前世からずっと一緒になるって決まってたんだ56_呪詛

ああ、あの得体のしれない目…。
あの目から逃れたくて自分より強い意志を持った後輩に秘かにすがったのに…。

ああ…恐ろしい…
あの男はまったくもって恐ろしい…。


所詮は孤島なわけだから逃げ切れるはずもなく、一人離れれば危険なだけだ。

冷静な人物であれば普通にそう思うところではあるが、元々メンタルが強くなく、さらに少々身に覚えのある人間が、長年怯えてきた相手の…さらに生首に出会ったのだ。
少しでも距離を取ろうと逃げだしもしたくなる。


水木は部屋の前から一目散に階段に。
あの生首が言う【裏切り者】とは間違いなく自分のことだという自覚はある。

とにかく炭治郎から離れなければ…と、螺旋階段をかけ降りて、館から逃げるべく外へのドアへと駆け寄ると、ギィィ……と開くドア。


「どこへ行くのだ…?」

おりしもドドーン!という音と共に光る雷を背負ってびっしょりと雨に濡れた男が立っていた。
そう…たった今逃げてきたはずの生首と同じ顔をした……

その顔にはかつて…男が学園からいなくなった半年前まで、常に水木を委縮し怯えさせたあの温度を感じさせない笑みを浮かべていて、水木は自分の中から血の気がさ~っと引いて行くのを感じた。


「……あ……あ………」
言葉もなくガタガタ震えている水木に、男は笑みを浮かべたまま静かに語る。

「…味方かと思っていたからな…陰で裏切ってたと知った時はなかなの衝撃をうけた。
俺は皆に優しい親切な男でいたというのに――俺の大事なものに手を伸ばしてくる敵以外には。
……こうなると…むしろ敵より憎くなるのが当然だろう?
そう…自らの身を悪魔に売ってでも呪いたくなる程度にはなぁっ水木!!


カッ!!と開かれた目に再度鳴る雷。

「お前だけは…お前にだけは幸せな人生なんて歩ません!
生きている限りはお前の周りでは不幸が続き、死んだらその魂は地獄行きだ!
嬉しいかっ?嬉しいかぁ?!!
お前が貶めた相手が自らの命を投げ打ってまでかけた呪いだぞっ?!



「うっぁ…ああああぁぁ~~!!!!」
生首となって死んだはずの男の独白に水木は頭を抱えてへたり込んだ。



「なるほど…そういう事だったのか…」

水木から遅れて水木を追って2階から降りてきた宇髄は少し離れた場所で炭治郎の容姿の無惨と水木のやりとりを観察している。
そのさらに後方には宇髄に付いてきた王。

そんな中で宇髄は新しく入ってきた情報を整理していた。

もし黒幕が無惨であるとしたら、本当の目的は加瀬兄弟ではないことは確かだ。

最初は加瀬兄弟の事件で、これは芝居でもなんでもなく実際に人が殺されるのだというプレッシャーを与えて、あわよくば宇髄を犯人として追いつめられれば…というものだと思っていた。

が、実は今回の件にはもう一つの目的があり、それは実は半年前、宇髄に炭治郎の行動を密告してきた密告者だったのであろう水木に対する復讐だったのだ。

良くも悪くも興味を持つと異様に粘着質な無惨の事だ。
密告者を突き止めて復讐するくらいはするだろう。


黒魔術めいた事は以前もやっていた。

…が、死んで生首となって、悪魔との契約を結んで別の体で行動なんて事は、リアリストの宇髄には到底信じられない。

どういうトリックだ?


さっきの生首はどういう状態だった?

テーブルはテーブルクロスがかかっていて中は見えなかったから、穴のあいたテーブルに体だけ隠れていたとか?
でもこの短時間にどうやってあの2階の部屋から着替えて外まで出た?

クルクルと色々な可能性が回る。


とりあえず…目の前の炭治郎をふん縛って2階のあの部屋の生首と並べてみればハッキリするのか…。

そう思って階段の陰から飛び出して炭治郎に特攻しようとする宇髄だったが、いきなり

「宇髄さんっ!危険ですっ!」
と腕をしっかりと掴んでそれを阻止して言う王の声に、せっかく気づかれずにいた存在を気づかれてしまったようだ。

一瞬驚いたように目を見張る炭治郎は、すぐにやりとまた笑みを浮かべる。


「相変わらず…こっそりと他人を陥れることが好きな男だな」

「…お前に言われたくねえよ。
俺や水木はとにかくとして、本気で関係ねえやつ巻き込んでんじゃねえ」

「それは…貴様のせいだろう?
貴様が面白半分に私からぎゆうを引き離そうなどとするから…」

「…義勇の事なら…明らかに迷惑がってたのをいい加減認めろっ」

「少なくとも今生ではそんなことはなかった!
貴様らがぎゆうに言い含めてそう思わせたんだろうがっ」

「…宇髄さん…上の様子が心配じゃありませんか?」
と、ツン…とその袖口を引っ張って延々と続きそうな言い争いに終止符を打ったのは王だ。

ああ、確かにこれが何かの時間稼ぎとも限らない。

そもそも今は一応敵側だと知られたくないらしいので、無惨がやばくならない限りは王も敵対行動は取らないだろうが、黒幕である無惨が危ないとなれば、正体をあらわして敵対する可能性は高い…。

そうなれば王を背にして無惨に向かったら、背後をから挟み打ちで2対1で戦うことになる。

そういう意味では多少は武道の経験を積んでいる自分と違って、水木はどう見ても戦力にはなりそうになく、下手をすれば人質にされかねない。
そうなったらかなりきつい。


――ここは…引くしかねえか…。仕方ねえ…。
と、宇髄は内心舌打ちをして、しかしそんな様子はおくびにも出さず、

「俺が奴の気を引いておくから、王は水木さんの回収頼む…。
回収したら即撤退。二階組と合流な」
と、どうやら無惨から引き離して2階に戻したいらしい王の意見を受け入れて指示をする。


「わかりました。危険ですし絶対に深追いはしないで下さいね。
水木さん回収したら即撤退しますよ?」
と、言う王に頷いて、宇髄は飛び出した。


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