虚言から始まるおしどり夫婦7_冨岡義勇の暴走

そうしてそれから錆兎の口から出たのは、

「任務の報告に産屋敷邸に寄ってから帰宅したんだが…不死川や炭治郎が意味不明なことを口走ってきた。
不死川は俺にお館様のお嬢様を嫁にもらったらどうだ…と言うし、炭治郎は俺とお前が想い合っているのかと聞いてきた。
どちらもおそらくお前絡みのことなのだろう?
何があったか話せ」
と、まさにさきほどまでの出来事について尋ねる言葉だった。


どうしよう…自分でも何が起こっているのかよくわからない。

そう焦りつつも何か話さなくては…ととりあえずわからない状況で口を開きかける義勇に、錆兎は
「今回は俺は一ヶ月ばかり東北にいてその間のことは何も知らん。
状況を始めから省略せずに話せよ?」
と言う。


その言葉で義勇はホッとした。

ああ、そうだ。
最初から話せばいいのか…最初のきっかけは…なんだった?

そう…最初は……

──甘露寺と宇髄が祝言をあげることになったんだ

義勇は一番最初の出来事について語ったつもりだったのだが、錆兎から返ってきたのは深い深いため息だった。

ついで、それは伊黒と甘露寺、宇髄と嫁達がということだな?その言い方だと甘露寺と宇髄が夫婦になると誤解されるぞ、と、注意される。

ああ、そう言われればそうだ。また言葉で失敗してしまった…と、一瞬落ち込むが、他の人間と違って錆兎は義勇が言葉足らずで誤解を受けるようなことを言っても呆れはするが嫌な顔はしない。

それどころか、その一言からだけで、お館様が普通は認められないような間柄でも鬼殺隊として祝言をあげさせて夫婦として認めてやると言ったことまでを察してくれる。


すごい。
やっぱり錆兎はすごい男だ。

そうだ。そんな錆兎なら不死川の発言の意味もわかるかもしれない。
義勇はそう思って錆兎に不死川とのやりとりを話してみた。

そして…やっぱり錆兎はその意味がわかったらしい。
大きくため息をついた。

そしてさらに
「もしかして…炭治郎ともそんなやりとりがあったのか?」
と聞いてくる。


え?ええ???
何故それを知っているっ?!!
錆兎は読心術でも習得しているのかっ?!!


驚きのあまり、大きくうなずいて、そちらの方も全て打ち明けた。


炭治郎が甘露寺がお館様の発言と不死川と自分のやりとりを他に話していることを聞きかじったこと。
炭治郎に自分と祝言を挙げてくれと言われたこと。
祝言は一番好いた人間と挙げるものだと断ったこと。
炭治郎に義勇が一番好きな人間は誰かと聞かれて、錆兎だと答えたこと。

そこでやはり呆れたようなため息を一つ。


その後錆兎から出た言葉は

「義勇…お前どこまでわかって言っている?
この場合問われている“好き”というのは、祝言をあげてもいいと思う“好き”だぞ?
お前…俺と祝言があげられるのか?
だった。


え?と一瞬驚く。

好き嫌い、良い悪いとかもうそんな段階ではなく、錆兎は義勇を祝言を挙げる相手として考えることなどないと思っていた。

でもそうやって聞いてくるということは、想像くらいは出来るのか?
相手候補にはなれるのか?
いやいや、検討をする対象になれるとしたら、錆兎は義勇が頼めば断らないだろう。

そういう意味で好きじゃなくとも、義勇が困っていてそういう方向で助けて欲しいと言えば助けてくれるはず。
そういう男だ。

絶対に叶わないと思っていた恋だが、たとえ形だけでも便宜上でも叶うのだとすれば望まないなどと言う選択肢はない。

そこからの義勇は怒涛の勢いで言い募った。

「別に問題ない。
錆兎が了承してくれるなら、錆兎に合わせる。
2人で紋付でもいいし、錆兎は普通で俺が白無垢のように白い紋付でもいい。
相手が男の格好が嫌なら俺が白無垢でも打掛でも着るし、隣に並ぶのに体型が気になるなら似合うよう努力はする。
不死川はとにかくとして、炭治郎はあれで諦めの悪い男だからな。
ひとたび言い出したなら、俺か奴かどちらかが死ぬまで諦めんと思う。
そのくらいならお前と挙げた方が平和じゃないか?」

なるべく恋情を表にだすことなく、だが困っているのだと情に訴える。


しかし、いつでもなんでも義勇を助けてくれてきた錆兎でも、さすがに形ばかりとは言え夫婦になるというと悩むようだ。
戦いや仕事に対しての判断なら早いが、モテるわりに色事には疎いところがあるから判断に迷っているというのもあるのかもしれない。
しばし無言になった。

ここは…時間を与えず一気に押し切るのが吉だ!

そう考えて義勇は

「じゃあ、そういうことで俺はこれからお館様の所に行ってくる。
ああ、飯は簡単なものだが作ってあるからゆっくり食って休んでくれ」

と、錆兎が異議を唱える間を与えずに、そう言いおいて錆兎の家を出ると、昼前に出てきたばかりの産屋敷邸に舞い戻った。

そう、お館様まで話を通してしまえば、錆兎は否とは言わないはずだ。


この時、義勇は本当に必死だった。
どうしても、どうしても、錆兎と祝言が挙げたかった。
そしてまた錆兎と一緒に暮らしたかったのだ。


そのためにどんな犠牲を払おうとも…


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