前世からずっと一緒になるって決まってたんだ47_漂着

「お~大きな館だなぁ…。」

その島は島の面積自体は決して広くはないが、義勇達がたどり着いた入江を見渡せる丘の上に驚くほど大きな館が立っている。

そこまでは左右に鬱蒼とした森が広がっているが、幸いにして館までは大きな1本の道でつながっていた。
そしてさらに幸いな事に、館の1階部分が明るいため、どうやら館の主も在宅のようである。



「ああ、良かった。ここの島の持ち主さんがいらっしゃるなら、本土に連絡を取って頂く事も可能ですね、きっと」
と、胸をなでおろす係員。

「とりあえず私はボートをつないでから急いで後を追いますので、皆さんは先に館に向かって下さい」
と指示をする男を錆兎がジ~っとみている。

いや、宇髄だって気になることは気になるのだが…
実際、チラ見くらいはしているし、不死川だって同じくだが、錆兎の場合はチラ見じゃない。
凝視に近い。


「…あ…あの?」
と、さすがに係員の男も居心地悪そうに尋ねるが、錆兎は
「ま、いい。行くぞ」
と、それを完全にスルーで肩をすくめ、義勇に自分の上着をかけると手を引いて走りだした。

「……?」
と、その様子に宇髄も不思議そうに首をかしげたが、すぐ
「そうだな。こうしていても仕方ねえし、行くかぁ」
と、自分もそれを追い、他の学生達もさらにそのあとに続いた。



左右を埋める鬱蒼とした木々が雨風に吹かれて揺れる様は不気味だが、一応必要な分はきちんと手入れはされているのか、館までの道はきちんと雑草もなく整えられているのが幸いだ。
この暗い中、獣道を歩くのは少し怖い。


前世では錆兎に先立たれて色々感情がなくなってしまったのもあって色々に鈍感になっていたが、義勇は元々は臆病な性格だ。

平安時代に錆兎が初めて声をかけてくれたきっかけだって、周りに臆病さをからかわれて委縮していた義勇を不憫に思ったからである。

そんな義勇にとって今の状況が怖くないはずがない。


この島全体が…いや、今回の一連になんとなく嫌な空気を感じる…。
何かにずっと監視されているような…冷ややかでまとわりつくような視線…。

それは船に乗った瞬間から漠然と感じていて…最初は気のせいかと思ったが、今も感じる気がする…。


最初は大勢いた客船の乗客や乗組員が救難ボート内で11人になり、今また乗務員と分かれて10人…。
それでも感じるということは…今周りを走っている誰かに見張られている…?
なぜ?


たった数ヶ月前…義勇は幼なじみにストーカーされていた。

異常なまでの執着…自分に近づく人間を排除しようとする奴に心底恐怖を感じて、逃げ込んだ先が平安時代からの恋人の錆兎やその腐れ縁で義勇自身も前世からの知人である宇髄達だ。

あの熱をはらんだ視線とはまた違う冷ややかで冷静な…しかしなんらかの執着を感じる視線…。
恐ろしさに義勇は身震いした。

…寒い……。

そんな中でしっかりと背に回した右手を義勇の右手とつないで走る錆兎の体温だけが、寒さと恐怖に凍えそうな義勇を温めてくれる。


「大丈夫だぞ。
建物があると言う事は最悪でも飲み物の確保は出来だし、そうしたらあとはなんとでもなる。
何が起こっても俺が守ってやるからな。心配しないでもいい」
と、不安な気持ちを察したのか、そう元気づけてくれる恋人の言葉に

「ああ。錆兎がいれば全て大丈夫だな」
と、義勇は気を取り直すとニコリと恋人に微笑んで、それから前にそびえ立つ館に目を向けた。


左右を背の高い塔のような建物で囲まれた、ホラー映画にでも出てきそうな古びた洋館だ。
1階部分の一部屋に灯りが灯っている他は真っ暗なので、そう大勢の人がいる様子もなさそうである。

だいぶ建物に近づいたあたりで、何気なく視線を2階の1室に向けた時、ピカッ!と稲光が光る。
その光に義勇が思わずつないだ手を握る力を強めると、隣で錆兎が小さく笑った。

本当に錆兎は平安の頃から変わらない。

状況により戦えるように鍛えることもあったが必要がなさそうなら鍛えない義勇と違って、いついかなる時も有事に備えて体を鍛えている錆兎は、いつだって強く頼もしい。

その手に引かれていれば何も怖いことなどあるはずがないのだ…と思っていると、

「ほら、怖ければもっと寄れ」
と、グイっと手を引かれて錆兎の腕の中に引きずり込まれた。

こうして全員走って館の前へ。


「で?どうするんだぁ?係員待つか?」
と、最初にドアの前にたどり着いた不死川はベルを押すかどうか躊躇するが、

「寒いっ!お前らは凡人はいいかもしれないが、俺は風邪ひいて演奏に影響すんのはゴメンだ。」
と、英二は自分で自分を抱きしめるようにしながら、ブルブルと震えて言う。

「そもそも、そこの凡人!上着貸すなら俺にだろうがっ!今回の主賓だぞっ!!」
と、さらにその矛先は錆兎に向かうが、錆兎は当たり前に

「今回は別に俺が主催なわけじゃないからな?
責任のない立場の一参加者としてなら、完全他人の有名人より大切な恋人を優先させてもらう。
それでも幼い子どもや病人なら優先順位を考えるが、俺の大事な義勇を雨に濡らせておいて他に上着貸すという選択肢はないな」
と、返した。

もちろん…英二はキレる。

「こっのぉ~~!!!!」
と、振り上げた拳は、しかし錆兎に届くことはなく、すぐ側にいた煉獄がその手首を掴んで言った。

「暴力は良くないぞっ。
それに、それこそ他人殴って大事な手を怪我したら大変なんじゃないのか?」
と、そのもっともな言葉に、英二が舌打ちして拳を下ろすと、せっかく落ち着いたところに、錆兎はさらなる爆弾を投げた。

あの係員はおそらく帰ってはこないだろう。今頃船乗って逃げていると思う。
だからさっさと中に入るぞ」


「は?お前何言ってんだっ?!!」
と、もうこれは止める間もなく英二が錆兎の襟首をつかむ。

その手首を軽く…そう、軽く握っているように見えてかなり強く握ったのだろう、錆兎が英二の手首を掴んだ瞬間、英二が慌ててその手を引っ込めた。

そして左手で右手をさすると、錆兎はニコリと言う。

「手を出すと怪我をするぞ?次はない」

笑っているがどこか怖い。
それまで威勢の良かった英二が黙って頷いた程度には…。

そこで黙りこんでしまった英二の代わりに不死川が口を開いた。

「どういう事だぁ?確かに…怪しい感じはしてたけどよぉ。
もし船で乗り逃げされるとわかってんなら何故止めなかったんだ?」

少し非難するような口調になるのはもっともだ。

宇髄もあの係員は怪しいとは思っていたが、もし害を加えるつもりならこんな避難場所のある所に降ろさない気がするし、よもや船に乗って逃げるとは思わなかったわけだが、逃げるとなったら問い詰めるくらいはしただろう。

「ん~。まあそんな感じがした。
モーターの音は最初から聞こえていたし…とすると流されたっていうのも嘘だよな?
とすると…あの男はここに俺たちの誰かを連れて来たかったんだろうと思う。

で、なんで黙っていたかというと…あの男が連れ帰る気なかったら、船あっても方向わからないだろう?
物資もない状態で海上をさすらうのは無謀すぎるしな。
しかし男はどんなに脅しても連れ帰る気がない様子だったから。
気を弱くみせていたが、身のこなしがプロっぽかったしな。

下手に抵抗したら俺はまあ平気だし義勇は死んでも守るが、他で怪我人の一人や二人でていたと思うし、最悪の場合にはボートがひっくり返って全員冷たい海ん中へドボンだ。
暴れた奴がそうなるのなら自業自得だが、大事な義勇まで巻き添えとかはごめんだからな」

淡々と説明する錆兎に、全員ええ~?!!という目を向けている。
そこまでわかっていてこんな状況で何故そんなに冷静なんだ?
…とでも問いたいのだろうが、答えは簡単。場数が違う

なにしろ1000年ほど前、齢10歳ほどですでに誘拐団を退治しているという規格外の英雄様の世を忍ぶ仮の姿(?)である。

まあ、それをここでいうわけにもいかないので、宇髄はとりあえず信じてもらえる範囲で言って差し支えのないあたりを口にしてみた。


「あ~…こいつは平安から続く家の若様で、祖先はなんと渡辺綱なんだよ。
で、家の方針で自分の危機管理は自分ですべしってことで、武芸の達人だしな。
並みの奴なら刃物くらい持ってたって張り倒せるから余裕こいてんだ」

「ええ??!!!」
と、反応したのは加瀬英一。

「渡辺綱ってあれですよね、頼光四天王の…」
「そそ、それそれ」
「うわぁ…俺達よりよほどすごくないですか?」
と、目を丸くする。

「…あ~、綱の子孫って渡辺商事でっしゃろ?
あそこ、代々社長はめちゃワンマンやけどえらい人物ばかりですごい財を築いてはるて親父が言うとりました。
そんなすごいセレブんとこの坊やったんやねぇ」
と、学生の一人も思わず呟き、それらの反応に錆兎は

「別に俺が大江山の鬼退治したわけじゃなくて、俺自身は一般の高校生だから」
と、苦笑交じりに言って肩をすくめた。


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