前世からずっと一緒になるって決まってたんだ49_館で淹れるコーヒーは

こうして足を踏み入れた館内。

入ってすぐ正面に二階へと続く広い階段。

右側の部屋は灯りがついていたので、まず家主の姿を求めてそちらへ向かったが、どうやらリビングらしき部屋には人は見当たらない。


「ん~でも暖炉の火が入ってるから、誰かはいるんだろうな…。
まあとりあえず…外から見たらこの奥の部屋も灯りがついてたように思うから、先進もうか…」
とそこで英一がうながすが、英二は暖炉の前に陣取ったまま

「俺はここから動かないぞ。行きたい奴だけ行けよ」
と、断固として拒否する。

まあ…みな身体が冷えきっているので火の周りに集まっているわけだが…。
それを見て英一はまた仕方ないな…と言った風に苦笑した。

本当に双子でも兄と弟なんだな…と、自分も兄弟のいる不死川がその様子に苦い笑いを浮かべて言う。


そこで宇髄が
「じゃ、俺様見てくるわ。
あんまりバラバラにならねえ方が良いと思うし、皆ここで待っててくれ」
と言うと皆やはり寒かったのか一人を除いて素直に従った。

そう、英一だ。

「いや、宇髄君だけに任せても悪いし…俺も行くよ。
非常時とは言え不法侵入してるからね。
万が一主人に怪しまれたとしたら、俺の顔が多少は身分証明になってくれるかもしれないし…」
と言われれば、宇髄もなるほど、と思う。

そしてこの非常時にこれだけ気遣いが出来るというのは、大した器だと感心した。


「んじゃ、二人で行ってくら」
とひらひらと手を振る宇髄。

そこで英一は

「じゃ、行ってくるから。これ頼むよ、英二」
と、大切に抱えていたバイオリンケースを英二に預けると、宇髄と並んで部屋の奥へと進んでいった。



「…あんた…有名人なのにずいぶんと人が良いんだな。」

こうしてリビングを出て、宇髄が弟と違い、この状況に機嫌を悪くするでもなく、飽くまで周りのために気遣う英一をチラリと横目で見て言うと、英一は

「さっきから疲れてるだろうし寒いだろうに全部自分が率先して動いてる君がそれ言うのかい?」
と小さく吹き出す。


まあ…言われてみればそうなのだが…ずっと主に仕える家に生まれ育っているということもあり、どうもこういう時は習慣で自分で動いてしまう…そう言うと、英一は

「俺も習慣だよ。双子とは言え兄貴だからね」
とウィンクする。

ああ、こいつ女にモテるのわかるわ…と、マメで優しくてイケメンで…さらに有名バイオリニストと、3拍子どころか4拍子は揃っている青年を見て宇髄は思った。


そんな会話を交わしながらもたどり着いた奥の部屋はキッチンらしく、しかしやはり人の気配がない。

しかもテーブルの横にはワゴンがあって、テーブルの上にはそれぞれ違う高級ブランドのカップがちょうど人数分の10個。
それらのカップの横にはご丁寧にも未開封のインスタントコーヒー。

そしてガスコンロの上にはヤカンに入ったお湯まで用意されていて、さらにご丁寧なことにはテーブルの上にはスナック菓子の袋が多数あり、ついでに『ご自由にお召し上がり下さい』と書いた可愛らしい白雪姫のカードが添えてある。


「ここもかよ。
つか、カードまで用意されてるって…やっぱりこれドッキリじゃねえのか?」

あまりに都合よく色々が揃っているくせに人間だけいないというのは、さすがに不自然だ。
呆れる宇髄に英一が言う。

「とりあえず…せっかく用意してくれてる事だし、ありがたく頂こうか。
俺、先に戻ってお腹すかせた面々にスナック配って戻ってくるから、宇髄君、一応カップを洗ってコーヒー入れて置いてくれる?運ぶのは手伝うから」

「おっけぃ。じゃ、いれておくわ」
と宇髄はいったん戻る英一を見送るとカップを適当に洗って適当にコーヒーを入れはじめた。

その後、全員分入れ終わったあたりで英一が戻ってくる。

「じゃ、運んじゃおうか…あ、クリープがあるね。それも持って行こう。あとスプーン」
とワゴンにせっせとカップを乗せる英一の言葉に、宇髄は食器棚の中の未開封のクリープとスプーンを取り出し、ワゴンに載せた。
こうして支度が終わって宇髄はワゴンを押して英一と共にリビングに戻る。


やはり寒いので温かいモノは嬉しいらしい。

ただのインスタントコーヒーではあるのだが、

「お~、きたきた」
と、予めコーヒーを淹れてくることを言ってあったのだろう。
高校生達はぞろぞろ取りに来た。



――復讐の刃は突然の嵐のように安堵の時のあとに来たる……

それぞれ温かいカップで暖を取ったり体の中から温まろうとコーヒーを飲んだりと、皆がホッと一息をつく中に二組の目が冷ややかな視線でその様子を観察する者が居ることには誰も気づかない…。

ヒタヒタと近づく復讐の女神の足音に気づく者は当人達だけだ…。


こうして皆当たり前に寛いで、大方の人間にカップが手渡った時である。

「あ、待って。ごめん、王君。そのブランド好きだから…替えてもらっていい?」
と、そこでそう言う英一に、自分の好みを通すなんて珍しいなと宇髄が少し眉をあげれば、それに気づいたのか少し寄ってきた英一は

「このカップのブランド、英二が好きなんだ」
と小声で言うのに納得した。

本当にいつでも英二のために動く英一に、宇髄は過保護だな、と、苦笑する。


しかし兄の心弟知らずとでも言うのだろうか、カップを英一に渡した王が気を利かせたのかワゴンの別のカップを暖炉の側から離れない英二に渡していた。

「…あっ……」
と、それを見て英一は少しショックな様子を見せる。

しかしそれでも少しの間のあと、
「仕方ないな…」
と、もう癖のように苦笑いを浮かべた。

そんな様子から察するに、英二の方が周りに対する適応能力がなくて世話を焼いていると見えて、実は英一の方が弟大好きのブラコンなのかもしれないと宇髄はやれやれとため息をつく。

そして宇髄の視線は旧友たちのほうへ。


そういう意味で言うと、宇髄の旧知のバカっぷるも錆兎が一方的に親切で義勇に世話を焼いているように見えて実はそれを全て無条件に喜んで受け入れてくれる義勇の存在は実は貴重なのかもしれない。

人間、やってもらうのは楽でいいが自分でやりたくなる瞬間と言うのもあるんじゃないだろうか…。

自分のコーヒーをそっちのけで義勇のコーヒーに、
『おいおい、それはもうコーヒーじゃないんじゃね?そこまで嫌ならもう飲むな』
と突っ込みをいれたくなるような量のクリープと砂糖を放り込んでいる錆兎を凝視しつつ、宇髄は眉間にしわを寄せた。

普通なら嫌がらせな量だが、義勇は錆兎がそうやってコーヒーを違う何かに錬成するのをにこにこと待っているので、おそらくあれが義勇の好みなのだろう。

それを丁寧に全て溶けるまでかき回して、さらにご丁寧に

『熱いから気をつけろよ。やけどしないようにゆっくり飲め』
などと子どもにたいするような注意を添えて義勇に渡すと、錆兎は自分は何も入れないコーヒーをすすっている。


あそこに比べれば、加瀬英一の弟に対する過保護など可愛いものか…と、宇髄は大きく肩を落とした。


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