前世からずっと一緒になるって決まってたんだ61_脱出

「この人が黒幕ですかぁ。どないしはるん?」

怯えた水木に背中にしがみつかれた状態にも構わず、ズルズルとそのしがみついた水木を引きずりながらもダイニングに駆けつけた黒井は、まあ…帰れるなら俺はなんでもええんですけどね…と、他の考えをうかがうようにぐるりとまわりを見回した。


(…出来れば……もう近付いてこれないように拘束をしてもらえると……)

と、その背中でビクビクとつぶやいていた水木だが、ちらりと覗いた先にいた人物が炭治郎ではなかったため、あれ?と目を丸くしている。


「俺は…別にそいつに興味はない。好きにすればいい」
と、英二は相変わらずムスっとしたまま吐き捨てるように言い、煉獄は
「この時代だと個人でどうこうも出来まいが、やはりなんらかの監視体制の整ったところに置くべきだろう」
と困った顔を錆兎に向ける。


「こいつ今まだ18だよなぁ?
日本だと確か一応少年法の適応範囲内だし、司法に預けてもどうなんだろうなぁう?
お館様とかんとこで個人的にきちんとした監視体制取れねえのかぁ?宇髄」
と、一番シビアな意見を述べるのは不死川。

それに、宇髄は
「そうだなぁ…ちょっと相談してみるわ。
俺の一存ではなんとも言えねえな。
なんなら錆兎からも口添えしてくれ。
俺が言うよりは通るかもしれねえ」
と、肩をすくめた。

そのうえで
「どうしてもって言うんなら、それこそここは俺ら以外に誰もいねえ孤島だしな。
非合法な事するためにこっそり来てるんなららここで消えても誰も追及できねえし?
全員が共犯者になって消してまえば、それでおしまいだな。
狙ってくる奴がいなきゃ、ゆっくり脱出手段探せるようになるわな」
と、にこやかに続ける宇髄の言葉の不穏さに青くなる一同。

しかしそこで煉獄が
「でも逆に…ここの水や食料がなくならないうちに見つかるって言う保証もないぞ?
それだったら取引した方がいいんじゃないか?
少なくとも俺は仲間をここで餓死させるつもりはないしな。
こっちから一人人質出して、こっちはこいつを人質に取る。
で、船まで案内させて人質交換してさよならだ。
それだったら、そっち側だって、逃げる手段はいくつか用意してるだろうし、別々にこの島脱出してめでたしめでたしだろう?」
と、いきなりリビングとの境界のドアに固まる一同に視線を向けてにっこり笑った。


「「「えっ?!!!」」」
ぎょっとしてお互いバッと散って離れる面々。

元の場所にはただ驚いて目を丸くしている王が立っている。


「ちょ、おまっ…なんで気づいて??」
さすがに驚く宇髄。

自分や錆兎と同じような推理を煉獄が出来るとは思ってなかった…ら、本当にしていなかったらしい。

「ああ、それはな、その眼鏡の青年だけ警戒はしていたが、怯えてはいなかったからな」
と、非常にファジーな返答を返してくる。

「黒井とかの方が能天気にしてなかったか?」
とさらに聞く宇髄に、いきなり名指しされた黒井はぎょっとしたような焦った顔をするが、
「そっちの青年はなるべく物理的にやらなければならないことに集中することで、そういうわけがわからん怖いものは見ないようにしてるように見えた。
実はお化けとかが苦手なのだろう?」
と、にやりといたずらっぽい笑みを向ける煉獄に、彼は
「お見通しですか。あたりです。昔からあの得体知れへんもんは苦手なんですわぁ」
と、きまずそうに頭をかく。

さすが、運と勘だけで世の中を渡っていく金太郎の子孫だけある。

「…なんというか…チートな勘の鋭さですねぇ…」
と、ずるりとずり落ちた眼鏡をなおしつつ、王は呆れたように息を吐き出す。


結局…無惨の側にしても目的は宇髄が思った通り、宇髄に罪を着せること、うまくすれば手を下さずに他に害させること、そして水木を脅して生涯不安に怯えた生活をさせること、そしてさらに出来れば義勇を確保することであって、義勇が手に落ちない以上、全員を水も食料もなくなるまでこの場に放置という選択はなく、適度なところで脱出のための船に誘導するつもりだったらしい。

一応無惨の側に特に良くも悪くも思い入れのない相手ということで、本人が志願してくれた事もあって黒井を人質に、それなりの大きさの船に食料と水を積み、全員が乗ったところで人質の受取人として不死川が立って、無事人質を交換。

王を除く全員で島を脱出した。


「…ほんま…親父に無理無理放り込まれた演奏会のはずが、すごい体験でしたわぁ…。
これはもう旅仲間達に自慢したらな」

船には無線がついていて、操縦も連絡も宇随がしている間に一息ついたところで、黒井が相変わらずな様子で語り始める。

「まったく…あんなんで全員無事っちゅうのがすごいことだと思いますね」
と、全員の顔を見回して、あ…と気づいて、少し気まずそうに声のトーンを落とした。

「まあ…色々暴いたらあかんもんが暴かれてもうた部分もありますけど……」

少し離れたところでは出航してしばらくして意識が戻った英一に、不死川が英一が倒れてからの一連を説明している。

終始無言で…それを聞く英一に背をむけているくせに、英二もそこから離れない。
その場所だけ妙に空気が重い。


「…俺…警察行きかな」
全てを聞き終わった後、当然色々な画策がばれている事は予測がついているのであろう。
ハハっと力なく笑って英一がそう言うと、英二がクルっと振り返った。

「お前馬鹿かっ?!王に毒入りのコーヒー飲まされてなんでてめえが警察行きなんだよっ!」
唇を尖らせてそういう英二に、は、ああ、大丈夫そうだなぁ、と、不死川は少し安堵する。

「でも…わかってるだろう?俺コーヒーに小麦粉混ぜた。」
「自分で飲んだだけだろっ!ああっ!変わった趣向だよなっ!お前の味覚大丈夫かよっ!!」
と、怒鳴りつけるように言う英二の目は潤んでいる。

「お前がいなくなったら、誰が俺の事起こして、誰が飯用意して、誰が苦手なインタビューとか代りに全部答えて、誰が寝れない時に子守唄弾くんだよっ!」

「…お前は世界の加瀬英二で…望めばいくらでもそんな相手くらい手にいれられるだろ?」
大声でまくしたてる英二に英一が苦笑する。

「ああっ?!俺は金で手に入る奴なんかに身の回りうろちょろされんのなんか嫌だからなっ!!
子守唄だってガキん頃、まだバイオリンもへったくそだった時から聞いてるあの音色じゃねえと嫌なんだよっ!!
お前は他の奴にでもそうしてやれるかもしれねえけどっ、俺は他じゃやだからなっ!!
英一に女が出来ようと、ガキが出来ようと、そのあたりは絶対譲れねえからっ!!」
ぎゅうっと子どものように抱きつく双子の弟に、英一は少しびっくり眼になった。

「離れていくのはお前のほうだろ?今度日本離れて一人でUSで活動するって…」
「へ?なにそれ?!俺聞いてねえっ!」
「え?」
「やだっ!!英一行かないなら俺行かねえぞ?!」
「ちょ、なんで当人聞いてないんだよ。…まいったな……帰ったらマネージャーに確認する」

天才の弟に嫉妬心を拗らせたものかと思いきや、単に…実は仲良しすぎる兄弟の痴話喧嘩のようなものだったのか……。

――うん…俺ぁ邪魔だよなぁ……。
と、そのあたりで不死川はその場を離れた。


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