虚言から始まるおしどり夫婦33_物語の終わり

「ああ、村田、わざわざ足を運ばせて悪いな。
本当はこちらから出向けばよかったんだが…」
と、しばらくすると5男をまとわりつかせながら随分と立派になった同期が笑顔で顔を見せる。

現役を引退してからも自身の鍛錬を欠かさず、また息子達には武道を教えこんでいるらしく、今でも筋肉隆々だ。

その横には白いおくるみに包んだ赤子を抱く義勇。

不思議なことにこの家の子ども達は男児は錆兎に、女児は義勇に生き写しだ。
義勇の腕の中ですやすや眠る三女も義勇に似た優し気な面差しをしている。



一方で

「あ~、村田のおじさん、いらっしゃい。
蔦子の新居関係ですか?お疲れ様です」
と、ひょいっと居間に顔を出した長男右近は父親そっくりの宍色の髪に藤色の目で、顔の傷がなくなった若き日の錆兎そのままだ。

「うん。お館様から、拝み倒してようやく嫁いできて頂くことになった大切なお嫁様だから何でも希望を叶えてあげてって命じられてるから」
と、冗談めかして言うと、あははっと明るく笑ったあと、

「ま、輝利哉様なら申し分ない縁談ですよ。
真菰ももう少し蔦子を見習ってほしいんですけど…」
と、途端に笑顔の温度が下がる。


それに村田はうあ~と笑顔のまま固まった。
もうその話題は本当に禁句だ。

義勇は普段静かで怒る時は声高にキレるが、錆兎は逆で、普段朗らかな男だがキレると静かになる。
そして息子達も同じくだ。

渡辺家は男二人のあとに女二人、その後に男3人で末っ子の女児が生まれたのは本当につい3ヶ月ほど前なので、ずっと男兄弟に挟まれた少女二人を、兄も弟も溺愛している。

いま目の前で静かにして冷ややかな笑みを浮かべる右近はかなり怒っていると見た。


しかしその父親はと言うと穏やかに笑いながら

「まあ本人の人生なんだから好きにさせればいい。
よしんばそのまま嫁になりたいと言うならそれも良し。
少しばかり年の差が大きいとは思うが…」
などと言う。


「父さん…本当に母さん以外に興味ない人ですよね。
子どもの将来はもう少し心配してください。
特に妹達のことは…」
と、そんな父親に呆れたため息をついて言う長男に、錆兎は

「俺が一生守るべきなのは義勇だけだからな。
子どもは意志の疎通が難しい3歳までは全面的に保護をする。
加減がわからん10歳までは最低限の安全確認と物の道理について教えて、13までは社会とのかかわりや距離感について導く。
その先は社会人になって家を出るまでは自分で四苦八苦しながら大人になるのを見守って、助けてくれと言ってくるなら助けて、失敗して戻ってくるならそれを受け入れて立ち直るのを助けつつ自立を促す。
お前達も真菰も、もう自分がどう生きるかは自分で考える年だ。
助けが必要なら自分で言うべきだし、自分の生きる道は自分で決めればいいと思うぞ。
俺も全てに手が回るわけではない。保護はまず義勇で、その後は幼子から優先だ」
と、言いながら赤子ごと義勇を抱きしめてそのこめかみに口づけた。


そして不満げな長男に

「まあでも真菰は大丈夫だ。
お前達は炭治郎の言葉を聞いて育っているからどうも不死川に良い印象がないようだが、亭主として考えれば年齢がちょっといっている以外は割合と良い男だぞ。
あれで元柱だから恩給もかなりでていて経済的に困ることはないし、腕もたつからいざとなれば真菰の一人くらい余裕で守れる。
顔は物騒だが、女房に手をあげることはしない。
不死川ほど暴力や暴言が身にならんことを知っている男はいないからな」
と、にやりと笑う。


ああ、確かに。
と、村田もその言葉に小さく噴き出す。


錆兎と義勇の婚姻前後の騒ぎを思い出すと苦笑いが浮かんできた。



それでも…結婚生活17年目に突入してもいまだに8人目を作って、上の子には女房が一番だと普通に口にするおしどり夫婦だ。

もうこれはどうやったってかなうわけがない。

早い時点で諦められた分、不死川も炭治郎も良かったんじゃないだろうか。




…錆兎……

錆兎との可愛い娘の婚姻のための支度の話を終えて村田が帰ったあと、授乳が終わったのなら…と、右近が赤子を見てくれている。

この数十年後には子育てをする男をイクメンなどと称する時代がくるのだが、この時代には非常に珍しくイクメンであった錆兎の息子達は父親の背を見て育ったせいか、みな賢く強く…しかし下の子達の育児も手伝ってくれるイクメン達に育っていた。

そんな風に上の子のおかげで出来る二人きりの時間。

義勇はすでに30代後半になっていたが、それでもやはり錆兎には甘えたい。
なので同い年だが逞しく強く…そしてまだまだ若々しい夫に抱き着いた。


とても不思議な事ではあるのだが、無惨が倒されて鬼のいない時代になり、産屋敷家の地下に居た義勇を女の身体に変えてくれたあの鬼も消えたのだが、義勇は男に戻ることはなく、今も女のままである。

今日、村田と昔話をして、ふとそのことを思い出して不思議に思っていることを伝えると、錆兎は少し考え込んで

「…結局男に戻れず後悔しているか?」
と、気づかわし気に聞いてきた。


夫婦となって早17年。
本当にわかっていないのだろうか…。

こんなに聡い錆兎が本当に?
コテンと小首をかしげた義勇は、もうさすがに良いだろうと真実を伝えることにした。



「実は…全て嘘だったんだ」

愛しい夫の顔を見上げて微笑む義勇に、錆兎は

「…うそ…?」
と、不思議そうに義勇の言葉をおうむ返しに繰り返す。

「そう、嘘だ」

むふふっとそれは若い頃から変わらぬ笑みを漏らす義勇に、錆兎はますますわからないといった顔をする。


いつでもわかるのは錆兎でわからぬのは義勇だったのだが、唯一、この件だけは逆のようだ。
まあ考えてみれば義勇の心のうちなわけだから、義勇自身がわからなければ困るのだが…


「炭治郎も不死川も関係はなかった。
2人に言われたことは本当だが、2人のことがある前からずっとずっと私は錆兎と一緒になりたいと思ってたんだ」

どうだっ!驚いたか?!と得意げな顔をする妻が可愛すぎて、錆兎は片手で顔を覆って息を吐き出す。

「ああ、そうだったのか。では俺もとっておきの秘密を教えてやろう」

「…とっておき?」
と、今度は義勇が首をかしげる番だ。


「ああ、お前よりおそらくもっと前からだ」
「…なにが?」

「何を隠そう俺の初恋は姉の着物を着て鱗滝さんの元に保護されてきたお前だった。
おそらく一目ぼれだったのだと思う」
「へ??」

驚きに目をまん丸くすると、本当に昔と変わらない。

が、どうだ、参ったか?!といたずらっぽく笑う錆兎を、義勇もそういう表情をすると昔と変わらないな…とおもっていることを錆兎は知らない。


しかし互いに思うのは…

──21歳までの時間、損したな。
…ということで。


──…9人目…できるかもしれんが……良いか?
と口づけてくる錆兎に

──望むところだ。大勢の錆兎で世界を満たすのが昔からの夢だった
と、笑う義勇。


互いに想いを隠し隠され虚言で始まったおしどり夫婦は、17年後に初めて全ての想いを打ち明け合って、今度こそ虚言も隠し事も一切なく、一つになったのであった。


恋愛物語も鬼退治の物語も、物語の終わりは全てめでたしめでたしである。

──完──


4 件のコメント :

  1. pixivからの続きを読むことが出来て
    感謝しております。
    やっぱり錆義は大好き💕
    また、素敵な作品をお待ちしております

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    1. 最後まで読んで頂いてありがとうございます😀
      ほぼ毎日何かしらを更新しておりますので、新シリーズもまたお付き合い頂けると嬉しいです✨

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  2. pixivから来ました。錆義推しのわたしとしては、このハッピーエンド、最高です!

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    1. ありがとうございます😊
      私も絶対にハピエン派です💕💕
      推しにはやっぱり幸せになって欲しいですよね💖✨

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