虚言から始まるおしどり夫婦8_冨岡義勇の決意

「そうか、錆兎とね。いいんじゃないかな」

錆兎の家から即舞い戻った産屋敷邸。
面会を願い出たら即目通りが許された。

お館様は体を休めていらしたらしい。

すでに床についていて、
「こんな格好で申し訳ないね」
と、言いながらも義勇の話を聞いてくださる。


錆兎と祝言を挙げたい…まず結論からと思ってそう告げると、冒頭のように賛成してくださった。

まあ、お館様はそれがどんな素っ頓狂な要望だろうと面と向かって反対などなさらないだろうが…それでも相手が同性ということで多少は驚かれるかと思っていたのだが、あまりにあっさり了承されるので、義勇の方が驚いてしまう。

そんな驚いた顔の義勇を見て

「どうしたんだい?義勇」
と、なんだか楽しそうな顔で言うお館様に、同性なので反対されるか、少なくとも驚かれはすると思っていたと素直に告げた。

するとお館様はにこにこと

「錆兎と君は同門の弟子というのを超えて仲が良かったし、驚きはしないかな。
私の秘書になる引継ぎのためにここに住んでいる間も、錆兎は本当に少ない合間をぬって君に会いに行っていたくらいだからね。
何も驚くようなこともましてや反対するようなこともないんじゃないかな」
と言って下さる。

その柔らかな雰囲気になんとなく促されるように

「でも…錆兎みたいに完璧で優秀な男の血が途絶えてしまいます」
と、義勇が自らの不安を告げると、お館様は、ふむ…と、少し考え込んだ。


「義勇、君は結婚とは別に誰かに錆兎の子を産んで欲しいのかい?
それとも自分で産みたい?」
と、お館様からされた質問は随分と残酷なものだと思った。

だって、義勇が子を産めないなんてことは義勇自身がわかりきっている。
わかりきっていることなのだから…

「…産めるものなら5人でも10人でも産んで錆兎の血でこの世を満たしたいと思いますが、実際俺は男で子は産めないので…」

もうやけくそでそんな当たり前すぎるくらい当たり前のことを義勇が口にすると、なんとお館様は
「じゃあ、君は性別に対する未練はない?
性別を変えてでも錆兎の子を産めるなら産みたい?」
などと、不思議なことを言い出した。


「これは機密中の機密なんだけどね…」
と、そこでシ~ッと内緒話をするように人差し指を唇にあて、お館様は誰が聞いているわけでもないだろうに声を潜める。

「私と錆兎と…うちの家内とあとは2,3人の腹心しか知らない秘密なんだけど、私は鬼と連絡を取り合っている。
この鬼と言うのは無惨の配下ではなくてね、おそらくずいぶんと昔に無惨の力が一瞬弱まった時があって、それより前に生まれた鬼は無惨の影響下を出ているんだ。
例の禰豆子の件で人間に戻すための薬を作っている珠世のような感じだね。
そんな鬼の中には無惨を快く思っていない者も結構いて、そんな鬼とは話し合って協力体制を取っている。
今回錆兎が長期で東北に行っていたのは、そんな鬼との新たな交渉のためなんだ。
鬼の使う血鬼術の中にはなかなか便利なものもあって、それをこちらが有利になるように使ってもらう…というのも、その協力の一つなんだけどね、その中にくらった相手を女性に変えるという血鬼術を持つ鬼がいる。
その鬼に頼めば君を女性に…つまり錆兎の子を産める体に変えることは可能なんだよ」

「錆兎の…子を産める…?」

「うん。ただしね、その鬼は協力者だから簡単に殺すわけにはいかない。
だから一度女性になったなら、最悪無惨が倒されるまでは男には戻れない。
いや、無惨が生きている間に倒されなければ、女性として人生を終えることになるのだけど…そこまでの覚悟があるかい?
あるなら全てはこちらで取りそろえるよ?」

「あるっ!ありますっ!!」
と、義勇は何も考えずに言った。


例え錆兎が今流されて祝言を挙げてくれる理由が義勇が不死川や炭治郎に困っているからで義勇を嫁にしたいわけじゃないのだとしても、錆兎とずっと一緒に居られた上で錆兎の血をきちんとこの世に残せるのならそれでいいと、この時は本当に思ったのだ。

だから了承…いや、お願いをした。
自分を錆兎の子を産める体にして欲しいと。


そして、その願いを了承したあとの産屋敷耀哉…お館様は完ぺきだった。

鬼との協調のことは当然門外不出の情報なので、きちんと義勇が女性になったことについて辻褄のあう理由まで考えて下さる。

「君の元の名は結(ゆう)。
そして左近次の所で修業している時期に鬼の血鬼術で少年になり、血鬼術をかけた鬼は逃走してみつからず。
左近次に相談を受けた私が、おそらく少女に戻すのは無理だろうということで、少年として育てるように指示して、義勇という名を与えたんだ。

それを知っていたのは師範の左近次と一緒に修業をしていた錆兎と私だけ。
幸いにして錆兎は随分と君を気遣っていたからね。
それは君が元少女だということを知っていたから…と言えば、皆も納得してくれると思う。

それで…今日、すごく偶然その鬼が倒されたらしく、君の血鬼術は解けて女性に戻ったということでいいね?
このことは左近次には根回しをしておくから、真相を知るのは私と妻と君と左近次と錆兎の5人きりだ」


ただ祝言を挙げたいというだけの予定だったのが、かなり手間暇をかけさせてしまっているのに、そんな話をするお館様はなんだか随分と楽しそうだ。

のちに錆兎にその時の様子を語った時には

──あ~…お館様は動けないから、良い気晴らしと言うか暇つぶしが出来たと思ってたのだと思う。あの方はそういう方だ…
と、がっくりと肩を落とされたので、そういう事なのだろう。

ともあれ…お館様の壮大な暇つぶしの気晴らし兼義勇の野望の結果、鬼殺隊柱周りでは色々と大騒動になるのだが、それさえも楽しめるらしい。

一部の当事者は色々と落ち込み悩みそして暴走することになるのだが、それは翌日以降の話である。


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