虚言から始まるおしどり夫婦19_女子会1

「きゃあぁぁ、義勇ちゃん、今日はとっても可愛らしいわ」
「ええ、れえすの半襟とその襟元のブローチがすごくお似合いです」
「あら、もしかしてブローチと髪飾りがお揃い?」
「まあ…本当。とみ…ぎゆうさん、実はおしゃれだったんですね」


涼やかな雰囲気の青い着物の襟元かられえすの半襟をちらりと見せて、それを小さな青い石の入った金細工のブローチで留める。

そんな都会のモダンな女性たちの間で流行っている和洋折衷を取り込んだオシャレ着を身に着けた愛らしい女性。
それが水柱冨岡義勇らしい。

男性の時も美しい男だったが、女性となったら絶世のと言って良い美女ぶりだ。

先日善逸も錆兎がその服装を選ぶのに付き合ったのだが本当に清楚で美しく、細く華奢な女性となった彼女にとても似合っている。

共にいる蟲柱胡蝶しのぶのことを初めて会った時に『顔だけで飯が食えそうなくらい可愛い』と善逸は思ったが、この水柱とて負けてはいない。

最後の一人の恋柱甘露寺蜜璃も髪の色こそ奇抜だがとても愛らしい顔をしているし、3人の愛らしい女性が集う姿に、通りがかりの人間たちがため息交じりの視線を送っていた。


今日の同行者、元々ずっと女性だった柱達から褒められて、水柱は顔を赤らめる。
男であった時より若干表情が豊かで柔らかい。

「これは…おれ…じゃない、私だ。
私じゃなくて錆兎が用意してくれたんだ」
と、言いなおす水柱に蟲柱は

「ちゃんと直そうとする姿勢は感心ですね」
と、頷いて、恋柱は

「別に私たちの間では事情もわかっているし言葉遣いは直さないで良いのよ?」
と、少し気遣うように言った。


それに水柱は二人ともありがとう、と、言ったあとに

「私の都合で色々変わっているなかで錆兎がこの着物や宝飾品を揃えてくれたり、その他にも一所懸命今の状況でやっていけるように努力をしてくれているのだから、私も少しでも女らしくなるように頑張らないと…」
と、やっぱり少しぎこちない笑みを浮かべて続ける。


水柱が錆兎…とその名を言葉に乗せる時にすごくふわりと嬉しそうな音が聞こえて、先日の錆兎の音のことも踏まえると、友人ではあるのだが、
(やっぱりこれは諦めるしかないよ炭治郎…)
と、善逸はそう思ってため息をついた。

まあ自分が約束したのは女子会の様子を探ることなので、その後のことは責任の範囲外だ。

(ショックを受けるだけで無駄だと思うけど…)
と、思いつつも、善逸は3人を追って甘味屋に入る。



女性同士かあるいは女性連れの男性が多い中で男一人で甘味屋に入るのは、人によっては随分と敷居の高い行為ではあるが、幸いにして善逸は全く気にならない。
こういう時でなくとも、疲れている時はふらりとあんみつを食べによることもあるくらいだ。

どちらかと言うと値段が張る分カフェでなくて良かったなと思うくらいは余裕である。

いや、どちらにしても飲食代は当然のように炭治郎から出ることになっているので自身の懐が痛むわけではないのだが、同期で互いの懐具合を知っているし、これで実を結ぶならとにかく、おそらくは叶うことのないその恋心を思えば、余分な出費はしないようにしてやりたい。
無理やり押し付けられた密偵役であるのにそんなことを思うくらいには善逸は優しい男だった。


ともあれ、女性柱達から少し離れた場所で一人あんみつを食べながら、善逸は聞き耳を立てている。

まずは呼び方の問題が気になったらしく、水柱が蟲柱に何故急に“冨岡さん”じゃなくて“義勇さん”になったのだと問うと、蟲柱は

「あらだって、蜜璃さんも義勇さんももうすぐ苗字が変わりますし。
それぞれの旦那様がよその人ならとにかく、同じ鬼殺隊内だと苗字呼びにすると夫婦どちらかわからなくなるじゃないですか」
と、まったくもってもっともな理由を述べた。
それに恋柱は、きゃあぁと頬に両手を添えて照れて見せる。

「そうよね、私ももうすぐ“伊黒さん”になるのだから、“小芭内さん”って呼べるようにならないといけないのね。
なんだか恥ずかしいわぁ」
と嬉しそうにはにかむ様子は愛らしい。

同席している蟲柱もそう思ったのだろう。

そんな恋柱の様子ににこやかに頷きながら、

「義勇さんはその点、錆兎さんのことは初めから名前呼びなので問題ないですね」
と、そつなく水柱の方にも話を振った。

もうそちらの方面からはこちらまでにこにこと笑みがこぼれてしまいそうな幸せな音がぽこぽこあふれている。

炭治郎には本当に申し訳ないのだが、善逸はやはり女性には笑顔で居て欲しいし幸せになって欲しい。

実は料理が得意ならしい水柱が
「錆兎のために料理を作るのは楽しいし、それを美味そうに食べてくれるのを見ているとすごく幸せだと思う」
と言う言葉に

「わかるわぁ!うちは伊黒さんは食がとっても細いのだけど、それでもね、私が作った料理を口にすると、ふわっと笑ってくれるのよっ。
その顔を見るときゅんっ!ってするの」

と、大きく頷いて、水柱の手を取って共感しあっている図をみれば、もうあそこは諦めて放っておいてあげようよ…と、心の底から思ってしまった。


友人である炭治郎には幸せになって欲しい。

だからこそ、あれだけ幸せそうな恋人同士の中に強引に割り込んでも、相手が幸せと思わない気がするし、そうすれば炭治郎だって幸せにはならないと善逸は思う。

そんな風に考えながらひたすらにあんみつの匙を口に運んでいると、まさにその幸せ談義に通じる話を蟲柱がし始めた。



「そう言えば…ぎゆうさん、先日の柱合会議の2日目のあと、大丈夫でした?
不死川さんがあまりにしつこいようでしたら、私に言ってくださいね?
最悪、薬を使いますので」

にこやかに恐ろしい発言をする蟲柱。


風柱の不死川が水柱の求婚してきっぱり断られた事なら善逸も炭治郎から聞いて知っている。

善逸が聞いていたのは一日目の柱合会議の後の話だったのだが、二日目の後も諦めずに言い寄っていたのか…と、善逸は聞き耳を立てた。


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