急いで飯の支度をしなくては…。
錆兎の家に着いた義勇はそんなことを思いつつ、大急ぎで米を研ぐ。
それを置いている間にかれいの煮付けとみそ汁、白和えを作り、それらの手順が一通り終わったところで、米を炊いて蒸らしている間に大根おろしをすって、卵焼きを焼く。
錆兎が帰ってきたのは、その卵焼きを焼いている最中だった。
おかえり!と玄関で迎えてやりたかったが卵は火加減が命なので目を離すわけにはいかない。
あの時不死川や炭治郎が呼び止めて余計な時間を取らせなければ…と、一瞬思うが、過去に苛立っても仕方がないので、義勇は卵焼きを焼いて皿に移すと大急ぎで錆兎がまず足を向けているであろう居間にむかった。
そしてそこで見たものに義勇は思わず小さく噴き出してしまう。
丸めた座布団に頭を乗せて、錆兎が倒れるように眠っている。
錆兎は外ではきちんと敷いた布団のきっちり真ん中にあおむけで横たわり手足を直立姿勢のように伸ばして微動だにせず寝るのだが、自宅では意外にだらしないところもあって、疲れていると今のように旅支度すら解かずにそのあたりにある物を適当に枕にしてうつぶせで寝入ってしまうのだ。
錆兎のそんな気を抜いた所を知っているのは彼を育てた鱗滝先生を除けば一緒に育った自分だけ。
その先生も普段は狭霧山から出ないので今周りに居る中では自分だけだと思うと、それがなんだか嬉しい。
「…本当に…風邪を引いたら大変だろう」
と、義勇はひとりごちると、寝室から掛け布団を出してきて疲れている錆兎を起こさないようにそっとかけてやった。
狭霧山を出て早8年になる。
なるべく長い期間その役割を務めてもらえるように…と、元々目をかけられていたらしい錆兎は最終選別後すぐにそれまでその役についていたお館様の直轄の秘書からその役割を引き継ぐために産屋敷邸に引き取られて行ってしまった。
それからは1年は少しでも早く引継ぎを済ませるためにと、錆兎はなんと産屋敷邸に住んでいたので普段は会うことができなかったが、それでも休みの日は極力義勇に会いに来てくれたし、義勇に任務が入っていれば手伝ってくれる。
そんな外で会う錆兎は幼年で引き抜かれたこともあり、他の手前立場と言うものがあって、いつも随分と立派できちんとした様子をしていた。
その後は錆兎も産屋敷邸を出て自分の邸宅を構えたが、そこには使用人を置かず、出入りを許したのは義勇のみ。
義勇はそこで初めて、昔と変わらぬ様子の錆兎を見てホッとしたのだった。
もっとも元々の錆兎の実家は立派な家系の家で、狭霧山に来た当初はそんな非常にきちんとした子どもだったのだと鱗滝先生に聞いたことはある。
だから立派な錆兎と気を抜いた錆兎、どちらが本当の錆兎なのかと言うとなかなか難しいところではあるのだが、義勇はどちらの錆兎も錆兎だし、どちらの錆兎も好きだった。
立派な錆兎はカッコいいし、気を抜いた錆兎は少し可愛らしくもある。
錆兎が義勇の任務を手伝ってくれたように、義勇は錆兎の仕事を手伝えはしないのだが、その代わり…というわけではないが、錆兎が外で立派な錆兎でいられるように、家ではゆっくりと気を抜かせてやりたい…と、いつも任務の合間を見てはこうして食事を作りに来たりしているのだ。
立派な錆兎はカッコいいし、気を抜いた錆兎は少し可愛らしくもある。
錆兎が義勇の任務を手伝ってくれたように、義勇は錆兎の仕事を手伝えはしないのだが、その代わり…というわけではないが、錆兎が外で立派な錆兎でいられるように、家ではゆっくりと気を抜かせてやりたい…と、いつも任務の合間を見てはこうして食事を作りに来たりしているのだ。
それは本当に幸せな時間で、ずっと続いて欲しい、こうして錆兎が気を許す相手は自分だけがいい…と、義勇はそう思う
しかしもしそうすることで錆兎が祝言も挙げず妻を娶らずにいたとしたらこの完璧な男の血がここで絶えてしまうだろう。
それはあまりに忍びないとも思うし、悩ましいところだ。
…さびと……
義勇は眠る錆兎の顔にかかる髪をそっと払ってやった。
男らしく整った顔…
誰もが一目置く立派な男に成長したが、こうして眠る顔にはどこか昔の面影もある。
だがいつかこの錆兎の寝顔を見知らぬ女が堪能するのかと思うと、義勇はひどく悲しい気持ちになった。
それこそ夫婦になどなった日には自分以外の誰かがこの家で錆兎と一緒に暮らすことになる。
そうすれば義勇だって今のように気軽に訪ねることなどできなくなるだろう。
しかしもしそうすることで錆兎が祝言も挙げず妻を娶らずにいたとしたらこの完璧な男の血がここで絶えてしまうだろう。
それはあまりに忍びないとも思うし、悩ましいところだ。
…さびと……
義勇は眠る錆兎の顔にかかる髪をそっと払ってやった。
男らしく整った顔…
誰もが一目置く立派な男に成長したが、こうして眠る顔にはどこか昔の面影もある。
だがいつかこの錆兎の寝顔を見知らぬ女が堪能するのかと思うと、義勇はひどく悲しい気持ちになった。
それこそ夫婦になどなった日には自分以外の誰かがこの家で錆兎と一緒に暮らすことになる。
そうすれば義勇だって今のように気軽に訪ねることなどできなくなるだろう。
そんな風にじぃっと錆兎の寝顔を見ながら考えていると、ふるりと錆兎の宍色のまつげが揺れて、まぶたがゆっくりと開いていった。
──義勇…来てたのか……
と、少し掠れた声で自分の名を呼ぶ錆兎の声に、沈み切っていた気持ちが少しばかり浮上する。
どうやらよほど疲れていたのだろう。
錆兎が戻った時に義勇が台所に居たことにも気づいていなかったらしい。
それでも笑みを浮かべて布団をかけてやった礼を言ってくれて、まだだるそうな様子で半身を起こした。
「…疲れているならゆっくりと寝ていたらどうだ?」
と、そこで義勇はそう気遣うも、錆兎はゆるゆると首を横に振りながら
──義勇…来てたのか……
と、少し掠れた声で自分の名を呼ぶ錆兎の声に、沈み切っていた気持ちが少しばかり浮上する。
どうやらよほど疲れていたのだろう。
錆兎が戻った時に義勇が台所に居たことにも気づいていなかったらしい。
それでも笑みを浮かべて布団をかけてやった礼を言ってくれて、まだだるそうな様子で半身を起こした。
「…疲れているならゆっくりと寝ていたらどうだ?」
と、そこで義勇はそう気遣うも、錆兎はゆるゆると首を横に振りながら
「いや…聞きたいことがあるんだ。
横たわっていたら眠ってしまいそうだからな」
と言う。
聞きたいこと?なんだろう?
と、義勇はきょとんと首をかしげた。
自分が知っていることで錆兎が知りたいことがあるなら何でも答えたい。
それがどんなことだとしても、錆兎が自分に対して何かを望んでくれるなら錆兎のために何でもさせてもらいたいと、義勇はいつでも心の底から思っているのだ。
だから何に対しての話だろうと答える気満々で、義勇は居ずまいを正して錆兎の次の言葉をジッと待った。
横たわっていたら眠ってしまいそうだからな」
と言う。
聞きたいこと?なんだろう?
と、義勇はきょとんと首をかしげた。
自分が知っていることで錆兎が知りたいことがあるなら何でも答えたい。
それがどんなことだとしても、錆兎が自分に対して何かを望んでくれるなら錆兎のために何でもさせてもらいたいと、義勇はいつでも心の底から思っているのだ。
だから何に対しての話だろうと答える気満々で、義勇は居ずまいを正して錆兎の次の言葉をジッと待った。
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