前世からずっと一緒になるって決まってたんだ51_魔女は誰だ

こうしてとりあえず宇髄の疑惑は半分くらい薄れたところで、それでは気になるのは本当の犯人である。

「それは…確かに…。ほな誰がどうやってなんのために?」
目を丸くしながらも場をまとめてそういう黒井の質問にも、錆兎は淡々と

「それを考えるのは俺の仕事じゃない。宇髄、考えろ」
と、当たり前に投げ出した。



「え?なんでそこに振りはるん?!」
ついさきほどまで犯人疑惑が沸いていて、それも完全に晴れたとは言えないあたりに振る錆兎に

「可能性を探れるほどの情報を集めてくるなら俺が考えても良いが、それをやるのは本来俺の仕事じゃない」
と、どきっぱり。

「うむ!錆兎は筆頭の家だからなっ!決断を下すことはしても、確かに些末なものを集めるのは俺を含めた3家の人間だなっ!」
と、そこで煉獄がまた本人的には特にそんなつもりはないのだが、まるで声を張り上げていると思えるような声の大きさでそう宣言した。

「ちなみにっ!錆兎が渡辺の子孫なら、俺は坂田、義勇は卜部の子孫で、実は宇髄も碓井の傍流だと聞いたことがある!」

「まじっ?!ホンマでっか?!そんなに揃うもん?!てか全員の家系が続いていて今でも連絡取り合ってはるん?!!」

さすがにこれには驚く黒井に、宇髄が

「あ~正確には俺は‎碓井貞光のではねえぞ。
奴よりもっと前の先祖のあたりで分かれた傍流だから。
他3人に関しては本当だ」
と、手をあげつつそれを肯定する。


「うあ~うあ~うあ~~!!ええもん見せてもらいましたっ!」
と、はしゃぐ黒井。

だんだん話がそれそうになるので、宇髄がはぁ~と大きくため息。

「とりあえず、今わかってる範囲の説明をするわ」
と、諦めて話し始めた。



「まず毒の摂取はコーヒーからと仮定して…だ、全員口つけてるわけだから、たぶん入ってたのは英一のカップにだけだということだよな。

ということは…無差別に一人スケープゴートにあげたかったか、もしくは、誰かが特定の誰かに害意を持っていて混入したものと考えられる。
まあ動機はまだわかんねえからあとで。
経緯を先に説明する。

俺は英一とキッチンでテーブルの上に置いてある10のカップとインスタントコーヒー、あとはガスコンロの上にヤカンに沸かしてある湯、あとは数袋のスナックをみつけたんだ。
その横に『どうぞお召し上がり下さい』って書いたカードが置いてあったんで、まあ飲み食いしてもいいものと判断した。

もちろん飲食物は全て未開封のものだった。

で、みんな腹が減ってるだろうからって英一がスナックをこっちに持ってきたのは皆も知ってるところだ。

その間、俺は英一に頼まれてカップを全部一旦洗った上で、同じく洗ったスプーンで未開封のインスタントコーヒーを開封してコーヒーを淹れた。

…てことはだ、この段階では致死量になる量の毒がカップについていてもカップを洗っているから洗い流されるし、水、もしくは湯の方に毒が入っていたら全部のカップの中に入るから、1つのカップにだけ毒の混入というのは不可能だ。
キッチンは人が隠れられるような場所もないし誰か来れば俺が気づく。
ということで、この時点で混入出来るのは俺だけだ」


「それ…言ってしもうてええん?」
と黒井は苦笑するが、宇髄は
「まあ全ての可能性を提示しねえと意味ねえしな」
と、答えて続けた。


「で、その後英一が戻ってきて一緒にワゴンにカップを乗せ、俺は戸棚にみつけたクリープを取るのに戸棚の方を振り返る。
この時は英一は混入可能だ」

「ふざけんなっ!!」
と、その言葉に英二が吠えるが、黒井が

「飽くまで可能か不可能かの話しとるだけですわ。
宇髄さんは自分かて可能やった言うてはるし」
と、まあまあとそれをなだめ、

「続けましょ」
と、先をうながした。


「その後二人でリビングへ運び込む。
それぞれカップを取りに来たよな。
その時はドサクサに紛れて…というには、人目がありすぎて無理だと思う。
その後カップは王の手へ。
ここで大勢の視界から一旦カップが外れる。
つまり、毒の混入が可能になる」
と、そこで名が出た王が青くなった。


「ちょっと待って下さいっ。
私がそのコーヒーを飲まなかったのは偶然ですよ?
私が犯人だとしたら、英一さんがカップを換えて欲しいと言い出さなかったら、自分が飲むコーヒーに毒物を入れた事になります。
錆兎さんが毒の対処法を知っているというのも、さきほどまで誰も知らなかったことですし…」

身を乗り出して訴える王を錆兎は軽く手で制して、

「落ち着いてくれ。宇髄は今は黒井が言ったように、やったかやらないかじゃなく、出来たか出来なかったかだけを論じてるだけだから。
出来たのとやったのはまた別の話だから」
と、苦笑する。

そこで王は不承不承引き下がった。


「てことで、カップは再度英一の手に。
これからは英一がずっと手にしてるから、英一以外は混入不可能。以上だ」

「…で?結局あれだろ?お前の他に毒を入れる事が出来た奴は、二人共自分が飲む可能性がある奴ってことは、もうお前に決定だろ?」
と、英二。

「宇髄さん、自分で自分の首絞めたらあかんやん」
と、黒井も可哀想なものを見る目で見る。

「う~ん…そうなんだよなぁ……」
と宇髄は腕組みをして、それからチラリと錆兎と不死川を見た。

「で…可能性をあげてみたんだけど、なんか気づいた事は?」

ふられて不死川は少し困った顔をして首を横に振るが、あ、でもそういえば…と、手の中から小さな包み紙を取り出した。


「これ…なんだと思う?さっき英一に人工呼吸した時に拾ったんだがぁ…」
「どれ?」
と、錆兎がそれを受け取った。

「ちょ、それ毒なんじゃないですか?
どうしてかわからないけど英一さんが自分で毒をいれたとか…」
と、水木が言うのを押しのけて、錆兎がその紙に残った粉を指ですくってペロリと舐めた。

「うあああ~~!!!!」
一同その行動に悲鳴を上げる。

「錆兎っ!すぐ吐き出してっ!!」
と泣きそうにすがる義勇に、錆兎はなんでもないように笑ってみせた。

「ああ、このくらいなら本当の毒でも平気だぞ?
毒だったら少しピリッとするかと思うて舐めてみたんだけど、これは違うな。
ただの小麦粉だ」

「は?」

「宇髄、ちょっと来てみろ」
と、そこで錆兎は有無を言わさず宇髄の腕を掴んで引き寄せると、鼻をつまんで口をあけさせ、思い切り紙に擦りつけて残った粉をつけた指をその口に突っ込んだ。


「ひいぃぃぃ~!!!!!」
と、悲鳴を上げる一同。

「ちょ、錆兎何すんだぁっ?!」
不死川が慌てて宇髄に渡そうと自分の飲んでいたコーヒーに伸ばした手を掴んで止めさせて、錆兎は、まあ落ち着け、と、言った。


「俺も舐めたから大丈夫だ。宇髄の舌だったらわかるだろ?小麦粉だって」
と言う錆兎に、当の宇髄は

「そうだな、言われてみれば…」
と、少し落ち着いて味わってみて、頷いた。


「…ああ…そうなんだ。でもなんで小麦粉……」
と、錆兎の後ろで義勇がホッとして肩をなでおろしながらそう首をかしげて、ハッとしたように英二に視線を向けて、しかし慌てて首を振った。

そんな義勇に錆兎の言葉を聞いてから何故かずっと呆然としていた英二は

「…なんで……?」
と、小さく呟く。


その呟きは当然周りの人間の耳にも拾われる。

「なんでだよ?!今更だろ?俺達の関係なんて…」
と、周りの視線も全く意に介さず頭を抱えて言う英二に周りはわけがわからず首をかしげるが、そこで義勇が

「えっと…でもそういう意味でもってたんじゃないのかも?」
と言うも、

「じゃあなんでこんなもん持ち歩いてんだよっ!砂糖や塩とかならまだしもっ!!
小麦粉なんて普通持ち歩かねえよっ!!」
と、子どものようにポロポロ泣く英二に義勇は心底困ったように眉を寄せる。


どうしよう…?と言った風な視線を向けられて、錆兎はチラリとその義勇に視線を送った。
何か知っているのか?という恋人の言外の問いに気づかぬ義勇ではない。


そこで

「うん…以前加瀬兄弟の特集記事で…加瀬英二の方が小麦粉アレルギーだから海外在住の間もほぼ和食って話をしてたから…」
と、小さな声で錆兎にだけ耳打ちしてきた。


…なるほど…わかった。
と、錆兎はそれに小さく返す。

そして宇髄にちょいちょいと手招き。

「…犯人はわかったぞ?それぞれの奴の状況もな」
と険しい顔で言う錆兎の藤色の瞳がぴかりと光る稲光に光った。



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