虚言から始まるおしどり夫婦11_冨岡義勇の混乱

時は少しばかり前後するが、二度目の柱合会議の前日のこと。

義勇はお館様に連れられて、産屋敷家の地下にある秘密の地下室に匿われていた鬼と対面している。
もちろん血鬼術をかけてもらうためだ。


鬼に血鬼術を喰らうというのは本来なら恐ろしいものだが、今回は恐ろしさよりもワクワクする気持ちが勝っている。

しかもその鬼というのは本当に幼児くらいの大きさの可愛らしい姿で、──ビビデバビデブ~☆──と唱える声には悪意は欠片も感じられなかった。
そうして煙に包まれて一瞬意識がぼんやりとする。

しかしぴったりと肌を包んでいた布の感触が少しダボっとして、余裕ができて緩やかになった布が重力に従って下に引っ張られてやや重みが増すのはわかる。

その後に煙が完全に霧散すると、かなり縮んだらしい体に男であった頃に来ていたためにぶかぶかになった隊服がまとわりついている状態になっていた。

そこでさてどうしたものか…と思っていると、女になる血鬼術を施してくれた当の鬼が、

「とりあえず、これを着ましょうね」
と、慣れた手つきで用意してあった着物を着せてくれた。

鬼は何度かこういう事をしているために、その後のフォローも慣れているらしい。

男であった人間が女性として生きることになった時に戸惑うであろうあたりのことを、実にわかりやすくまとめて教えてくれた。


そうして少々長い時間をかけて一通りの教授を受け終わったタイミングでお館様がお出でになる。
いわく奥方様や本部の人間に、さきほど話した設定で話をして色々と用意してもらったということで、隊服や着替えを頂いた。


さらに…色々慣れないので一人で行動するのは不便だろうと、すでに錆兎も呼び出して事情を全て話して、どうせ二人とも一人暮らしなのだからすぐきちんと祝言もあげることだし一足早いが同居するようにと提案、了承を得てくださったそうだ。


本当に何から何まで手配して頂いて、感謝の言葉しかない。

錆兎に関しては半ば強引に言うだけ言ってここにきてしまったため、もしかして怒っているかと思って会うまで戦々恐々としていたが、呆れはしているようだが怒ってはいないようだ。

ただ、
「本当に…そんなに軽々しくして良い決断ではなかったんじゃないか?」
と、思いきりため息をつかれた。


それでもどれだけ呆れたとしても、錆兎は義勇に関しては昔から、死にたいとかそういう発言以外は呆れつつも諦めてくれる。

今回も不死川とも炭治郎とも結婚する気はないし、錆兎とまた一緒に暮らせるのも嬉しいので、性別が変わることくらいは全く大した問題じゃないのだと主張すれば、

「お前は全く……」
と、片手で顔を覆って大きく肩を落としながらも、
「まあ、俺は何が変わるわけでもないからいいんだが…簡単に性別変えて、あとで後悔して泣いたりするなよ?」
と、受け入れてくれた。



翌日は祝言組に与える休みとその間代わりに任務を受け持つ柱の時間調整についての連絡があるので二日続きの柱合会議の予定である。

なので、どちらにしても産屋敷邸に来ることになるからということで、もう遅かったこともあり、初めてそのまま産屋敷邸に泊めて頂くことになった。

もちろん単に泊めて頂くだけではない。

お館様は話や手続きが終わった後は床につかれていたが、恐れ多くも奥方様とお子様方と食事をご一緒させて頂いて、風呂まで頂戴して、その後は二人とも大人しくそれぞれの部屋で床に就いた。

義勇は客間だが、錆兎はなんと以前1年間暮らしていた部屋がそのまま残っているらしい。

こうやって恐れ多くもお館様のお屋敷に一室自分用の部屋が用意されているなんて、錆兎は本当にすごい男なんだ…と改めて思うと同時に、一瞬、そんな錆兎を兄弟弟子だというだけで自分が強引に独占してもいいんだろうか…と心配になった。

だが、すぐ、いや、今の自分は女なのだから錆兎の子だって産んでやれるし、これまで顔だけは良いとあちこちで言われ続けてきたので休みの日は化粧も習って服装も気を付けて錆兎の横に並んでもおかしくはない女になればいい…と思いなおす。

錆兎ほどではなくとも、曲がりなりにも水柱なので、そんじょそこらの女よりは腕もたつし、料理は他に比べてとてつもなく上手いとは言わないが、少なくとも錆兎の好みは熟知している。
だから錆兎の理想の女に近寄れる要素は揃っているはずだ。


よしっ!やるぞっ!!

客間の床の中で義勇はグッとこぶしを握る。
目指すは錆兎好みの最強の女っ!錆兎の女房である!!




翌朝…目が覚めると義勇は自分の胸元の肉に一瞬驚く。

ふにゅりと柔らかくもたわわなそれは、特別に大きくもないが美乳と言えるのではないだろうか…と、昨日はバタバタしていて注視することもなかった自分の胸元をまじまじと観察してそう判断した。

そして身支度を整える前に…とまず布団を畳んで、そして思った。
辛いほどではないのだが、男であった時よりも布団がやや重く感じる。
筋力が落ちているのかもしれない。

そう言えば…胡蝶しのぶは腕の力が足りず鬼の首が落とせないので毒を使うようになったのだと聞いた。

もし自分もそうなっていたらどうしよう…。

途端に不安になって、義勇は必死に記憶の糸をたどる。

女になったこの体は体感的に胡蝶ほどは細く小さくはないと思うのだが、甘露寺よりは小さい。
いや、このさい男か女かより体格の問題になるのか?
胡蝶しのぶくらいになれば首を斬れないとして、その次に小さいのは誰だった?
伊黒か時透無一郎あたりか?
その二人くらいあれば首を斬る筋力は保てるということだろうか……


鬼の首の一つも斬れないような女では錆兎の妻としては失格かもしれない…。
途端にそんな不安が押し寄せてきて、義勇はへなへなとその場に崩れ落ちて泣き出した。

もしそうなっていたらどうしよう?

錆兎の妻にもなれないのに一生この頼りない身体で過ごすことになるのか?
せめて決断する前に錆兎に相談すべきだった。


昨日の嬉しい気分が嘘のように絶望的な気持ちになった。

どうしよう、どうしよう、どうしよう…

本当に後悔先に立たずだ…


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