虚言から始まるおしどり夫婦28_告白

「…話……」
まさか祝言をやめるとかそういう話では?!と、瞬時に青ざめる義勇。

甘露寺や胡蝶は錆兎に限って自分を見捨てたりはしないと言って居たが、もしかして今回の諸々でたまりにたまった不満が、いま、遊び惚けて夕飯の支度をしなかったことであふれてしまったのだろうか…。

どうしよう…どうすれば損ねた機嫌を戻せるんだ?
それとももう手遅れなのか…?

それなら錆兎に捨てられる前に死んでしまおうか…
いまこの瞬間に切腹したら間に合うか?

…と、もう考えていることはめちゃくちゃだが、動揺のあまり何も考えられない。


そんな義勇の様子に錆兎は

「すまん、俺は何かおかしな言い方をしたか?
そんな顔をするな。
なに、予定を変えるとかそういう話ではない。
単に俺のけじめみたいなものだ」
と、ポンポンと義勇の頭を軽くなでて、少し困ったように笑った。

そして
「まあ、入れ」
と、義勇の肩を抱いて中に促すと玄関の戸を閉める。


パシャン!と閉まる扉に義勇は退路を断たれた気になった。

が、そこで錆兎は下駄箱の上に手を伸ばす。
そこには何故か花が置いてあった。

それは3本の赤い薔薇。
家を出る時にはなかったので、錆兎が買ってきたのだろうか…


コテンと小首をかしげる義勇に
「受け取れ」
と、錆兎がそれを差し出した。

そして義勇が受け取ると、少し身をかがめて義勇の耳元に唇を寄せ、低く囁く。

──西洋には花言葉と言うものがあってな…“愛している”…それが薔薇の花3本の花言葉だ

え?え?ええ???

もうそれはそれは艶のある腰に来るような低音でいきなり囁かれて、義勇は耳を押さえて絶句した。
心臓はバクバクしているし、足には本当に力が入らなくて、そのまま床に崩れ落ちかける。
その体をすんでの所で支えた錆兎は、まだあるんだ、へたるには早いぞと、どこか楽し気な声で言うと低く笑った。


その後錆兎はそのまま義勇を支えるように奥に向かう。

そして奥へ奥へ進む途中の廊下の電話台の上にやはり一本置かれた薔薇を手に取ると、それを義勇に渡して

──薔薇1本の花言葉は”お前しかいない”…だ。
とチュッと義勇のつむじに口づけた。

この時点で義勇はもう死にそうだったが、さらに続けられた言葉は、

──3本と1本で計4本。薔薇4本の花言葉は“この気持ちは誓って死ぬまで変わることはない”

そのとてつもない破壊力ときたら、自分どころか地球だって支配できてしまうのではないだろうか…と、義勇はもうクラクラする頭でそう思った。

そうして居間に誘導。
そこにもやはり薔薇が用意されている。

「…5本の薔薇は“お前に出会えたことは心からの喜び”
そしてさきほどの4本と合わせて9本の意味は“いつも一緒に居て欲しい”

こうして義勇の手に9本の薔薇を握らせた状態で、錆兎は、
「飲み物をいれてくるな」
と、いきなり台所へ。

残された義勇はもう真っ赤な顔で9本の薔薇をガン見している。
自分の身に何が起きているのかすらよくわからなくなってきた。
自分の身には一体いま何が起きているんだ?
自分はもしかしてあまりに思いつめすぎて白昼夢でも見ているんじゃないだろうか…
だって錆兎は確かにこの洒落た花やそれにまつわる諸々に似合いだが、自分なんかが相手でいいのだろうか…と、真剣に思う。

そんな風に義勇が悩んでいるうちに戻ってきた錆兎が手にした茶の入った湯呑みが乗った盆の上にもやはり3本の薔薇。

そして
「3本の薔薇には“告白”という意味もあるらしい」
とそれも渡されて計12本になった薔薇の花。

それを持って固まっている義勇を錆兎が抱きしめる。

「…祝言を挙げるというのに俺は大切なことを言っていなかったなと今更ながらに気づいてな。
“告白”をさせてくれ…そして受け入れて欲しい。
薔薇の花12本の意味は俺の切なる望みだ」

──“俺の妻になってくれ”


…心臓が止まるかと思った……
ずっと望んでいたその言葉が、こんなすごい形で与えられるなんて、ついさきほどまで想像さえできなかったのだ。

これは…もしかして夢を見ているんだろうか…と呆然としすぎて働かない頭で思う。
しかし抱きしめる錆兎の腕は温かくて、これがどうやら現実らしいと実感すると、義勇は声をあげて泣き出した。

錆兎は我慢して結婚してくれるのだと、恋情は持たれていないと、ずっとそう思っていたのだと泣くと、錆兎は額から鼻先から頬から、顔中に宥めるような口づけを落としながら、

「すまなかった。
祝言を挙げるとか夫婦になるとか、その前に言っておくべきことだったよな。
お前に不安な思いをさせて本当にすまない。
全て俺が悪い。
泣かないでくれ」
と、優しく懇願する。

そうしてさらに優しく甘く
「…改めて…言わせてくれ。
“愛している”
“お前しかいない”
“この気持ちは誓って死ぬまで変わることはない”
“お前に出会えたことは心からの喜びだ“
“いつも一緒にいてくれ”
“どうかこの告白を受け入れて欲しい”
“俺の妻になってくれ”」
と、さきほどの言葉を繰り返した。

もちろんその言葉を切望していた義勇がそれに否というはずがない。
言葉と共に今度は唇に贈られる温かい口づけを義勇は思う存分受け取ったのであった。



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