虚言から始まるおしどり夫婦14_冨岡義勇と同僚達

元々産屋敷邸に泊まっていたため、移動は館内のみ。

いつもなら中庭に皆と並ぶところだが、今日は女になっていることに対する説明をする前に女の姿でそこにいたら大騒ぎになるだろうということで、まずはお館様が打ち合わせ通りの説明をして下さったあと、姿を見せることとなった。
なので最初はお館様の後方にある屏風の後ろに待機する。


ああ、やっぱり後ろ姿だけでも錆兎はカッコいい。
と、後ろからこそりと錆兎の後姿を凝視しつつ義勇は呼ばれるのを待った。

いつでもあの背を見て育ってきた。
性別など関係なく、その凛とした背中は義勇の目標で憧れだ。

あの背中の後ろに居れば怖いものなど何もない。

今まであの背中を追いかけて、あの背中に導かれて、あの背中に守られて生きてきたと言っても過言ではないのだ。

男でいた昨日までは、あの背中の後ろ、一番安心して一番安らげるその場所をいつか見知らぬ女に取られてしまうのかと思っていたが、こうして女になって祝言を挙げられればもうそんな心配をする必要もなくなる。


ああ、幸せだ…と思った瞬間、

──義勇、出ておいで
と、お館様に柔らかい声で呼ばれた。


それでハッと我に返った義勇は

──御意…
と答えて屏風の影から出た。



なんだか前方から様々な強い感情を感じる。

もし…錆兎にふさわしくないとか思われたらどうしよう…
と、頭を占めることはそればかりだが、

「みんな、顔をあげていいよ」
と言うお館様の声に顔を挙げた柱達から一番強く向けられたのは驚きの視線だ。
まあ昨日まで男として隣に並んでいた者がいきなり女になっていたら驚くだろう。


…血鬼術喰らいやがったか……
と、呆れたような表情で宇髄が小さくこぼす呟き。

…冨岡さん、可愛いわ。きゅんとしちゃう。
と通常運転の甘露寺。

それに
…甘露寺、だまされるな。あれは冨岡だ。血鬼術で女になっているが本当は男だ
と、甘露寺が関心を向ける全てに敵対心びしばしの視線を送りながら不快そうに言う伊黒もまたいつもの通り。

…ふむっ。冨岡は女性になると美人だなっ!少し俺の母上に似ている。
と、こちらも飽くまで我が道を行く煉獄。

──お館様…冨岡さんは血鬼術を受けたのですか?それを使った鬼はもう倒されているのでしょうか?
と、そんな中で胡蝶しのぶがいつもの通りではあるが一番冷静に実のある発言をしてきた。


それに対してお館様が、その考えは逆で、実は義勇が血鬼術を喰らって少年になっていた元少女で、その鬼が倒されたことによって女性に戻ったのだ…と、打ち合わせ通りの話を告げる。
そのうえで、義勇と錆兎も祝言を挙げる中に追加することを発表した。


それに対して同僚の柱達からは驚かれはしているものの概ね納得と祝福するような空気が返ってきたが、唯一、風柱の不死川からはなんだか歓迎はしていないような、ひどくきつい視線を送られているように感じる。

まあ…不死川は昨日はああは言ったものの、やはり義勇のことがあまり好きではないのかもしれない。

あるいは、義勇を同僚として許容することはできるようにはなったが、錆兎のように完璧な優れた男の嫁としては認められないということか。

ひどく睨みつけられているのが落ち着かなくて、義勇は錆兎の後ろに隠れるようにそっと座った。

まあどちらにしても義勇がいなかったとしても不死川が錆兎の嫁になれるわけでもないし放っておいてくれればいいのに…と錆兎の背に隠れると急に強気な気分になってきて、そんなことを思う。



お館様のお話が終わると、錆兎が祝言やその後の休みに鬼が出た際に誰が出るかなどの予定について書面にまとめたものを読み上げ始めた。

そうして各々自身の予定を把握。
柱合会議は解散と相成った。



その後、お館様やお嬢様が退出されるのに付き従う錆兎と共に義勇も付いていこうとするが、そこで甘露寺が笑顔でこっちこっちと手招きをしてきた。

断る理由もないので傍に行くと、いつもなら甘露寺に近づくと威嚇する伊黒は何事もないかのように無反応。

甘露寺の同性だというとこうも違うのか…と驚きつつも、そう言えば甘露寺以外に唯一の女性だった胡蝶しのぶに対してだって別に敵対心を向けていなかったなと思い出した。


とりあえずそんな感じで傍にいくと、甘露寺は

「きゃあぁぁ、女性だったなんてびっくりしたけど、今日は冨岡さん、可愛らしいわ。
髪の毛、自分で結ったの?
とても綺麗な編み込みねっ」
と、いつものテンションではしゃぎだす。

そこで
「いや…これは錆兎が…」
と、答えると、また、

「きゃあああ!!素敵っ!!錆兎さん器用なのねっ!!」
と、飛び跳ねるので、伊黒がはしゃいでいる甘露寺の横で

「…あとで錆兎に時間を取ってくれと伝えてくれ…。
その…髪の結い方を教わりたい」
と、ぼそぼそっと顔を赤らめて小声で言ってくる。

本当に甘露寺のことが好きなのだろう。
このやりとりで、義勇は初めて伊黒を可愛いと思った。


甘露寺とそんなやりとりをしていると、

「冨岡さん、まだ性差があまりない頃に性別が男になったということは女性の体について色々分からないこともあると思いますし、何かあったら恥ずかしがらずに蝶屋敷を訪ねてくださいね。
たいていのことは錆兎さんがなんとかしてくださるとは思いますが、女性特有の事情に関しては錆兎さんにも教えられないと思いますし」
と、胡蝶も近づいてきてそう言ってくれる。


それに、ありがとうと返すと胡蝶はニコリと頷いて

「ではとりあえず現在は柱が必要な事案もないようですし、せっかくですから柱女子会でもしましょうか」
と、言い出した。

女子会?とその手のことには疎い義勇がコテンと首をかしげると、甘露寺がその手を取ってまたぴょんぴょん飛び跳ねる。

「素敵っ!甘味屋さんにする?それとも新しく出来たカフェでアイスクリンでも…」
と、その言葉で、なるほど女子だけで甘い物を食べて過ごすことか…と、義勇も察した。

女性の世界はなかなかに楽しそうだ。
姉が生きていたら一緒に楽しめたのに…と、少ししんみりした気分になる。

と、その時だった。


「あ~、ちょっと悪ぃけどよぉ…」
と、大きな影がそれまで照らしていた柔らかな日差しを遮った。


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