なので、セキュリティや教育的な観念から自身の子を入学させる有力者の子ども達とのコネクションを作るため、同校に子を入学させる人間は少なくはない。
数年前に父親を亡くし、6人の弟妹達と母方の実家に身を寄せる不死川実弥の伯父は、そんな観点からこの学校に実弥を放り込んだ。
可愛い弟妹達の現在の生活と将来の健やかな未来を勝ち取るため、実弥には拒否権はない。
学費のかからない特待生として入学することは当たり前で、目指すは有力者の家の子息と友人になり伯父に貢献すること…と伯父には言われていたが、実弥が目指すところは少し違う。
権力者の家の友人を作るところまでは同じでも目的は力をつけて辛い目にあっている家族を伯父の元から引き取ることだ。
そう、母の兄もその妻も、大勢の子を連れて出戻ってきた母を歓迎はしていない。
だから夏は暑く冬は寒い狭い離れに寝泊まりをさせた上で、弟妹達にまで学校以外の空いている時間は朝から晩まで畑仕事をさせている。
実弥だってこの学園の中等部の特待生の試験に受かるまでは一緒だった。
では皆中学になったら…と思っていても、実弥は父が亡くなったのが小学校5年の終わりだったので、それまではしっかり勉強が出来ていて、下の兄弟に教えるためにしっかりと授業を受けていたこともあってなかなかの優等生で成績が良かったため、そこから必死に畑仕事の合間に勉強をして受かったのだが、他の兄弟はそうではない。
幼い身で畑仕事に従事していたら、予習復習すらする間もなく疲れて眠ってしまう。
だから実弥が唯一の希望だった。
弟妹達が高校や大学に行きたいとなった頃にはなんとか出してやれるように、実弥自身は大学卒業と同時にそれなりに収入が得られる身分になりたい。
そのために中等部に特待生として入って3年間の学費生活費が出るようになっても、今度は少しでも有力者の子息の目に留まるように勉学だけでなく武道にも励んだ。
その甲斐あって高校進学時には成績優秀者の上位10名に入って寮長試験の参加資格を得る。
ここでも実弥はいくつかの幸運に恵まれた。
一つには毎年試験項目は様々な武道の勝ち抜き戦だったのだが、今年のそれはとにかく相手を倒せばいいというフリーファイトだったことである。
これが幼い頃からの稽古がモノを言うような武術であったなら、そんな教育は受けてはいない実弥に勝ち目はなかっただろう。
そしてもう一つ、実弥にとって幸運だったのはトーナメント戦が中等部の時に振り分けられた金銀2種類の寮別で、金寮だった実弥は銀寮の渡辺錆兎と当たることがなかったことだった。
藤襲学園は通常の学習は能力別クラスなので彼とはずっと同じだったが、あれが相手だと例えそれが何であろうと勝てる気がしない。
おそらく生まれながらにして優秀な頭脳と優れた身体能力を持ち合わせている上に、実家が日本有数の名門剣術家の家系で、天才が財力を投じて英才教育をされているという規格外の化け物だ。
成績はずっと主席どころか、定期テストはほぼ全科目満点で、スポーツだってほぼ色々な記録を塗り替えている。
では皆中学になったら…と思っていても、実弥は父が亡くなったのが小学校5年の終わりだったので、それまではしっかり勉強が出来ていて、下の兄弟に教えるためにしっかりと授業を受けていたこともあってなかなかの優等生で成績が良かったため、そこから必死に畑仕事の合間に勉強をして受かったのだが、他の兄弟はそうではない。
幼い身で畑仕事に従事していたら、予習復習すらする間もなく疲れて眠ってしまう。
だから実弥が唯一の希望だった。
弟妹達が高校や大学に行きたいとなった頃にはなんとか出してやれるように、実弥自身は大学卒業と同時にそれなりに収入が得られる身分になりたい。
そのために中等部に特待生として入って3年間の学費生活費が出るようになっても、今度は少しでも有力者の子息の目に留まるように勉学だけでなく武道にも励んだ。
その甲斐あって高校進学時には成績優秀者の上位10名に入って寮長試験の参加資格を得る。
ここでも実弥はいくつかの幸運に恵まれた。
一つには毎年試験項目は様々な武道の勝ち抜き戦だったのだが、今年のそれはとにかく相手を倒せばいいというフリーファイトだったことである。
これが幼い頃からの稽古がモノを言うような武術であったなら、そんな教育は受けてはいない実弥に勝ち目はなかっただろう。
そしてもう一つ、実弥にとって幸運だったのはトーナメント戦が中等部の時に振り分けられた金銀2種類の寮別で、金寮だった実弥は銀寮の渡辺錆兎と当たることがなかったことだった。
藤襲学園は通常の学習は能力別クラスなので彼とはずっと同じだったが、あれが相手だと例えそれが何であろうと勝てる気がしない。
おそらく生まれながらにして優秀な頭脳と優れた身体能力を持ち合わせている上に、実家が日本有数の名門剣術家の家系で、天才が財力を投じて英才教育をされているという規格外の化け物だ。
成績はずっと主席どころか、定期テストはほぼ全科目満点で、スポーツだってほぼ色々な記録を塗り替えている。
そのくせ性格もたいそうよろしくて気さくで明るく、皆の人気者だ。
寮長になるべく…もっと言うなら上に立つべく生まれ育ってきた男だと思う。
まあ、そんな錆兎と共に学園内では皇帝と呼ばれる寮長を務めることになったのだが、実弥は何度も言うように中等部からの外部生なので、幼稚舎や小等部など、幼い時分からずっと藤襲のやり方に馴染んできた面々とは少し違って、寮に関する慣習にそれほど馴染んでいない。
寮対抗で評価をあげていくということに関してはとにかくとして、副寮長を姫君などと呼んで女装させて敬うなど正気の沙汰じゃないと思っている。
そんな茶番に付き合わされるのかと思うとうんざりした。
が、寮長に選出されるというのはある種ステータスで人脈を広げる一番の近道なので目指さないという選択肢はなかったのである。
こうして無事、金狼寮の寮長の座について、ばかばかしいと思いながらも自寮の寮生たちが選んだ副寮長、姫君の写真を確認した。
確かに去年まで小学生だった中等部の1年生はまだまだ頑張れば少女に見えなくもないが、それでも普通に女子でも特別感のある美少女なんて早々いないのだから、まだ男臭さがないとしても少年である時点でお察しである。
しかも副寮長の少年も外部生なので、光栄とか嬉しいよりも戸惑いと動揺が強いらしくて、怖い怖い大騒ぎで非常に煩い。
初日に思わず、うるせえっ!黙れ!と殴りそうになる。
「俺の所の姫さんも外部生だが、可愛いものだぞ。
去年まではランドセルを背負っていたくらい幼いのだし、誰よりその扱いに慣れないのは3年以上はこの学園で生活をしている俺達ではなく姫君本人だろう?
姫君という制度にお前が納得いかなかったとしても、ひとより多くのモノを背負うことになって心細い思いをしている後輩に手を差し伸べてやるのは、曲がりなりにも文武両方において他人よりいくらか出来ると判断された俺達寮長としては当たり前のことだろう?」
と、諭されてしまった。
そうだよな。
こいつは普段から自分が他人より多く持つ力は持たない者に還元すべきだと公言してたもんな…と、実弥はブレない錆兎に感心をする。
そしてさらに、初日はとりあえずどんなふうに接したのかと聞いたなら、姫君と同じ学年の弟弟子に姫君を丁重に寮まで案内するように申し付け、その後、部屋で紅茶と菓子をふるまいながら寮や皇帝、姫君について説明。
姫君に関しては自分が世話役であり責任者なので、全面的に面倒を見る。
中等部と高等部と分かれてしまう時以外は常に自分が傍にいるし、分かれている間は信頼のできる弟弟子に傍で護衛役を務めるよう申し付けている。
それ以外にも寮生は胸元につけている寮のバッジで判別できるので、銀狼寮のバッジをつけている人間には何でも申し付けて良いし、困った時は安心して頼るようにと言い含めたということだ。
ああ、なるほど。
そんな感じに接したらいいのか…
姫君なんて言い方をするからややこしいだけで、寮内で優遇する相手と思えば、確かにそう難しいことではないのか…と、実弥は今更ながら納得した。
「実弥は自分も外部生だからな。戸惑う事も多いだろうし、何かあれば聞いてこい。
うちの姫さんに害が及ぶような可能性があること以外は答えてやる」
と、そんな実弥に錆兎が笑う。
寮長になれたのはこの級友と違う寮だったからなのだが、そのせいで寮的には敵対関係になるのは心底残念だ。
錆兎のことは能力的にはとんでもない怪物だとは思うが、人間的にはかなり気に入っているし、仲良くしたいと思っている。
ともあれ、今はとにかく寮長として金狼寮を率いていくのが急務である。
そのためには副寮長、姫君との関係改善も必要だ。
錆兎のおかげで自寮の姫君に対する接し方はなんとなくわかった気がするので、金狼寮の姫君に選ばれた我妻善逸にはとりあえず今更ながらに姫宮と呼ばれる副寮長について説明。
寮のバッジについても言及して、これで自寮の人間を判別して適当に使えと言ってやったら、なんと同じことを今朝ご丁寧にも錆兎が全て説明をしてくれていたらしい。
敵対関係のはずなのだが、自分達が慣れていない外部生の寮長副寮長だからなのか、手を貸してくれる気は満々のようだ。
あいつは本当にブレなさすぎだろ…と、実弥は感心しつつも呆れかえる。
まあとにかく、こちらが普通に話しかければ姫君の中等部生もややびくびくしていなくもないが、なんとかコミュニケーションをとってくるようになった。
寮長になるべく…もっと言うなら上に立つべく生まれ育ってきた男だと思う。
まあ、そんな錆兎と共に学園内では皇帝と呼ばれる寮長を務めることになったのだが、実弥は何度も言うように中等部からの外部生なので、幼稚舎や小等部など、幼い時分からずっと藤襲のやり方に馴染んできた面々とは少し違って、寮に関する慣習にそれほど馴染んでいない。
寮対抗で評価をあげていくということに関してはとにかくとして、副寮長を姫君などと呼んで女装させて敬うなど正気の沙汰じゃないと思っている。
そんな茶番に付き合わされるのかと思うとうんざりした。
が、寮長に選出されるというのはある種ステータスで人脈を広げる一番の近道なので目指さないという選択肢はなかったのである。
こうして無事、金狼寮の寮長の座について、ばかばかしいと思いながらも自寮の寮生たちが選んだ副寮長、姫君の写真を確認した。
確かに去年まで小学生だった中等部の1年生はまだまだ頑張れば少女に見えなくもないが、それでも普通に女子でも特別感のある美少女なんて早々いないのだから、まだ男臭さがないとしても少年である時点でお察しである。
しかも副寮長の少年も外部生なので、光栄とか嬉しいよりも戸惑いと動揺が強いらしくて、怖い怖い大騒ぎで非常に煩い。
初日に思わず、うるせえっ!黙れ!と殴りそうになる。
もちろん殴るわけにはいかないので怒鳴るだけだが、それでも十分恐ろしかったのか、副寮長の少年は自室に逃げ込んで鍵をかけて引きこもって、いくら呼んでも出てこずに困ってしまった
それでも一日たてば…と、翌朝は彼の分まで朝食を用意していたが、隙をついて寮外に逃げ出される。
もうお手上げだ…と、そのあたり、学校で寮長の片割れである錆兎に聞いたなら
去年まではランドセルを背負っていたくらい幼いのだし、誰よりその扱いに慣れないのは3年以上はこの学園で生活をしている俺達ではなく姫君本人だろう?
姫君という制度にお前が納得いかなかったとしても、ひとより多くのモノを背負うことになって心細い思いをしている後輩に手を差し伸べてやるのは、曲がりなりにも文武両方において他人よりいくらか出来ると判断された俺達寮長としては当たり前のことだろう?」
と、諭されてしまった。
そうだよな。
こいつは普段から自分が他人より多く持つ力は持たない者に還元すべきだと公言してたもんな…と、実弥はブレない錆兎に感心をする。
そしてさらに、初日はとりあえずどんなふうに接したのかと聞いたなら、姫君と同じ学年の弟弟子に姫君を丁重に寮まで案内するように申し付け、その後、部屋で紅茶と菓子をふるまいながら寮や皇帝、姫君について説明。
姫君に関しては自分が世話役であり責任者なので、全面的に面倒を見る。
中等部と高等部と分かれてしまう時以外は常に自分が傍にいるし、分かれている間は信頼のできる弟弟子に傍で護衛役を務めるよう申し付けている。
それ以外にも寮生は胸元につけている寮のバッジで判別できるので、銀狼寮のバッジをつけている人間には何でも申し付けて良いし、困った時は安心して頼るようにと言い含めたということだ。
ああ、なるほど。
そんな感じに接したらいいのか…
姫君なんて言い方をするからややこしいだけで、寮内で優遇する相手と思えば、確かにそう難しいことではないのか…と、実弥は今更ながら納得した。
「実弥は自分も外部生だからな。戸惑う事も多いだろうし、何かあれば聞いてこい。
うちの姫さんに害が及ぶような可能性があること以外は答えてやる」
と、そんな実弥に錆兎が笑う。
寮長になれたのはこの級友と違う寮だったからなのだが、そのせいで寮的には敵対関係になるのは心底残念だ。
錆兎のことは能力的にはとんでもない怪物だとは思うが、人間的にはかなり気に入っているし、仲良くしたいと思っている。
ともあれ、今はとにかく寮長として金狼寮を率いていくのが急務である。
そのためには副寮長、姫君との関係改善も必要だ。
錆兎のおかげで自寮の姫君に対する接し方はなんとなくわかった気がするので、金狼寮の姫君に選ばれた我妻善逸にはとりあえず今更ながらに姫宮と呼ばれる副寮長について説明。
寮のバッジについても言及して、これで自寮の人間を判別して適当に使えと言ってやったら、なんと同じことを今朝ご丁寧にも錆兎が全て説明をしてくれていたらしい。
敵対関係のはずなのだが、自分達が慣れていない外部生の寮長副寮長だからなのか、手を貸してくれる気は満々のようだ。
あいつは本当にブレなさすぎだろ…と、実弥は感心しつつも呆れかえる。
まあとにかく、こちらが普通に話しかければ姫君の中等部生もややびくびくしていなくもないが、なんとかコミュニケーションをとってくるようになった。
そう、敵に塩を送りまくられて、実弥達はようやくマイナスからゼロにたどり着いて、寮生生活をスタートさせたのである。
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