と宇髄自身も自分のコーヒーをすすって思わずため息が出た。
自分で思っていたよりも体は冷えきっていたらしく、年寄り臭い表現だが、五臓六腑に染み渡ると言った感じだ。
「宇髄君は一番寒い中で動いたもんね。お疲れ」
と、柔らかい労りの言葉と共に、英一もイタリアの某有名メーカーのグリーンの地のカップに口をつけ、コーヒーを一口。
「なんだか俺も寒い所にいたからかな。熱いコーヒー飲んだらなんだか舌や唇がしびれてきた」
と言ったあと、しばらく談笑していたが、やがて少し震える手でカップを近くのテーブルに置いた。
「英一?」
「ああ…なんだか疲れたのかな?なんだか指先も痺れてきて…カップ落とすと割れるから…」
と、ここで宇髄はようやく様子がおかしいことに気づいた。
「ちょっと座っとけ。寒気とか吐き気は?」
慌てて椅子を勧める宇髄に小さく礼を言って崩れ落ちるようにそれに座る英一。
さすがに周りも気づいて寄ってきた。
「英一さん、どうしたんですかっ?!」
という黒井の問いに宇髄も
「わからねえっ」
と首を横にふる。
「なんか舌とか唇とか指が痺れるって…」
と、その後に宇髄が口にした瞬間、駆け寄ってきた不死川の視線が英一がコーヒーを飲んだカップに注がれた。
「これ…飲んだあとか?」
と言われて、宇髄は、
「たぶん…」
と答える。
「…吐かせた方がいいかもですね」
と、黒井は青い顔で言うが、そう言っている間にもどんどん英一の顔色が悪くなっていき、呼吸困難を起こし始めた。
「ちょ、ざけんなっ!負け逃げなんか許さねえぞっ!英一っ!!吐きやがれっ!!」
誰もが呆然とする中、ドンっ!と周りを突き飛ばして英二が駆け寄ってくると、英一の襟首を掴んで椅子から立ち上がらせ、体制を変えて顔を下にすると吐かせようと口に指を突っ込んだが、吐けない。
「だめだっ!多分違うっ!!先に人工呼吸しろっ!!」
と、そこでそれまでしっかり義勇を抱え込んだまま考え込んでいた錆兎が何か思いついたように叫んだ。
そこでハっと弾かれたように不死川が動く。
英二から英一を取り返すと床に寝かせ、気道を確保して空気を送り込み始めた。
「実弥が疲れたら次やるのはお前だ。準備しとけっ!自分の兄貴だろう?」
と、取り返す際に突き飛ばされ、普段なら怒鳴るなりなんなりするだろうに、英二はただ目を見開いて人工呼吸を繰り返す実弥を青い顔でみつめている。
「なあ…結局コーヒーに毒が入ってたってことかい?俺飲んじゃったんだけど…」
と状況が少し停滞し始めたところで、水木が真っ青な顔で錆兎の袖をひっぱった。
錆兎はその手をそっと外させたあと、落ち着かせるようにポンポンと軽くたたき、
「一応まだ症状が出てないということは大丈夫だと思う。
症状出たとしてもテトロドトキシンだったら症状出たら即人工呼吸して呼吸確保して待っていたらいいらしいしな」
とだけ言うと、やはりショックを受けて青くなっている義勇には
「たぶん…大丈夫だと思うけどな、万が一舌や唇、指なんかに痺れが出たら俺に教えてくれ。
安心しろ、俺がきちんと処置してやるから」
と、優しい口調で言って抱きしめる。
「えと…テトロ……?」
と、それでも不安げに聞きなれない単語をオウム返しに繰り返す水木に答えたのは宇髄だ。
「テトロドトキシン。わかりやすく言えばフグの毒だ」
「なんでそんな事知ってるんだよっ!!」
「え~、テトロドトキシンがフグの毒くらいは常識ちゃいますか?」
と、ヒステリックに叫ぶ水木にそう言うのは黒井である。
しかしその後彼はチラリと錆兎を見て続けた。
「そう、テトロドトキシンがフグの毒っちゅうのは常識やけど…今回の毒がそれってなんでわかりはるん?
推理小説とかやと…ここは青酸カリとかそんなとこやと思いはらへん?」
そんな黒井の微妙に疑惑風味な言い方にも錆兎は全く動揺すること無く、むしろ何を当たり前の事を…と言わんばかりに肩をすくめる。
「あのな、ドラマの見過ぎだぞ、それ。
青酸カリはすごく苦いんだぞ?
エスプレッソくらい濃いコーヒーならとにかく、こんな薄いコーヒーだったらわかってしまうだろう。
あと日本で普通に手に入りやすいのはトリカブトかフグくらいだって爺さんが言ってたから、まあそれ以外だったら仕方がないなと。
で、トリカブトもテトロドトキシンも痺れが来るのは一緒なんだけど、トリカブトの場合顔面紅潮が来るから、テトロの方かなと思った」
「あんたなんでそんなに詳しいんだ?おかしくないか?」
と、そこで英二が錆兎を睨む。
まあそう思うのはもっともなことだ。
だが、そう思わない人間もいる。
「毒の処置ができたのは錆兎のおかげなのに失礼じゃないかっ!」
と、それまではただただ黙って錆兎に寄り添っていた義勇が頬を膨らませて眉を吊り上げた。
自分のことではほぼ怒らないし、この世の出来事の半分くらいには感情的な興味はない義勇だが、錆兎のこととなれば目の色が変わる。
それに、あ~あ…と宇髄は苦笑するが、ぎゆうが一歩前に出かかるのを錆兎が止めた。
「どうしてかと言うとだ、俺の父方の祖父はまあ血筋もアレだし、実業家としてもそこそこ成功している人物でな。
俺は小学生で両親を亡くしているからその祖父が色々目をかけてくれて、子どもの頃は色々な場所で同席することが多かったんだ。
で、祖父的には跡取りとしてでは決してなくて、本当に親がいない孫の面倒を見ているくらいな気持ちだったんだが、そう見ないやつも多くてな。
護身術と簡単な医学と毒の知識は持たされざるを得なかったわけだ。
対処法まで知っているのはそういうことだ」
「あ~あそこん社長…というか、今は会長か、は世界のあちこち護衛もつけずに飛び回りはる事で有名でしたな。
親父が言うとりました」
と、その言葉に黒井も納得する。
「ん。まあ日本だとまだ何かあってもすぐ対応できるが、海外だとできないところもあったからな。そういうことだ。
で、本題な。
テトロなら痺れが出たらすぐ人工呼吸で呼吸さえさせておけば、あとは体の中で無害なものになって排出されるから、いいらしい。
だからまあ…英一は大丈夫じゃないかと思うんだが。
問題は……」
「どの時点で混入したかだよなぁ」
と、英二と人工呼吸を変わった不死川が少し疲れた顔で、それでも言葉を引き継いだ。
そこで再度ざわめきが起こり、周りの視線が宇髄に集まる。
「俺じゃねえ…って言っても一番の容疑者だよな、やっぱり」
と、クシャッと頭をかく宇髄。
「コーヒーに混入されている時点で、一番入れやすい位置にいたのはコーヒーを入れて運んできたあんたさんやしなぁ」
と言う黒井の言葉にあとの二人の高校生は少し後ずさって宇髄から距離を取るが、そこでそれまで無言でポテトチップスをむさぼり食べていた煉獄が
「宇髄はそんなやつじゃないぞっ!」
と大声で訴える。
「まあ、もし宇髄がやったなら拘束もやむなしとは思うが…」
と、友達甲斐のないセリフを吐いて煉獄と不死川の顔色を青くさせつつも、錆兎は
「何かに体を乗っ取られたとかじゃない限り、そんなことをする奴じゃないと断言できるから、まあ無駄なことはやらないほうが良いと思う」
と、言葉を続ける。
それにそれぞれが色々な意味で複雑な顔をした。
それでも落ち着きはらってそう言う錆兎の言葉に、おおかたはホッとした顔を見せる。
人間、非常時には指示を出す人間を求めたくなるものである。
そんなことも理解しているのか、錆兎は、皆、まあ落ち着いて話を聞け、と、穏やかな声で言った。
「まず宇髄じゃないだろうと思われる理由だが…
今ここは警察とかがすぐに来ることはできない場所だ。
そこで殺人が起こった。動機はわからない。無差別かもしれないなんて言ったら、皆パニックになって、下手すれば自分ら守るために犯人リンチとか嬲り殺しとかにしかねないだろう?
マゾの自殺志願者とかでない限り、そんな状況で自分が犯人だとバレるような方法で人殺す人間はいないと思うぞ」
なるほど、みな納得の説明である。
──さすが錆兎!
と、なぜかぎゆうがとても嬉しそうに誇らしそうに拍手を始めて、それにつられて黒井が…さらに他の皆もぱちぱちと続いた。
という黒井の問いに宇髄も
「わからねえっ」
と首を横にふる。
「なんか舌とか唇とか指が痺れるって…」
と、その後に宇髄が口にした瞬間、駆け寄ってきた不死川の視線が英一がコーヒーを飲んだカップに注がれた。
「これ…飲んだあとか?」
と言われて、宇髄は、
「たぶん…」
と答える。
「…吐かせた方がいいかもですね」
と、黒井は青い顔で言うが、そう言っている間にもどんどん英一の顔色が悪くなっていき、呼吸困難を起こし始めた。
「ちょ、ざけんなっ!負け逃げなんか許さねえぞっ!英一っ!!吐きやがれっ!!」
誰もが呆然とする中、ドンっ!と周りを突き飛ばして英二が駆け寄ってくると、英一の襟首を掴んで椅子から立ち上がらせ、体制を変えて顔を下にすると吐かせようと口に指を突っ込んだが、吐けない。
「だめだっ!多分違うっ!!先に人工呼吸しろっ!!」
と、そこでそれまでしっかり義勇を抱え込んだまま考え込んでいた錆兎が何か思いついたように叫んだ。
そこでハっと弾かれたように不死川が動く。
英二から英一を取り返すと床に寝かせ、気道を確保して空気を送り込み始めた。
「実弥が疲れたら次やるのはお前だ。準備しとけっ!自分の兄貴だろう?」
と、取り返す際に突き飛ばされ、普段なら怒鳴るなりなんなりするだろうに、英二はただ目を見開いて人工呼吸を繰り返す実弥を青い顔でみつめている。
「なあ…結局コーヒーに毒が入ってたってことかい?俺飲んじゃったんだけど…」
と状況が少し停滞し始めたところで、水木が真っ青な顔で錆兎の袖をひっぱった。
錆兎はその手をそっと外させたあと、落ち着かせるようにポンポンと軽くたたき、
「一応まだ症状が出てないということは大丈夫だと思う。
症状出たとしてもテトロドトキシンだったら症状出たら即人工呼吸して呼吸確保して待っていたらいいらしいしな」
とだけ言うと、やはりショックを受けて青くなっている義勇には
「たぶん…大丈夫だと思うけどな、万が一舌や唇、指なんかに痺れが出たら俺に教えてくれ。
安心しろ、俺がきちんと処置してやるから」
と、優しい口調で言って抱きしめる。
「えと…テトロ……?」
と、それでも不安げに聞きなれない単語をオウム返しに繰り返す水木に答えたのは宇髄だ。
「テトロドトキシン。わかりやすく言えばフグの毒だ」
「なんでそんな事知ってるんだよっ!!」
「え~、テトロドトキシンがフグの毒くらいは常識ちゃいますか?」
と、ヒステリックに叫ぶ水木にそう言うのは黒井である。
しかしその後彼はチラリと錆兎を見て続けた。
「そう、テトロドトキシンがフグの毒っちゅうのは常識やけど…今回の毒がそれってなんでわかりはるん?
推理小説とかやと…ここは青酸カリとかそんなとこやと思いはらへん?」
そんな黒井の微妙に疑惑風味な言い方にも錆兎は全く動揺すること無く、むしろ何を当たり前の事を…と言わんばかりに肩をすくめる。
「あのな、ドラマの見過ぎだぞ、それ。
青酸カリはすごく苦いんだぞ?
エスプレッソくらい濃いコーヒーならとにかく、こんな薄いコーヒーだったらわかってしまうだろう。
あと日本で普通に手に入りやすいのはトリカブトかフグくらいだって爺さんが言ってたから、まあそれ以外だったら仕方がないなと。
で、トリカブトもテトロドトキシンも痺れが来るのは一緒なんだけど、トリカブトの場合顔面紅潮が来るから、テトロの方かなと思った」
「あんたなんでそんなに詳しいんだ?おかしくないか?」
と、そこで英二が錆兎を睨む。
まあそう思うのはもっともなことだ。
だが、そう思わない人間もいる。
「毒の処置ができたのは錆兎のおかげなのに失礼じゃないかっ!」
と、それまではただただ黙って錆兎に寄り添っていた義勇が頬を膨らませて眉を吊り上げた。
自分のことではほぼ怒らないし、この世の出来事の半分くらいには感情的な興味はない義勇だが、錆兎のこととなれば目の色が変わる。
それに、あ~あ…と宇髄は苦笑するが、ぎゆうが一歩前に出かかるのを錆兎が止めた。
「どうしてかと言うとだ、俺の父方の祖父はまあ血筋もアレだし、実業家としてもそこそこ成功している人物でな。
俺は小学生で両親を亡くしているからその祖父が色々目をかけてくれて、子どもの頃は色々な場所で同席することが多かったんだ。
で、祖父的には跡取りとしてでは決してなくて、本当に親がいない孫の面倒を見ているくらいな気持ちだったんだが、そう見ないやつも多くてな。
護身術と簡単な医学と毒の知識は持たされざるを得なかったわけだ。
対処法まで知っているのはそういうことだ」
「あ~あそこん社長…というか、今は会長か、は世界のあちこち護衛もつけずに飛び回りはる事で有名でしたな。
親父が言うとりました」
と、その言葉に黒井も納得する。
「ん。まあ日本だとまだ何かあってもすぐ対応できるが、海外だとできないところもあったからな。そういうことだ。
で、本題な。
テトロなら痺れが出たらすぐ人工呼吸で呼吸さえさせておけば、あとは体の中で無害なものになって排出されるから、いいらしい。
だからまあ…英一は大丈夫じゃないかと思うんだが。
問題は……」
「どの時点で混入したかだよなぁ」
と、英二と人工呼吸を変わった不死川が少し疲れた顔で、それでも言葉を引き継いだ。
そこで再度ざわめきが起こり、周りの視線が宇髄に集まる。
「俺じゃねえ…って言っても一番の容疑者だよな、やっぱり」
と、クシャッと頭をかく宇髄。
「コーヒーに混入されている時点で、一番入れやすい位置にいたのはコーヒーを入れて運んできたあんたさんやしなぁ」
と言う黒井の言葉にあとの二人の高校生は少し後ずさって宇髄から距離を取るが、そこでそれまで無言でポテトチップスをむさぼり食べていた煉獄が
「宇髄はそんなやつじゃないぞっ!」
と大声で訴える。
「まあ、もし宇髄がやったなら拘束もやむなしとは思うが…」
と、友達甲斐のないセリフを吐いて煉獄と不死川の顔色を青くさせつつも、錆兎は
「何かに体を乗っ取られたとかじゃない限り、そんなことをする奴じゃないと断言できるから、まあ無駄なことはやらないほうが良いと思う」
と、言葉を続ける。
それにそれぞれが色々な意味で複雑な顔をした。
それでも落ち着きはらってそう言う錆兎の言葉に、おおかたはホッとした顔を見せる。
人間、非常時には指示を出す人間を求めたくなるものである。
そんなことも理解しているのか、錆兎は、皆、まあ落ち着いて話を聞け、と、穏やかな声で言った。
「まず宇髄じゃないだろうと思われる理由だが…
今ここは警察とかがすぐに来ることはできない場所だ。
そこで殺人が起こった。動機はわからない。無差別かもしれないなんて言ったら、皆パニックになって、下手すれば自分ら守るために犯人リンチとか嬲り殺しとかにしかねないだろう?
マゾの自殺志願者とかでない限り、そんな状況で自分が犯人だとバレるような方法で人殺す人間はいないと思うぞ」
なるほど、みな納得の説明である。
──さすが錆兎!
と、なぜかぎゆうがとても嬉しそうに誇らしそうに拍手を始めて、それにつられて黒井が…さらに他の皆もぱちぱちと続いた。
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誤変換報告。最初以外「テトロドトキシン」が「テトロドキシン」になってます。お暇が有ったらご確認ください。
返信削除ご報告ありがとうございます!
削除コピペミスですね💦💦
修正しました。
また何かありましたらよろしくお願いします。