家を出る前に夕飯の下ごしらえはして出ていたが、帰りが少し遅くなり過ぎた。
錆兎が戻ってくるまでに夕飯が出来ないかもしれない。
それでなくとも義勇の都合で夫婦になってもらうのに、遊びに行って遅くなって夕飯が出来ていませんでは申し訳ない。
錆兎は優しい男だからそんな義勇でも見捨てたりはしないだろうが、嫌にくらいはなるだろう。
そう思うと胸がぎゅうっと締め付けられて涙があふれてくる。
今日の女子会は新婚で少しでも伴侶の伊黒と過ごしたいだろうに、このところ元気がないように見える義勇を心配した甘露寺が開いてくれたものだった。
込み入った話もできるようにと場所はなんと伊黒家…つまり蛇柱屋敷で、義勇はやまほどの桜餅を背負って訪ねて行ったのだが、それを胡蝶にころころと笑われて、伊黒には呆れた…しかし、いつもよりは数割増しで柔らかい視線を送られる。
ああ、この夫婦はいま幸せなんだな…と思うと、羨ましさに自然と涙があふれてきた。
そんな義勇に、胡蝶も甘露寺も慌てて涙を拭いてくれて、そこから女子会と言う名の相談会が始まったのだった。
──錆兎は私に恋情があるわけじゃないんだ…
と、義勇の告白に、胡蝶はお茶を吹き出しかけ、甘露寺は桜餅を喉に詰まらせかけた。
「え~っと…義勇さんが天然ドジっ子の幼女なことはもうわかっていましたが…」
と、ハンカチーフで口元を拭きふきしながら引きつった笑みを浮かべる胡蝶。
「え~っと…義勇さんが天然ドジっ子の幼女なことはもうわかっていましたが…」
と、ハンカチーフで口元を拭きふきしながら引きつった笑みを浮かべる胡蝶。
その失礼な発言を訂正するでもなく、ただ困った笑みを浮かべる甘露寺は、
「え~っと…義勇ちゃんは何故そう思うのかしら?
一般的にみるとね、錆兎さん、かなり義勇ちゃんを大切にしているように思うわ」
と、それこそまるで幼女に聞くような声音でそう聞いてくる。
「…大切にされてないとは言っていない」
と、それにそう答える義勇に、胡蝶の頬がひくりとさらに引きつった。
そして何か言いかけるのを甘露寺が慌てて止める。
「あ、あのねっ、愛おしいと思う気持ちがあるから大切にしているんじゃないかしら?
義勇ちゃんはどうしてそうじゃないと思うの?」
「…どうして…か……」
義勇はそこでコテン…と視線を下に向けて、じ~っと考え込んだ。
5分…10分とそうしていると、だんだん胡蝶がイライラしてくる。
それを甘露寺がお茶とお菓子を勧めながら宥めていた。
考えて考えて考えて、やがて義勇は顔をあげると口をひらく。
──錆兎に夫婦になりたいと言われたことがない…
──…え?
──私、錆兎に結婚したいって言われたことがない!!!
言葉に出してしまえば余計に悲しくなって泣きながらそう言うと、
──それを早く言いなさいよ!!!
と、胡蝶が叫ぶ。
「ちょっとっ!!ほんっとにありえないんですけどっ!!
錆兎さんたら結婚するというのに求婚もしていなかったのっ?!!」
と、今度はポコポコと錆兎に怒りをぶつける胡蝶。
「え~っと…義勇ちゃんは何故そう思うのかしら?
一般的にみるとね、錆兎さん、かなり義勇ちゃんを大切にしているように思うわ」
と、それこそまるで幼女に聞くような声音でそう聞いてくる。
「…大切にされてないとは言っていない」
と、それにそう答える義勇に、胡蝶の頬がひくりとさらに引きつった。
そして何か言いかけるのを甘露寺が慌てて止める。
「あ、あのねっ、愛おしいと思う気持ちがあるから大切にしているんじゃないかしら?
義勇ちゃんはどうしてそうじゃないと思うの?」
「…どうして…か……」
義勇はそこでコテン…と視線を下に向けて、じ~っと考え込んだ。
5分…10分とそうしていると、だんだん胡蝶がイライラしてくる。
それを甘露寺がお茶とお菓子を勧めながら宥めていた。
考えて考えて考えて、やがて義勇は顔をあげると口をひらく。
──錆兎に夫婦になりたいと言われたことがない…
──…え?
──私、錆兎に結婚したいって言われたことがない!!!
言葉に出してしまえば余計に悲しくなって泣きながらそう言うと、
──それを早く言いなさいよ!!!
と、胡蝶が叫ぶ。
「ちょっとっ!!ほんっとにありえないんですけどっ!!
錆兎さんたら結婚するというのに求婚もしていなかったのっ?!!」
と、今度はポコポコと錆兎に怒りをぶつける胡蝶。
すると義勇が
「錆兎を悪く言うなあぁーー!!」
と泣きながら叫ぶ。
「いや、だって十分悪いでしょう?!!
どこが悪くないって言うんですっ!!」
「…っ…結婚は私の都合でっ…錆兎のっ……返事聞く前にっ…お館様に結婚したいって言いに行ってっ…お館様から言ってもらってっ……結婚することになったからっ……」
と泣きながら叫ぶ。
「いや、だって十分悪いでしょう?!!
どこが悪くないって言うんですっ!!」
「…っ…結婚は私の都合でっ…錆兎のっ……返事聞く前にっ…お館様に結婚したいって言いに行ってっ…お館様から言ってもらってっ……結婚することになったからっ……」
ひっくひっくとしゃくりをあげながら続ける義勇に、胡蝶は、マジかっ!という顔をして
「あぁ…それは……錆兎さん悪くないというか…むしろ、お気の毒ですね……」
と、思わず本音を零し、甘露寺に『しのぶちゃん、ダメ!』と止められる。
「あぁ…それは……錆兎さん悪くないというか…むしろ、お気の毒ですね……」
と、思わず本音を零し、甘露寺に『しのぶちゃん、ダメ!』と止められる。
「あ、あのね、でも、錆兎さん、義勇ちゃんのことちゃんと好きだと思うわっ。
見ていてわかるものっ!」
と、ぎゅっと手を握って言う甘露寺に、しかしそれは兄弟愛のようなものなのだと義勇は訴える。
今回の婚姻は実は元々は不死川と炭治郎の求婚をかわすためと言う名目で押し切ったもので、それでも義勇は錆兎と一緒に居られるなら構わないのだが、先日炭治郎が他に相手をみつけたと報告に来た日以来、錆兎が何か言いたげにしている、もしかして無理矢理押し切った原因の一つが解消されたことで、婚約を解消したいとか思っているのかもしれない……と、そう泣くと、甘露寺と胡蝶が顔を見合わせた。
「錆兎さんに限っていきなり義勇さんを突き放すことはないとは思いますが…」
「大丈夫っ!錆兎さんはちゃんと義勇ちゃんを好きだからっ」
と、それぞれ言う胡蝶と甘露寺だが、義勇以上に錆兎を知っているわけではないので、いまひとつ説得力に欠ける気がする。
慰めの言葉を受けながらも心は慰められることなく、ただただ泣いているとあっという間に時間がたって、気づけば夕方に。
錆兎は今日は宇髄と約束があるということだったが夕食は自宅で食べるので、せめて少しでも錆兎も気をひいておけるように料理だけはと思っていたのに失敗した。
慌てて伊黒家を出て街で買い物をし、泣きそうになりながら錆兎と暮らす錆兎の家に急ぐ。
これが見捨てられるとどめになったらどうしよう……そう考えると帰り着く頃には泣きそうというより本当に涙が出てきて、慌てて扉を開けようとすると義勇の手が戸に触れる前に、ガララっと音をたてて扉が開いた。
…あ……と、低くなった身長だと思いきり見上げることになる錆兎の顔には驚いた表情が浮かぶ。
まさか錆兎は出ていこうとしていたのか?!
と、出ていくも何もここは錆兎の家なのだからと、そんなことも思い浮かばず、またじわりと涙が溢れ出る義勇の目元を錆兎は指先でぬぐうと、
「どうしたんだ?!何かあったのかっ?」
と、どこか気づかわし気に聞いてくる。
それに
「…っ…さびと…っ…でていくのか…?」
と義勇が泣きながら言うと、錆兎は少し困惑した表情で
「お前、いつものことだが言葉がおかしいぞ。
そこは出ていくじゃなくて、出かける、だろう?
まあどちらにしても違うがな。
お前が遅いから心配になって伊黒の家に鴉を飛ばそうと思って外にでてきたところだ」
と言う。
そしてその言葉が嘘ではない証拠に錆兎の肩には錆兎の鎹鴉がとまっていた。
出ていこうとしていたわけではない。
そのことにホッとすると義勇はぎゅっと錆兎に抱き着いた。
見ていてわかるものっ!」
と、ぎゅっと手を握って言う甘露寺に、しかしそれは兄弟愛のようなものなのだと義勇は訴える。
今回の婚姻は実は元々は不死川と炭治郎の求婚をかわすためと言う名目で押し切ったもので、それでも義勇は錆兎と一緒に居られるなら構わないのだが、先日炭治郎が他に相手をみつけたと報告に来た日以来、錆兎が何か言いたげにしている、もしかして無理矢理押し切った原因の一つが解消されたことで、婚約を解消したいとか思っているのかもしれない……と、そう泣くと、甘露寺と胡蝶が顔を見合わせた。
「錆兎さんに限っていきなり義勇さんを突き放すことはないとは思いますが…」
「大丈夫っ!錆兎さんはちゃんと義勇ちゃんを好きだからっ」
と、それぞれ言う胡蝶と甘露寺だが、義勇以上に錆兎を知っているわけではないので、いまひとつ説得力に欠ける気がする。
慰めの言葉を受けながらも心は慰められることなく、ただただ泣いているとあっという間に時間がたって、気づけば夕方に。
錆兎は今日は宇髄と約束があるということだったが夕食は自宅で食べるので、せめて少しでも錆兎も気をひいておけるように料理だけはと思っていたのに失敗した。
慌てて伊黒家を出て街で買い物をし、泣きそうになりながら錆兎と暮らす錆兎の家に急ぐ。
これが見捨てられるとどめになったらどうしよう……そう考えると帰り着く頃には泣きそうというより本当に涙が出てきて、慌てて扉を開けようとすると義勇の手が戸に触れる前に、ガララっと音をたてて扉が開いた。
…あ……と、低くなった身長だと思いきり見上げることになる錆兎の顔には驚いた表情が浮かぶ。
まさか錆兎は出ていこうとしていたのか?!
と、出ていくも何もここは錆兎の家なのだからと、そんなことも思い浮かばず、またじわりと涙が溢れ出る義勇の目元を錆兎は指先でぬぐうと、
「どうしたんだ?!何かあったのかっ?」
と、どこか気づかわし気に聞いてくる。
それに
「…っ…さびと…っ…でていくのか…?」
と義勇が泣きながら言うと、錆兎は少し困惑した表情で
「お前、いつものことだが言葉がおかしいぞ。
そこは出ていくじゃなくて、出かける、だろう?
まあどちらにしても違うがな。
お前が遅いから心配になって伊黒の家に鴉を飛ばそうと思って外にでてきたところだ」
と言う。
そしてその言葉が嘘ではない証拠に錆兎の肩には錆兎の鎹鴉がとまっていた。
出ていこうとしていたわけではない。
そのことにホッとすると義勇はぎゅっと錆兎に抱き着いた。
「おい、本当にどうしたんだ?
何かあったのか?」
と再度投げかけられる錆兎の問いかけに
「…帰りが遅くなったから、夕食の支度…遅れてしまうと思って…」
と、義勇が答えると、
「なんだ、そんなことか。
大丈夫。お前が大方温めるだけで出来るようにしておいてくれたから、飯を炊いておかずとみそ汁は温めておいたから」
と、頭上で錆兎が笑う気配がする。
そうして錆兎は少し体を離すと、
「それより夕飯前にお前に少し話がある」
と、義勇の顔を覗き込んだ。
何かあったのか?」
と再度投げかけられる錆兎の問いかけに
「…帰りが遅くなったから、夕食の支度…遅れてしまうと思って…」
と、義勇が答えると、
「なんだ、そんなことか。
大丈夫。お前が大方温めるだけで出来るようにしておいてくれたから、飯を炊いておかずとみそ汁は温めておいたから」
と、頭上で錆兎が笑う気配がする。
そうして錆兎は少し体を離すと、
「それより夕飯前にお前に少し話がある」
と、義勇の顔を覗き込んだ。
Before <<< >>> Next (1月14日公開予定)
0 件のコメント :
コメントを投稿