のところには日程しか通達されてなかったんだけどな、他の学年のところには何か他にも情報来ているのか?」
考え込むように顎に手をやり相変わらず厳しい顔で聞く錆兎に、村田は首を横に振る。
「いや。たぶんね、普段なら参加しないところを今回は参加する事になるから、時間を空けて準備をしておきなさいって事で連絡が来たんだと思うよ。
俺達のとこにも来てるのは日程だけ。
5月10日の13時に大聖堂に集合。
それだけだよ」
「…そうか……」
「うん」
「わかった。ありがとう。じゃあ、俺達はこれからもう一か所寄りたいから行くな。
何か新しい情報が入ったら教えてくれ」
と、結局これ以上情報は得られないと思ったのか、錆兎はそう言って村田の肩をぽんぽんと軽く叩くと、再度義勇の手を取って自分の腕に回させた。
「なあ、村田……」
「うん?」
と、錆兎はしばらく考え込んだあと、寮長の村田の方に声をかける。
「俺のところには日程しか通達されてなかったんだけどな、他の学年のところには何か他にも情報来ているのか?」
考え込むように顎に手をやり相変わらず厳しい顔で聞く錆兎に、村田は首を横に振る。
「いや。たぶんね、普段なら参加しないところを今回は参加する事になるから、時間を空けて準備をしておきなさいって事で連絡が来たんだと思うよ。
俺達のとこにも来てるのは日程だけ。
5月10日の13時に大聖堂に集合。
それだけだよ」
「…そうか……」
「うん」
「わかった。ありがとう。じゃあ、俺達はこれからもう一か所寄りたいから行くな。
何か新しい情報が入ったら教えてくれ」
と、結局これ以上情報は得られないと思ったのか、錆兎はそう言って村田の肩をぽんぽんと軽く叩くと、再度義勇の手を取って自分の腕に回させた。
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