善逸は自室で泣きながら電話をかけている。
その相手は桑島慈悟郎。
善逸の実の母親はとある富豪の愛人だったらしい。
そして父が用意したマンションで暮らしていたのだが、善逸が生まれた時、自身に男児がいなかった正妻が危機感を抱いて母の元から善逸を連れ出させて、父も知らぬ所でこっそりと彼を育てさせたのが善逸が幼少期に傍にいた女だ。
母は当然半狂乱になったが、父は母には気持ちはあっても立場的に絶対に跡取りには出来ない愛人の子である善逸には気持ちがなかった。
…というより、むしろ厄介者だったようで、いなくなって他の人間の子として育てられるのならそれもよしということで、探そうとはしなかった。
結果、前妻に養育費を与えられた女に預けられたが、この女は当然まともな女ではなかったので、善逸は幼い頃から放置されて育つ。
死なないように最低限の食べ物は与えられていたが、年頃になっても幼稚園にも保育園にもいかず、散らかり放題散らかった汚部屋の中でごみに埋もれて生きていたのである。
そんな生活も善逸が5歳の頃にその女が亡くなったことによって孤児院に引き取られたことで終わりを告げた。
そこで善逸は初めて育ての母以外の人間に会って、自分の金色の髪が日本では大変珍しいことを知る。
そして大勢の中で暮らすことによって、今度は見た目が違うということでいじめられる生活が始まった。
だがある意味その金色の髪が、善逸をその根無し草の生活から救う事にもなる。
実父から与えられたマンションを飛び出して攫われた善逸を探し回っていた母をたまたま助けた老人が、その髪を目印に善逸を探し当ててくれたのだ。
と言っても、母は老人が助けた時にはすでに肺炎を拗らせていて善逸のことを心配しながらすぐに亡くなって、その遺志を引き継いで子を助けるからと約束した老人、桑島慈悟郎は、それから実に9年もの月日がたっても折を見ては孤児院を回ったりして情報を集めてくれていたらしい。
そうして善逸が10歳になる頃、孤児院で彼を見つけた桑島老は母との約束だからと善逸を引き取って家族にしてくれたのである。
それから2年間は善逸は桑島老の養子として普通に公立の小学校に通っていたが、なにしろ地毛が金髪なのでとても目立って、なのに派手な外見のわりに気が弱いのでいじめられる。
それならいっそ特殊な人間が多い学校へ入れてしまえばいい…
桑島老はそんな考えから善逸を自分の母校でもある、この藤襲学園にいれることにしたのだった。
小等部は富裕層しか通えないその学校で中等部からの外部生はおおよそ4分の1。
つまり4分の3は富裕層の子息が集まる学校で果たして自分は平和な学園生活が送れるのか…
善逸はそう訴えたのだが、
「金持ち喧嘩せず、じゃ。
とてつもない経歴、とてつもない家柄、とてつもない金持ち…とにかくとてつもない人間が多い学校じゃから、あそこでは髪の色が変わっているくらいは些細なことで、その程度のことをいちいち気にする輩はおらん。
全てが寮対抗ということで寮生同士の絆も強いから、孤立もせん」
と、説き伏せられておそるおそる足を踏み入れた名門校。
母は当然半狂乱になったが、父は母には気持ちはあっても立場的に絶対に跡取りには出来ない愛人の子である善逸には気持ちがなかった。
…というより、むしろ厄介者だったようで、いなくなって他の人間の子として育てられるのならそれもよしということで、探そうとはしなかった。
結果、前妻に養育費を与えられた女に預けられたが、この女は当然まともな女ではなかったので、善逸は幼い頃から放置されて育つ。
死なないように最低限の食べ物は与えられていたが、年頃になっても幼稚園にも保育園にもいかず、散らかり放題散らかった汚部屋の中でごみに埋もれて生きていたのである。
そんな生活も善逸が5歳の頃にその女が亡くなったことによって孤児院に引き取られたことで終わりを告げた。
そこで善逸は初めて育ての母以外の人間に会って、自分の金色の髪が日本では大変珍しいことを知る。
そして大勢の中で暮らすことによって、今度は見た目が違うということでいじめられる生活が始まった。
だがある意味その金色の髪が、善逸をその根無し草の生活から救う事にもなる。
実父から与えられたマンションを飛び出して攫われた善逸を探し回っていた母をたまたま助けた老人が、その髪を目印に善逸を探し当ててくれたのだ。
と言っても、母は老人が助けた時にはすでに肺炎を拗らせていて善逸のことを心配しながらすぐに亡くなって、その遺志を引き継いで子を助けるからと約束した老人、桑島慈悟郎は、それから実に9年もの月日がたっても折を見ては孤児院を回ったりして情報を集めてくれていたらしい。
そうして善逸が10歳になる頃、孤児院で彼を見つけた桑島老は母との約束だからと善逸を引き取って家族にしてくれたのである。
それから2年間は善逸は桑島老の養子として普通に公立の小学校に通っていたが、なにしろ地毛が金髪なのでとても目立って、なのに派手な外見のわりに気が弱いのでいじめられる。
それならいっそ特殊な人間が多い学校へ入れてしまえばいい…
桑島老はそんな考えから善逸を自分の母校でもある、この藤襲学園にいれることにしたのだった。
小等部は富裕層しか通えないその学校で中等部からの外部生はおおよそ4分の1。
つまり4分の3は富裕層の子息が集まる学校で果たして自分は平和な学園生活が送れるのか…
善逸はそう訴えたのだが、
「金持ち喧嘩せず、じゃ。
とてつもない経歴、とてつもない家柄、とてつもない金持ち…とにかくとてつもない人間が多い学校じゃから、あそこでは髪の色が変わっているくらいは些細なことで、その程度のことをいちいち気にする輩はおらん。
全てが寮対抗ということで寮生同士の絆も強いから、孤立もせん」
と、説き伏せられておそるおそる足を踏み入れた名門校。
そこは建物も立派なら同級生たちも妙に堂々としている気がしてひどく気おくれがしたが、すぐに善逸と同じく中等部からの外部生だという少年、炭治郎が声をかけてきてくれて、仲良くなれた。
善逸なんかにも声をかけてくれた初めての友達。
これで学園生活も安泰だ。
そう安堵したのも束の間、善逸はとことんついていない人間なのだろう。
炭治郎と寮が分かれてしまっただけではなく、何故か副寮長に選ばれてしまった。
そのせいだろうか…他の同級生たちの視線がどこか痛い。
頼みの綱の炭治郎はというと、自分の寮の副寮長の世話をしなければと、金狼寮の対となる銀狼寮の副寮長に選ばれた目の覚めるような綺麗な少年の所へと行ってしまった。
その代わりに同じ寮だという見知らぬ同級生たちに囲まれて連行されていく金狼寮。
体格があまりよろしくない善逸からすると妙にごつく感じる同級生だったが、今後の善逸の住居となる金狼寮で同室者として待ち受けていたのは、まるでヤのつく自由業のように恐ろしく迫力のある寮長だった。
そう言えば、今年の寮長はフリーファイトで生き残った人間がなったと聞いている。
なるほど、生き残りそうだ…というか、敵なんて容赦なく粉砕して地獄に送り込んでいそうだ…と、善逸は寮長を前に震えあがる。
目の前の顔を横断するような一文字の大きな傷がある恐ろしく鋭い目つきをしたこのラスボスの魔王のような男に比べれば、小学校まで善逸を苛めていたクラスメートなどせいぜい序盤に出てくるスライムよりは少し強い程度のトロールのようなものだ。
彼らには痛い思いはさせられたが、この寮長には痛い思いどころか殺されるんじゃなかろうか…
思わず顔を見て泣きさけべば、
──うるせえ!黙りやがれっ!!
と怒鳴られて、善逸は思わず部屋に逃げ込んで鍵をかけると、ベッドの中で一晩震えながら泣いて過ごした。
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