前世からずっと一緒になるって決まってたんだ番外_春の夜に12

翌朝…こちらから連絡するまでもなく、天元から連絡が来た。
いわく…産屋敷家の血筋の子どもの多くが急に病にかかったというのだ。

しかも揃って男児だけ。
分家も本家も関係なく急にということで、耀哉様ご自身のお子様も例にもれずということだった。

なので今、産屋敷家の周りは混乱しているので、詳しくはあとで状況が分かり次第報告をするということで、こちらの話は伝え損ねてしまう。

男児が病に伏せるのと月哉の鬼がでたことと、何か関係があるのだろうか…。



──それにしても心配だな…俺は子は産めないがもし錆兎の子がいて死にかけてたら気が狂う。

と、ぎゆうは身を震わせる。


確かに…
耀哉様のお子までとなれば、他人事とは思えない。

耀哉様とは個人的にも付き合いができて、大勢が集まる時ではない極々内輪の集まりにも呼んで頂いていたので、お子様たちも遊んで差し上げたことがある。

錆兎のことは特に気に入って懐いていてくださって、

──息子がね、錆兎と遊びたいと言うんだよ
と、わざわざ名指しで招いていただいたこともあるくらいだ。

あの若様が…と思うと、錆兎とて平静ではいられない。

ぎゆうと二人、どうかよくなりますように…と祈っていたが、そんな願いも空しくその日の夕刻、若様が亡くなったと天元から連絡が入る。

それと同時に、至急産屋敷家に来て欲しいと言われて、ぎゆうと二人、急いで支度をして産屋敷家に向かった。



半月ぶりに足を運んだ産屋敷家は悲しみに包まれている。
まだ幼児であらせられる跡取りの若様が亡くなったのだ、それは当たり前のことだろう。

案内の者にお悔やみの言葉を言いつつ、その者に先導されて啜り泣きが聞こえる廊下を進み、かつて知ったる広間へと通される。

そこにはすでに天元が控えていて、さらに奥にはどこか疲れた様子の耀哉様がいらっしゃった。

そこでまずお悔やみの言葉を口にする錆兎に、
「わざわざ呼び出してすまないね。気遣いありがとう」
と、それでも声だけはいつものように。
そして案内の者に人払いを告げると、耀哉様は、傍に…と、錆兎とぎゆうに手招きをした。


非常に内密の話ということで本来は渡辺家でしたかったのだが、さすがに今家を離れることはできないから…と、産屋敷家の主の顔で話す耀哉様は痛々しい。

天元もそんな主に心配そうな視線を向けるが、それにも、大丈夫、と、言わんばかりにかすかに微笑みを浮かべて頷くあたりが、さすが大家の総帥である。

それから耀哉様の口から話された話は驚くべきものだった。


一つの館にいる人間ならとにかく、あちらこちらに住んでいる産屋敷の一族の子が皆同時期に病にかかるのはおかしい…

本家として分家から入ってくる悲報を聞いてまずそう思った耀哉様は、お抱えの占い師に相談したらしい。

ご自身のご子息が死にかけていようと、産屋敷の当主としては一族全体のことを考えねばならない。
その財を羨まれるが、巨大な権力を持つということはそういうことである。

痛ましさに眉を寄せながら錆兎とぎゆうはその話を聞いている。


そして占い師の結論として告げられたのは、産屋敷の家から鬼となる者を出したので、それを滅ぼすまではこの事象は収まらないということだ。

産屋敷の家に生まれた男児はみな早世する。
神事を司る家の娘を娶ればその呪いは弱まるが、それでも長生きはできないだろう。
そう告げられたらしい。


その話を聞いて錆兎とぎゆうは顔を見合わせた。

そうか、あれか!!
2人は頷きあい、錆兎が、実は…と、昨日の話を切り出した。


「本当は今朝すぐに連絡しようと思っていたんですが、天元から取り込み中だからと先に連絡があったので…」
と、続けると、耀哉様ははぁ…と、大きく息を吐き出す。

そしてほんの数秒ほど耐えるように目をつむって黙り込んだ。
それから何か苦いものを飲み込むように息を飲み、そして顔を上げる。

「東宮に…進言しようと思う」
と、その言葉に
「進言?」
と錆兎が首をかしげて繰り返すと、耀哉様は頷いた。


「市中を鬼が騒がしている。
今は町民だが、以前の大江山の鬼がそうだったように、いずれ貴族にも被害が出るだろう。
だからそうなる前に鬼を倒さなくてはならない。
そのために産屋敷家は私財を投じて鬼退治の私設軍を結成するつもりだ。
そう、私設だが…末端はとにかくとして、中枢にはそれなりの人間を置きたい。
だから四天王の血筋の者を数人お借りしたいと……」

ぎゆうはきょとんとしていたが、錆兎はその言外の意思を察したらしい。
小さく息を吐き出して、それから決意に満ちた目で自分以外の3人に視線をむけた。

「…というわけでね、住吉には行けなくなると思うけど、協力してくれるかい?
その代わり産屋敷の方で君たちの身分も私生活の自由も保証する」
と、その言葉で、ぎゆうの理解もようやく追いつく。

「渡辺から錆兎を筆頭に、卜部からぎゆう、碓井、坂田から各一人ずつ。
それに天元の5人を中心になんとしても再び鬼を滅して平和を取り戻そうと思う。
東宮には私がまず書面をしたため、必要があれば宮中に赴いてお願いに上がる。
天元、物資や一般の人材の手配を頼む。
錆兎とぎゆうは出来ればお祖父様世代に話を聞いて少しでも情報を得てくれると嬉しい。
軍の名はそうだな…鬼を殺す隊、【鬼殺隊】だ」

断られるという可能性は微塵も考えていないような言葉だった。
まあ確かに断る気はないのだが。


ぎゆうにとっては耀哉様はあの桜の宴で自分の生き方を指し示し認めてくれた恩人で、錆兎の次に大切な相手である。
だから錆兎に異議がないのなら、ぎゆうが異議を唱える理由がない。

錆兎はもとより耀哉様とはぎゆうより長い付き合いで、四天王の家は産屋敷家とは密接な関係なので、上が帝から産屋敷に代わることにも抵抗はなさそうだ。

「海には出られなくとも、まあぎゆうと共にあることができて刀を振る生活ならなんでも…」
と、笑みを浮かべる。


こうして二人は鬼になった産屋敷月哉を滅するために産屋敷家の私設の軍、鬼殺隊に身を置くことになった。

が、どうやら鬼舞辻無惨と名を改めた産屋敷月哉がどうやってかはわからぬが増やした仲間の鬼に阻まれ倒せぬまま、錆兎もぎゆうも天元も、人としての寿命を迎えることとなる。

だが発足した鬼殺隊は打倒鬼舞辻無惨の意志のもと、次の世代に引き継がれていったのであった。


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