虚言から始まるおしどり夫婦10_不死川実弥の嘆き

今日は全体の予定を組むということもあって、お館様はいつものお嬢様二人を片側に、そして自分の補佐役の錆兎を片側に連れてのお出ましだった。

が、そのお館様のお出ましに冨岡がいない。

そのことに柱達はさすがに気づいて不思議な顔をするが、お館様もお嬢様達も、冨岡の兄弟弟子の錆兎でさえ欠片も気に留めていないようなので、何か事情があるのかもしれない。

不死川はそう思って同僚達と共にお館様の言葉を待った。


今日はめでたいことで集められたので、お館様もいつもにもましてニコニコ笑顔でいらっしゃる。

「皆、よく来てくれたね。
実はね、昨日話に出た小芭内達祝言をあげる子にはできれば祝言のあとに少しでも夫婦で過ごす時間をあげたくてね。
その分、他の子達には負担がいってしまうけど、他の子もいつかそういう相手ができて夫婦になったら同じようにするからね。
今は協力してあげてね」
と、言うお館様。

そのお言葉に異議を唱えるような者は当然一人としていない。

それに満足げに頷かれたあと、お館様はちらりと横に控える錆兎に視線を送り、錆兎が軽く頭を下げるとそれに頷いて、また正面を向きなおった。


「それでね、もう一つ皆に報告がある。
義勇のことなんだけど…」
と、なぜかこの場にいない水柱の名が挙がったことで場がざわめく。

元より義勇に対して色々思っていた不死川はよけいにで、様々な予想がグルグルと頭の中を回った。


祝言を挙げる一人に追加された…というには昨日の今日のことであるし、あまりに性急だ。
昨日義勇に詰め寄って求婚を断られた時には、別に錆兎とそういう仲だから…ということは言っていなかったし、他にそういう相手がいるようには見えなかった。
だから違う、違うはずだ。


背に嫌な汗をかきながらそんなことを思っている不死川の前で、お館様はまた錆兎に視線を向けて、今度は小さく

「あのこと…言っても大丈夫だよね?」
「…御意……」
と、そんなやりとりを交わしている。

双方祝言の話…と言うには少し難しい表情なので、おそらく違うのだろうと、そのことに不死川はホッとした。


そうして二人の間になんらかの意思確認が出来たようで、お館様が奥に向かって
「義勇、出ておいで」
と呼びかけた。

不思議に思いつつも頭を下げたまま待つこと数秒。

「…御意」
と返ってきた声があまりに高く、不死川はそのことに驚いた。
もちろん他の柱も同様である。

「みんな、顔をあげていいよ」
と、伏したままの柱達にお館様が声をかけ、一斉に上がる顔。
その視線は奥から出てきた少女に向けられた。


それは不死川が今までみたことのないほどに可憐な少女だった。

いや、容姿自体は冨岡義勇にたいそう似ているが、彼自身は随分と綺麗な顔立ちをしていても男のはずである。

それがやや目の大きさ、額の広さなどの顔の配分が変わって、どこかあどけなく可憐な顔立ちになり、手足は細く、上背は小さく、そして特別に大きいわけではないが胸元がふっくらと膨らみをみせている。


血鬼術にでもかかったのか…とその場にいる誰もが思ったのだが、お館様の説明によると逆らしい。

「実は義勇はね、元々は女の子だったんだよ。
でも修業中に血鬼術を扱う鬼に出くわして、その血鬼術にかかって少年になってしまった上にその鬼は逃走。
だから彼女の師範の左近次に相談を受けた私は、彼女が女性に戻るのはもう難しいということで義勇という男性名を与えて少年として育てるように指示をしたんだ。

このことを知っていたのは相談を受けた私と、一緒に暮らしていた師範の左近次と兄弟弟子の錆兎の3人だけ。
ずっとそのままかなと思ってたんだけど、なんだか昨日の午後あたりにたまたまどこかで血鬼術を使った鬼が倒されたみたいでね、元の女の子に戻ったんだ。

それで10年ほど男として生きてきて、いきなりまた戻ってと心細いというのもあるし、義勇の希望でこれまで支えて守ってくれていた錆兎と一緒になりたいということで彼女も錆兎と祝言をあげることにしたから。

ということで、祝言を挙げるのは3組。
それぞれに祝言の日から3日間の休みを用意したいと思う。

もちろん一度には無理だから、申し出た順番にまず小芭内と蜜璃の祝言、その後3日は休み。
それから3日間間を開けて天元の祝言と3日の休み。
それからさらに3日あけて錆兎と義勇の祝言で3日間の休みという形でやっていこうと思う。
異議はないね?」
と確認をするお館様。



異議はない?!ありまくりだっ!!
と不死川は思う。

心細いから守り支えて欲しいなら俺が守ってやる!!
…と、声を大にして言いたい。


…が、言えない。
当たり前だ…。

知らなかったとはいえ、よりによって女を殴っていただあぁぁーーー?!!!


もう過去の自分の所業には絶望しかない。

母に手をあげる父親を見て、絶対に女に手をあげるような男にはなるまいと思っていたのに、実は同じことをしていたのかと思えば、本当に過去に行って殴ろうとしている自分を殴り倒したい気分になってくる。



元々綺麗な顔立ちをしていた義勇は二回りほども華奢で可憐な少女になっていて、一斉に自分に向けられる視線にちょっと驚いたように当たり前に錆兎の背に隠れるように座った。

正直…どことなく漂う末っ子オーラに長男魂が刺激される。

もし…どこか周りに馴染めずに居辛そうにしていた頃に手を差し伸べてやっていたなら、ああやって背に張り付かれていたのは自分だったかもしれない…そう思うと後悔してもしきれない。

その後、万が一祝言組の休みの間に柱が出なければならない事態になったなら誰が代わるかなどの日程を書いた紙を義勇を背に張り付けたまま錆兎が読み上げるが、それも耳に入ってこないまま、不死川はその後方を凝視し続けた。


待て、待ってくれ!
保護が必要なだけなら錆兎ではなく自分じゃダメか?!



これが終わったら聞いてみようと、不死川は今度こそ後で後悔しないように…と、脳内で言葉を考える。

相手が男だったとしても諦めきれなかったところに、実は女で普通に所帯を持って家庭を作れるのだと知って、諦めきれるわけがなかった。


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