前世からずっと一緒になるって決まってたんだ48_自己紹介

別にだからどうできるというわけでもないのだが、少し頼れそうな人間がいると思うと余裕が出てきたらしい。

さきほどの学生がまず
「まあ悪い奴が出てきてもなんとかなる言うことで、念のためさっきのおっさんがホンマに逃げてもうたのか、確認しといたほうが良うないですか?」
と、提案する。

まあ状況をしっかり確認するのは必要だろう。


「んじゃ、俺が行くわ。
一応、相手はそれなりに武術の心得のある人間で、さらに意図的に俺らをここに連れてきたことを気づかれたくないみたいだしな。
もし危険になったら、とにかく逃げて誰かに伝えるために、一人じゃ無い方が良いと思うから、煉獄もついてこい。
こっちは錆兎がいりゃあ大丈夫だろ?」
と、宇髄が手をあげ、煉獄もそれに頷いた。


それに異を唱える者はいない。

錆兎の言った通りなのか気になるのは山々だし確認は取りたいが、この雨の中疲れているのにまた往復で30分ほどの距離を走りたいかと言われると否である。

自主的に行くと言う奴がいるなら任せてしまえというのが多数派だ、


こうして二人が走り去っていくのを、館の軒先で見送る残り8名。
濡れネズミなのでとにかく寒い。

カチカチと歯を鳴らせながら、それでも少しでも寒さから気をそらそうと、英一が口を開いた。

「えっと錆兎…さん?君は係員が誰かをここに連れてきたかったんじゃないかって言ってたけど、誰をなんのためにって検討はついてるんです?」

とりあえず情報は共有したい…それは皆も一緒で、全員の視線が錆兎に向けられるが、錆兎はそれにはあっさり首を横に振る。

「いや、そこまでは。
でも今回ここにいる人間はおそらく伝手と言うか…いわゆるコネでチケットを手に入れている気がするし、そうするとそれができるだけの地位のある人間が後ろ盾になっている人間と言うことになる。
だから誰が目的だったとしてもおかしくはないと思うけどな。
少なくとも俺と義勇と実弥はほんらい来る予定だった人間が参加できなくなった代わりに来ているから、俺たち3人以外の誰かだとは思うが…」

「あ~そういう事か。
確かにその可能性は高いですなぁ」
と、最初に質問してきた学生は納得して頷いた。

「そうか…そういうことなら、それぞれ自己紹介したほうがいいかもね」
と、英一がそれに対してそういって一歩前に出る。


「まずは言い出しっぺの俺から。
俺は加瀬英一。こっちは双子の弟の英二。
3歳の頃からバイオリンをやっていて、今では仕事で演奏する他にもコマーシャルにも出させてもらってる。
今回のイベントは俺達を使ってる企業が俺達の宣伝にと企画したものだと聞いている」

と、英一はまず自分と隣にいる英二の紹介をすると、そっぽを向いたままの弟にやっぱり苦笑した。

そこでほな二番手で…と一歩踏み出したのは、黒髪にくりっとした焦げ茶色の瞳の人懐こそうな雰囲気の青年。

「黒井祥吾。オリーブ商事の大将のせがれですわ。見ての通り半分外国の血が混じっとるけど、生まれも育ちも生粋の関西人。一応親の見栄っちゅうかそんな感じでガキん頃からバイオリン習っとるんやけど、自分的には算盤カシャカシャ鳴らして遊んどるほうがまだ楽しい程度には向いてへんと思います。
趣味は国内国外問わずあちこち旅して回る事で、今回もほんまはダチと遊びに行くはずやったのに、気づいたら船乗せられてました。」

ハハっと片手を頭にやって緊張感なく笑う青年に若干空気が和んだ。


そうして緊張がややほぐれたところで、では私も…と、今度は大人しそうな眼鏡の青年が口を開いた。

「王月龍(ワン・ユエルン)と申します。私も少々バイオリンを嗜んでおります。中国系アメリカ人で、今回はたまたま親の仕事の都合で日本に滞在中に、尊敬していたバイオリニストの加瀬さん達とご一緒出来るとチケットを譲っていただき、参加させて頂きました」
と、青年はバイオリンケースを大事そうに抱えて会釈をする。

そして最後の一人はどこかで見た顔だ。

「水木裕太。4月からは西城音大の1年生。つい数日前までに渡辺君達が通っている高校を卒業したんだけど、まあ3月31日まではぎりぎり高校生扱いって事みたいだね。
専門はフルートで、たまたま師事していた先生のツテでチケットが回ってきてね。後学のためにぜひ行って来いって言われてきたんだ。」
という説明で、なるほど、と思う。


「あ~、どうりでどこか見覚えのある顔だと思った」
と、錆兎が言うと、水木は小さく笑みを浮かべた。

「君は有名人だし、君の方にも覚えられているとは思わなかった」
「ああ、1学年2クラス70人ほどですし、前後の学年の生徒の顔くらいならわかりますよ」

錆兎はにこやかに返すと、水木は思いがけず知人がいて安堵したようにため息をついた。


そしてこちら以外の紹介が終わったところで、今度は錆兎が義勇や不死川、そして宇髄と煉獄と、こちら側の人間の紹介をしていく。


それがひと通り終わると

「結局…誰をなんのためにここに連れて来たかったんだろうな…」
と、誰からとも無く声があがる。


「ん~…まあわかりやすいあたりで、ドッキリとか?」
と、黒いが少し小首をかしげて言うが、それに対して英二から

「俺の性格知ってれば、こんな無謀なドッキリなんて仕掛けないな。
これが主催のドッキリなら断固としてコマーシャルその他の契約全部打ち切ってイタリアに帰るぞ」
と、ツッコミが入り、

「まあ…お前ならやるよね」
と、英一が苦い笑いを浮かべる。

ああ、確かに…と、あまりに有名な英二の気性を考えて、黒井は自分の言葉を翻して即同意した。



英一と英二は双子でも真逆な勢いで性格が違う。

英一なら心の閻魔帳に一応は記録しながらギャラのUPかスケジュールの緩和か何か、条件の向上の交渉に入る人間だが、英二なら確かにキレて帰る。

音楽に関しても英一は計算して美しい音色を奏でるエンターティナーで英二は自分が表現したい音を創りだす芸術家だ。
数々のコンクールの一位二位を総ナメにするこの兄弟は、それでいて音楽性すら正反対なのだ。


二人の師匠である世界的な音楽家アレッサンドロ・ジロッティいわく、

『英一は私がいなくても誰かに売りだされて有名なバイオリニストにはなれただろうが、英二は彼をわかっている人間が売りだしていなければただの変わり者として埋没していただろう。
ただし、英二がこうして売りだされた今、英一は常に2番目のバイオリニストだ』
ということだ。

実際に…こうして二人揃って有名になった今、ジロッティが関わらないコンクールでも常に英一は英二の次…2位である。


もっとも他に関して言えば、我儘で頑固で人当たりもきつい英二よりも、二位とは言え名のあるコンクールで数々の賞を受賞しているのに腰が低く人当たりも良い英一の方が当然周りの人間にも好かれるし、一部のコアな音楽家達とは違う一般のファンの間では人気がある。

特に、顔立ちにも性格が現れているのか、似た顔ではあるものの若干アクが強い感じの英二よりも柔和に整った甘い雰囲気の英一は女性ファンに絶大な人気を誇っていた。

今も、一人で震えている英二の横で英一はおそらく初対面であろう黒井相手に、本当に寒いねぇなどと苦笑交じりに…しかし若干楽しそうに話している。


そうこうしているうちにずぶ濡れの宇髄と煉獄が戻ってきた。

その難しい表情から結論は予測できる気がしたが、若干疲れた様子の宇髄の口から出た言葉はやはり全員の予想に違わぬものだった。

「錆兎の言うとおりだった。
入江のあたりにはボートの影も形もねえ。もちろん係員の男もな。
…マジしてやられたぜ」

「とりあえず…中に入ろう!」
舌打ちをする宇髄の横で煉獄がいつもの大声で促すと、

「ほな、行きましょか~」
と、黒井が呼び鈴を鳴らした。


…が、待つ事数分。
誰も出てくる様子がない。


「どうしようか…」
と迷う一行だが、そこで腕の中に抱え込んでいた義勇がクシュンとくしゃみを一つした瞬間、

「もう強引にでも入るぞ。非常時だ。
ドア蹴破れなかったら窓割って入る言う方法もあるしな。
文句を言われたら仕方ない、俺が弁済する」
と、止める間もなく錆兎がドアノブに手をかけたが、なんと鍵もかかってなくて、あっさりドアが開いた。


「なんだ、開いているのか」
と、少し離れたところで蹴破る気満々で屈伸をしていた煉獄が何故か少しがっかりした様子で言うのに複雑な表情の一同。


「もしかしたら…孤島で誰も来ないからかもな」
と、宇髄が言うのに

「どうでもいいから中入るぞっ!寒いっ!!」
と、英二が建物の中に駆け込んで、それに釣られるように全員が中に入った。



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