虚言から始まるおしどり夫婦20_女子会2

蟲柱はどうやら女性の味方…なのは良いが、過激派らしい。
女に暴力をふるうような男は断固として許すまじ!…という確固たる思いがあるようだ。

今は風柱の話だが、炭治郎だって度を過ぎれば彼女の言う“薬”を使われる可能性もある。
…というか、柱ですら怪しげな方法で追い払われるなら一般隊士の炭治郎の人権なんて風の前の塵のようなものだろう。


「うん、心配してくれてありがとう。
でも大丈夫。
錆兎が一緒だったし…錆兎がちゃんと説得してくれた。
本当に錆兎はすごいんだ。
私のことはあれだけ嫌っている不死川が錆兎の言う事ならちゃんと聞くし、説得される」
と、当の水柱はほわほわと自分の婚約者がいかに人格者で賢く相手を諫めたかを語る。

「まあ確かに…。
錆兎さんはお館様の代理人を務めるくらいの方ですしね。
でもお忙しい方ですから常に一緒というわけにもいかないでしょうし、錆兎さんがいらっしゃらない時に何かあるようなら、遠慮なく蝶屋敷に逃げ込んで下さいね」

水柱が男の時には面倒をみつつもやや辛辣な言葉もかけていた蟲柱だが、女性になったらとたんに辛辣さが鳴りを潜め、面倒見の良さが数割は増した気がした。

「不死川さんも悪い人ではないんだけどね」
と、何もしないうちから排斥する気満々な空気の蟲柱に、そこは万人に対して優しい恋柱がそうフォローを入れるが、

「好きな子に素直になれずに暴力暴言っておさなごじゃあるまいし。
大人になっていまだそんな態度しか取れない男は十分悪い人間ですよ」
と、にべもない。

「さんざん殴って暴言吐いた相手にどの面さげて求婚なんてできるのかその神経もわかりませんし、そんな男の求婚を受け入れる頭のおかしい人間がいるわけないじゃないですかっ」

と、さらに吐き捨てるように言う蟲柱の辛辣さに、善逸はひぃぃ~~と身をすくめるが、まあそういう意味では炭治郎は大丈夫だろう。

少なくとも水柱に失礼な言動や行動を取ってはいない。
善意を示しすぎて少し鬱陶しがられているくらいだ。


「うん…なんというか、確かに悪い人間ではないのだと思うけど、私の伴侶には向かないと思う。
なにより不死川は私のことがずっと嫌いだったから。
何故いきなり祝言の話になったのかよくわからない…」

当の水柱は蟲柱のように怒っているというより困惑しているらしい。
そう言って小首をかしげた。

それに蟲柱は少し今までの、彼女が男性だった頃のようによくしていた呆れたような顔を見せて
「これだから天然ドジっ子幼女は…」
と、はぁとため息をついて俯く。

それについては優しい恋柱も否定しようがないとおもっているのだろう。

苦笑しつつも
「だからね、不死川さんは義勇ちゃんのことを嫌ってたんじゃなくて、好きだったんだと思うのよ?
まだ小さかった頃のうちの末の弟もそうだったけど、小さな男の子の中には好きな女の子の気が引きたくて意地悪しちゃう子も結構いるの。
不死川さんは小さな子じゃないけど、たぶん子ども時代から今までが大変すぎて、そういう好きな子に対する諸々を学ぶことができないまま大人になっちゃったんだと思うわ。
だからね、悪い人じゃないのよ。嫌わないではあげてね?」

と、恋柱の発言はさすが大勢の兄弟姉妹の長女といった感じだ。
二人姉妹ではあるが末っ子の蟲柱と対照的である。


蟲柱の方は

「悪気があってもなくても、殴られたら痛いことには変わりありませんよ。
無抵抗の相手をむやみやたらに殴って痛みを与えてきたんだから、心の痛みくらい与えられたらいいんです。
だいたい今惚れた腫れたで暴力が収まったところで、特別な恋愛感情が続くのは4年と言われてますからね。
その後は情と思いやりがなければ元通りですよ。
暴力男と一緒になったって幸せになんかなれるものじゃありません」
と、にべもない。

「しのぶちゃんは容赦ないわねぇ…」
と、かばえばかばうほどイライラしたように加速していく蟲柱の毒舌に恋柱が場の空気を和らげようとしてかやんわりとそう言うと、

「…不条理な暴力で抵抗をしない出来ない人を意味もなく傷つけるなんて、やっていることは鬼と一緒です…」
と、蟲柱が呟くように言う。

きゅっと綺麗な形の眉を寄せて唇をかみしめるその表情はどこか傷ついた子どものようで、実際に彼女からは苛立ちよりも悲しさを感じる音がした。


「そ、そういう意味で言うと、伊黒は口では色々言うが女性はもちろん男にも手をあげたりはしないなっ。
かんろ……蜜璃にはもちろん特別に優しいし、良い伴侶をみつけたということだな」
と、そこでなんと水柱がフォローに入って善逸のみならず、女性柱二人も驚いた顔を見せる。

「そ、そうなのっ!
伊黒さんはね、私が柱になりたてで右往左往してた頃からとっても優しくしてくれてたのよ」
と、恋柱が慌ててそれに乗っかった。

そして、
「そう言えば錆兎さんだってそうよね。
しっかりしているし意味もなく手をあげたり声を荒げたりもしないし、義勇ちゃんにだってとても優しいし…。
みていてきゅん!としちゃうくらい。
今まで女性として生活していなかったから出かけるのに服装に困るだろうから用意しておいてあげようなんて気遣って下さる殿方、なかなかいないわよね」
と、話を広げていく。

それにさらに水柱が
「錆兎はとても気の回る男だから…。
でも蜜璃が普段隊服の時に履いている靴下だって伊黒の贈り物だってきいてるし、私たちと違って仲の良い幼馴染でというわけでもない同僚なだけの新人に気遣ってやれる伊黒もすごいと思う」
などと返して、二人でひとしきり互いの恋人を笑顔で褒め合った。

もう幸せオーラ満載で、さすが祝言を前にした女性二人だと善逸まで笑顔になってしまう。


そんな中で唯一独り身の蟲柱に関心がいったらしい。

「しのぶちゃんも良い人がみつかるといいわね」
「うん。しのぶは器量よしだからその気になればより取り見取りだと思うけど…」
「しのぶちゃんのお相手だとどんな感じの方がお似合いかしら」
「う~ん…柱に例えると……」
などと盛り上がる二人。

「私ね、義勇ちゃんが男性だった頃は、義勇ちゃんがお似合いって思ってたんだけど…
だってあなたといるとしのぶちゃんとっても良い笑顔だったから…」
という恋柱。

いやいや、それ、良い笑顔の理由違うでしょ…と、心の中で秘かに突っ込みをいれる善逸。


「いや…あれはたぶん怒られていたんだと思う。
しのぶはいつも笑顔で怒るから…」

「なんだ、気づいてたんですね、義勇さん。
それならちゃんと怒られないようにして下さったら良かったのに」
と、それを否定せず思いきり肯定する蟲柱に、水柱は

「…怒ってることはわかっても、何故怒られているのかわからなかった」
と、困った顔をする。


「しのぶの好みということを言うなら、私より蜜璃だと思う。
ずっと仲良しだったし」

「ふふっ、そうね。しのぶちゃんとはずっと仲良しだけど…でもそれは唯一の同性だからだと思うわ。
義勇ちゃんだってずっと同性だったら3人ずっと仲良しだったと思う」
と、そんな会話の間にも空いた器を積み上げていく恋柱。


たまに注文したものに残りの2人が興味ありそうな視線を送ると、黙ってひと匙その口に放り込んでやるあたりが、やっぱりお姉ちゃんだ。

ちなみに…それをパクンパクンと抵抗なく口にする二人は全く逆の性格に見えて、実は姉がいる二人姉妹の末っ子コンビである。


「それでもこれからはずっと一緒だし仲良しよねっ。
そのうち子どもも含めて家族ぐるみのお付き合いとかできたら素敵っ!
その時はしのぶちゃんもねっ」
と、そう言うといったん匙をおいて左右の手で蟲柱と水柱の手を握る恋柱。

「もししのぶちゃんに異中の殿方とかできたら絶対に教えてねっ。
協力しちゃうから。
というか…今はいないのかしら?
しのぶちゃんより強い殿方というのも少なくて大変かもしれないけど…」

「私は特に結婚願望はないので。
周りも本当にこいつは全く!と思う輩ばかりですしね」
と、読めない笑顔の下でどうやらその“周り”という男たちを思い出して腹を立てているらしい蟲柱。


「え?ええ??強さはとにかくとして、素敵な殿方はたくさんいるでしょう?
あ、そうだっ!師匠とか!
強いし優しいしすごく素敵な方よ?
あとは…ん~~~悲鳴嶼さんとか、すごく優しくて包容力あるし…
年下だけど、無一郎君とかだって強いけどとっても可愛らしくてきゅん!とするわよねっ。
不死川さんだって義勇ちゃんのことで反省したみたいだし、良い旦那様になるかも」
相手がいる宇髄以外の柱を指折り数える恋柱。
それに蟲柱が大きく息を吐き出した。

「煉獄さんはご本人はとても申し分のない人格者だとは思いますが、名家の嫁をやるには蝶屋敷の管理をしている身としては忙しすぎますしね。
悲鳴嶼さんは、姉ともどもお世話になったこともあって伴侶と言うより第二の父のようなものなので…
時透君は可愛らしいというのは同意です。
が、私普段は蝶屋敷の女主人と柱を兼任してる身ではあるんですけど、実は末っ子なのでっ。
私生活では頼れる年上の伴侶の方がいいかなぁと…。
不死川さんは論外です。
それでなくとも色々面倒を見る子が多いのに、伴侶まで躾けなおす気力はありませんっ」

普段は感情を出すことなくニコニコとしている蟲柱だが、完全なプライベートで友人達とだけいる時は人の好き嫌いとかも容赦なくはっきり言葉に出すらしい。

そんな気が強いところも可愛いなぁと、女性は皆可愛いという主義の善逸は思うわけだが、願わくばその怒りが自分や自分の仲の良い同期達にむけられませんように…とも思う。

結局その後は水柱と恋柱が終始自分の伴侶のきゅん!とするエピソードを語る大のろけ大会になり、恋柱の食べた甘味の皿がもうテーブルに積み重ねられなくなった頃に終了した。


正直…炭治郎が望むような情報は全く得られなかった気がするが、それはそれで仕方ないだろう。

むしろこれでどうあっても割り込む余地はないと悟って、別の幸せを見つけてくれれば…と、善逸は切に望むのである。


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