虚言から始まるおしどり夫婦24_〇〇しないと出られない部屋その後

──錆兎、今まですみませんでした!!

そろそろ最初の祝言組、伊黒と甘露寺の祝言の日が近づいていて仲人をするお館様夫妻の支度や夫妻からの結婚祝いや祝言関係、伊黒達の新居の手配、彼らが稼働しない間の柱以外の任務の調整その他諸々で錆兎も忙しい。

そんな中、あの蟲屋敷の一件以来数日ぶりに炭治郎から鎹鴉を通して『会って話がしたい』と連絡が来たので、込み入った話ならゆっくりできた方がいいだろうと昼頃に自宅へ来るように言って自分も昼飯がてら自宅へ戻る。


義勇とは一緒に住み始めてはいるが、今日は当たり前に任務だし、炭治郎が来るのに善逸も一緒にということだったので、そう言えば彼はウナギが好きだと言っていたか…と、途中でうな重の持ち帰りを3人分購入する。

善逸も一緒にということであればそうおかしなこともすまいと、可愛い弟弟子とその良き友人を歓迎するため、機嫌よく自宅に戻って約束の時間を待つ錆兎。

そうして時間になって、──ごめん下さい──の声に玄関の戸を開けると、いきなり90度にきっちり頭を下げる炭治郎がいた。


土下座ではないもののまた何かをやらかしたのかっ?!
…と、さすがに構える錆兎だが、その炭治郎の口から出てきたのが冒頭の言葉で、ほぉっと肩の力を抜いた。


「…胡蝶家の娘さん達にはきちんと詫びてきたか?」
「…うん。翌日に菓子折りを持ってきちんと謝罪して、今後同様のことをしたらカナヲの全力の蹴りを受けるということで許してもらった」

「…そうか。ならいい。あがれ」
そう言って錆兎が中に促すと、隣にいる善逸と共に、お邪魔します、と、後について入ってくる。
こうして居間に落ち着くと、錆兎はお茶と共にウナギを出してやった。


好物に一瞬輝く善逸の顔。

それに思わずクスリと笑うと、彼は慌てて
「食事まで、すみませんっ。お気遣いをさせてしまって…」
と、彼らしく卒のない言葉を口にするので

「いや、いつも炭治郎が世話になっている。
今日はもてなそうにも義勇が任務でいなくてな。
俺はたいして料理が出来んから買ってきた。
遠慮なく食ってくれ」
と、飯を勧めてやる。


そこで炭治郎が
「ああ、義勇さんは不在なんですね」
と、きょろきょろとあたりを見回すのに

「うむ。話とは義勇も関係することだったか?
直接出なくても良いなら俺が伝えておくぞ?」
と言うと、炭治郎は少し考えて

「義勇さんにも直接お詫びをしたかったんですが…。
それは後日ということで、とりあえず今は錆兎から伝えてもらえますか」
と、言ってきた。



さて、普通に謝罪の言葉は今までの騒動のということで聞いていたのだが、さて、この可愛いが困ったところのある弟弟子は一体どういうあたりに着地したのだろうか…。

そう思ってその先の言葉を待っていると、炭治郎はとてもいい笑顔で、実は…と話し始めた。

その話を要約すると、例の〇〇しないと出られない部屋に閉じ込められて相手のことを本音で話すという条件だったため一緒に閉じ込められた善逸について真剣に考えた結果、善逸と夫婦になりたかったのだと気づいたとのこと。


なるほど。
普段は頼ってきて炭治郎の長男としての矜持を立ててくれながらも、なんのかんのいって炭治郎に甘くて疲れた時、くじけそうになった時には上手に甘やかしてくれる。

錆兎にとっての義勇のような立ち位置で、自分たちのように甘え下手な男たちにとっては理想の嫁像だな…と、錆兎も納得した。

おそらくいきなり自覚していきなり求愛したのだろうその時の炭治郎の様子が目に浮かぶようだ。
それに困惑する善逸の様子も…。

そして今、目の前で困ったような笑みを浮かべている善逸を見て、(これは…流されたな)と思う。


なにしろ相手は、事情だけ話して了承も取らないまま錆兎との結婚を決めてお館様の所に駆け込んで祝言を挙げる話をしていきなり血鬼術で女になって、錆兎には全て事後報告で済ませたくらい我が道を行く義勇の口から、一度思い込んだら義勇か炭治郎自身が死ぬまで諦めないと言わしめた男である。

そこまで強固な意志を持っていなさそうな善逸が逃げ切れる気は微塵もしない。


「…あ~…炭治郎。めでたくて結構なことだが、我妻にも色々希望や意見は聞いてやれよ?
で、我妻、あまりに炭治郎が自分だけで暴走して困るようなら知らせてくれ。
殴り倒して止めるから」
と、だけ言っておく。

炭治郎はそれに
「ちゃんと善逸のことも考えてるぞっ!大丈夫だっ!」
と意気揚々と言った風に答え、その隣で善逸は、あはは…と力ない笑みをこぼした。



「俺達のことより…」
と、それぞれ食事を食いながら、炭治郎が勢い込んで顔をあげる。

「ん?」
「錆兎こそ義勇さんのことで不死川さんとかが困ったことをするようなら言ってくれっ!
あの人は少しばかり常識では考えられない行動をとるからっ!」


…お前がそれ言うかぁぁーーー!!!
と言う錆兎の心の声。

それを察してやっぱり苦笑する善逸。


思いがけず和やかな時間を過ごした後、暇乞いをする炭治郎に錆兎はちょいちょいと手招きをして、

「これで帰りにあんみつでも食いに行け」
と、いくばくかの札を渡す。

「いえ、こんなことまではっ!」
とさすがに辞退する炭治郎だが、

「お前にじゃない。
お前がさんざん面倒をかけてこれからも面倒をかけるだろう伴侶に、親代わりの先生の代わりの俺からの挨拶みたいなもんだ。
今日は義勇がいなくて大したもてなしもできなかったしな」
と、錆兎が握らせると、

「わかった。ありがとう、錆兎」
と、そこでそれ以上遠慮するのもと炭治郎も礼を言って受け取った。



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