今日も元風柱屋敷、現不死川家には元気な少女の声が響き渡る。
「…帰れェ、お前の父ちゃんも兄ちゃんや弟達もおっかねえんだからよォ」
ガラガラっと玄関の戸を開けると、不死川実弥はため息をついた。
「あ、今日ね、おはぎ作ってきたよっ!
てか、そのだらしない格好、なんとかしなさいよっ!」
と、不死川の横を当たり前に通り越してパタパタと中に入り込むのは黒髪に青い瞳の愛らしい少女だ。
手にした風呂敷の中身は本人の申告通りだとしたらおはぎなのだろう。
この親子はどんだけ自分におはぎを貢ぐのが好きなんだ…と呆れつつも、不死川も30代後半にもなればいい加減性格も丸くなる。
例え断っても断ってもおはぎを作ってこられようと、あまつさえ勝手に家に入られて勝手に掃除を始められようと、もう好きにさせておくくらいのスルースキルは身についてしまったのだ。
そうだ、この娘の両親の祝言以降のドタバタ劇を思えば、自宅を好き勝手にされるくらい、本当に大したことではない。
少女の名は渡辺真菰。
そう、渡辺錆兎と冨岡義勇の長女である。
例え断っても断ってもおはぎを作ってこられようと、あまつさえ勝手に家に入られて勝手に掃除を始められようと、もう好きにさせておくくらいのスルースキルは身についてしまったのだ。
そうだ、この娘の両親の祝言以降のドタバタ劇を思えば、自宅を好き勝手にされるくらい、本当に大したことではない。
少女の名は渡辺真菰。
そう、渡辺錆兎と冨岡義勇の長女である。
あの日…錆兎と義勇の祝言の日、義勇が言い放った言葉の影響はその場だけではすまなかった。
なにしろ多くの人間が参加している宴で誰より注目されている新婦が口にした言葉だ。
鬼殺隊内で恐ろしいほど広まった。
まず一番困ったのが竈門炭治郎の恋人ならしい我妻善逸と同じ任務に就いた時だ。
もう怯えられる…だけではなく、恐怖に泣き喚かれる。
どうやら不死川が自分のせいで炭治郎にふられたのだと思って逆恨みされると思い込んでいるらしい。
前提も間違っているがそれ以前の問題で、ふられたからといって惚れた相手が惚れている相手に危害加えるとか、どんだけ俺をクズ野郎だと思ってんだ、と、言いたい。
いや…実際に言ったのだが、
「だって、炭治郎に聞きましたけど、別に恨みもない冨岡さんのこと意味もなく罵ったり、殴ったり蹴ったり斬りつけたりしてたんでしょっ。
恨まれてる俺なんて半殺しじゃないですかーー!!」
と返ってきて、あまりの心の痛みに不死川の方が泣きたくなった。
確かに…言われてみれば斬りつけるまではしていないが、そういう意味では自分はクズ野郎だった…と、もう反論の余地もなく思う。
心の痛みに耐えながら、その時は確か、自分は本当に炭治郎が好きだなんて思ったこともなければ言ったこともないのに、何故かそういう風に思われているんだが、どうしてそういう話になっているのか教えてくれないか?と、恥を忍んで頭を下げた。
信じてもらうために、自分は冨岡を好きだったがふられたところなので、炭治郎に惚れるとかはありえないということまで話した。
本当に少しくらい泣いてたかもしれない。
幸いにして我妻善逸という少年は随分と善良で心優しい人間だったらしく、そんな不死川をバカにすることもなく、不死川のことを言いふらしたりもせず、ただ教えてくれた。
「え?ええ?
あー…えっと……不死川さん、炭治郎に花をあげませんでした?
俺はそう聞いてるんですけど…」
と言われて思い出す。
「あ~…冨岡に渡そうと思って渡せなかった時のか…。
あれは単に捨てるのもどうかと思ってたところにたまたま奴がきたから、押し付けんのにちょうどいいと思って…」
「え?そうだったんですか?
俺が聞いたところによると、炭治郎は冨岡さんの家に行く途中で花をもらって、冨岡さんがそれを見て、炭治郎の誕生日の7月14日の誕生花のなでしこだったから、あまりそういう事に興味がなさそうな不死川さんも好きな子にあげるものは色々気を使ったんだろうって言ってたって…」
「げ…まじか…」
「…もしかして…花の種類は偶然でした?」
「ったりめえだろォ。男が誕生日の日の花とか考えて花を買うかよォ」
「…え、でも炭治郎が言ってたんですけど、錆兎さんは花言葉だけじゃなくて本数まで…」
「あ~、ただし宇髄と錆兎は別なァ。あいつらは仕事上知識の量が半端ねえ」
「あははっ」
もうなんというか色々力が抜けた。
実に親切なことに炭治郎の件は我妻が訂正をしておいてくれるというので任せることにして、不死川はもう少しだけ他人に対して優しくなろうと決意をする。
本当に…尖ってあちこちに喧嘩を売りまくっても悪いことは起きても良いことはないのだと不死川は思い知ったのだ。
それからすぐ、冨岡あらため渡辺義勇は妊娠出産のため水柱の地位を辞して家庭に入った。
そのことに全く心が痛まないとは言わないが、まあ惚れた相手が幸せならいいかと、さすがにそこまで行くとあきらめがつく。
その後…その不死川の想い人は結婚してすぐに出来た長男次男の双子を筆頭に、年子で双子の長女次女、さらに年子で三男、その下にも四男、五男と生まれてそれでさすがに終わりかと思えば一番上が16になる今年、末っ子の三女が生まれて、なんと8人の子沢山の大家族となっていた。
それだけ産めばさすがに肝っ玉かあちゃんにでもなるかと思うところだが、元水柱様は相変わらず小さく細くぽやぽやとしている。
父親の方はしっかりと大勢の子ども達を取りまとめ物理的にも世話をする父親になっているのとは対照的だ。
まあ…どこまで行っても義勇が義勇だから、子が8人もいても錆兎が大切に抱え込んでいるのかもしれないが…。
そんなどこか頼りなくも天然ドジっ子な母親の代わりというわけでもないのだろうがこの家では長女がその分しっかりしていて、家の切り盛りどころか、鬼の頭領である鬼舞辻無惨が倒されたことによって柱の前に“元”の一文字がついた、今では産屋敷家の事業の一つ、建設会社の大工をしているただのおっさんになった不死川の様子まで見に来てあれこれ世話を焼いていく。
不死川と違って肉体労働だけではなくお館様の名代を務めていた彼女の父親は、鬼がいなくなって産屋敷家が実業家になっても実質それを取り仕切るナンバー2で、彼女は紛れもなく資産家のお嬢様なはずなのだが、容姿こそ母親似でたおやかなくせにやっていることは本当に下町の肝っ玉母さんのようなところがある。
そんな風に彼女がお嬢様然としないのはしょっちゅう一緒に居るお前のせいだとその兄弟からはチクチク言われるが、その嫌味も押し掛ける彼女がやることも、全て言いたい様、やりたい様にさせている今の不死川を見れば、昔の彼を知っている者ならたいそう驚くに違いない。
「別にいいけどよォ、お前ほかに行くところもやることもねえのかよォ。
あんまここに来てっと、お前の親兄弟が殴りこんで来るんじゃねえか?
お前の兄ちゃんや弟達くれえなら現役退いた今でもかわせるけど、お前の父ちゃんはダメだァ。
現役時代でもぜんっぜん敵わねえで成すすべなく張り倒されたしなァ」
真菰が煎れてくれた茶をズズ~っと啜りながら言う不死川に、彼女はニコニコと
「大丈夫っ!兄弟はみんな機嫌悪くなるけど、父さんは別にここに来るの反対してないから」
と、自分も勝手にいれた茶を飲みながら驚くべきことを口にした。
「父さんが言ってたわ。
実弥ほど暴力や暴言が自分のためにも他人のためにもならないって身に染みてわかっている人間はいないって」
その言葉を聞いて不死川はもうため息をもらすしかない。
確かにそうだ。その通りだった。
あー…えっと……不死川さん、炭治郎に花をあげませんでした?
俺はそう聞いてるんですけど…」
と言われて思い出す。
「あ~…冨岡に渡そうと思って渡せなかった時のか…。
あれは単に捨てるのもどうかと思ってたところにたまたま奴がきたから、押し付けんのにちょうどいいと思って…」
「え?そうだったんですか?
俺が聞いたところによると、炭治郎は冨岡さんの家に行く途中で花をもらって、冨岡さんがそれを見て、炭治郎の誕生日の7月14日の誕生花のなでしこだったから、あまりそういう事に興味がなさそうな不死川さんも好きな子にあげるものは色々気を使ったんだろうって言ってたって…」
「げ…まじか…」
「…もしかして…花の種類は偶然でした?」
「ったりめえだろォ。男が誕生日の日の花とか考えて花を買うかよォ」
「…え、でも炭治郎が言ってたんですけど、錆兎さんは花言葉だけじゃなくて本数まで…」
「あ~、ただし宇髄と錆兎は別なァ。あいつらは仕事上知識の量が半端ねえ」
「あははっ」
もうなんというか色々力が抜けた。
実に親切なことに炭治郎の件は我妻が訂正をしておいてくれるというので任せることにして、不死川はもう少しだけ他人に対して優しくなろうと決意をする。
本当に…尖ってあちこちに喧嘩を売りまくっても悪いことは起きても良いことはないのだと不死川は思い知ったのだ。
それからすぐ、冨岡あらため渡辺義勇は妊娠出産のため水柱の地位を辞して家庭に入った。
そのことに全く心が痛まないとは言わないが、まあ惚れた相手が幸せならいいかと、さすがにそこまで行くとあきらめがつく。
その後…その不死川の想い人は結婚してすぐに出来た長男次男の双子を筆頭に、年子で双子の長女次女、さらに年子で三男、その下にも四男、五男と生まれてそれでさすがに終わりかと思えば一番上が16になる今年、末っ子の三女が生まれて、なんと8人の子沢山の大家族となっていた。
それだけ産めばさすがに肝っ玉かあちゃんにでもなるかと思うところだが、元水柱様は相変わらず小さく細くぽやぽやとしている。
父親の方はしっかりと大勢の子ども達を取りまとめ物理的にも世話をする父親になっているのとは対照的だ。
まあ…どこまで行っても義勇が義勇だから、子が8人もいても錆兎が大切に抱え込んでいるのかもしれないが…。
そんなどこか頼りなくも天然ドジっ子な母親の代わりというわけでもないのだろうがこの家では長女がその分しっかりしていて、家の切り盛りどころか、鬼の頭領である鬼舞辻無惨が倒されたことによって柱の前に“元”の一文字がついた、今では産屋敷家の事業の一つ、建設会社の大工をしているただのおっさんになった不死川の様子まで見に来てあれこれ世話を焼いていく。
不死川と違って肉体労働だけではなくお館様の名代を務めていた彼女の父親は、鬼がいなくなって産屋敷家が実業家になっても実質それを取り仕切るナンバー2で、彼女は紛れもなく資産家のお嬢様なはずなのだが、容姿こそ母親似でたおやかなくせにやっていることは本当に下町の肝っ玉母さんのようなところがある。
そんな風に彼女がお嬢様然としないのはしょっちゅう一緒に居るお前のせいだとその兄弟からはチクチク言われるが、その嫌味も押し掛ける彼女がやることも、全て言いたい様、やりたい様にさせている今の不死川を見れば、昔の彼を知っている者ならたいそう驚くに違いない。
「別にいいけどよォ、お前ほかに行くところもやることもねえのかよォ。
あんまここに来てっと、お前の親兄弟が殴りこんで来るんじゃねえか?
お前の兄ちゃんや弟達くれえなら現役退いた今でもかわせるけど、お前の父ちゃんはダメだァ。
現役時代でもぜんっぜん敵わねえで成すすべなく張り倒されたしなァ」
真菰が煎れてくれた茶をズズ~っと啜りながら言う不死川に、彼女はニコニコと
「大丈夫っ!兄弟はみんな機嫌悪くなるけど、父さんは別にここに来るの反対してないから」
と、自分も勝手にいれた茶を飲みながら驚くべきことを口にした。
「父さんが言ってたわ。
実弥ほど暴力や暴言が自分のためにも他人のためにもならないって身に染みてわかっている人間はいないって」
その言葉を聞いて不死川はもうため息をもらすしかない。
確かにそうだ。その通りだった。
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