慰めから始まって、結果、激しくはあるが優しく愛を交わしあって、満たされた気分で錆兎の懐に潜り込むように顔をうずめて寝ること数刻。
空気がぴりりと変わった気がしたのは、おそらくぎゆうが顔をうずめている錆兎の体に緊張が走ったからだ。
空気がぴりりと変わった気がしたのは、おそらくぎゆうが顔をうずめている錆兎の体に緊張が走ったからだ。
そんな風に筋肉の動きや気配で悟るくらいには、ぎゆうは錆兎の身体を理解している。
女ではないから錆兎の子は産めない。
こんな素晴らしい才能に満ち溢れた男の血を絶やしてしまうのは、本当に世間様に申し訳ないと思うが、その分まで錆兎が今生で余すことなくその能力を使いきれるように、ぎゆうは錆兎の一部、半身として生きていこうと思っているのだ。
だから錆兎のことなら些細な変化も見逃すつもりはない。
錆兎が自分を起こそうとしないということは、その必要がないと思っているか、あるいは、まだ眠っていて欲しいと思っているかだろう。
前者なら即起きても良いのだが、後者なら錆兎の意思を尊重したい。
だからぎゆうはもう少しだけ眠ったふりのまま様子をみることにした。
それからほんの一瞬の間があって、錆兎が動いた。
いつも枕元に置いている祖父から受け継いだという刀を手にして一歩踏み出す。
そこまできて、ぎゆうは初めて禍々しい何かが近づいていたことに気づいた。
女ではないから錆兎の子は産めない。
こんな素晴らしい才能に満ち溢れた男の血を絶やしてしまうのは、本当に世間様に申し訳ないと思うが、その分まで錆兎が今生で余すことなくその能力を使いきれるように、ぎゆうは錆兎の一部、半身として生きていこうと思っているのだ。
だから錆兎のことなら些細な変化も見逃すつもりはない。
錆兎が自分を起こそうとしないということは、その必要がないと思っているか、あるいは、まだ眠っていて欲しいと思っているかだろう。
前者なら即起きても良いのだが、後者なら錆兎の意思を尊重したい。
だからぎゆうはもう少しだけ眠ったふりのまま様子をみることにした。
それからほんの一瞬の間があって、錆兎が動いた。
いつも枕元に置いている祖父から受け継いだという刀を手にして一歩踏み出す。
そこまできて、ぎゆうは初めて禍々しい何かが近づいていたことに気づいた。
刀が空を切る音…
──鬼狩りで名を馳せた渡辺の家と知っての急襲か?
と、声を出したということは、もう起きても良いということだろう。
ぎゆうがそれでも極力目立たぬように薄目を開けると、本体は斬れなかったようだが、賊の髪と着物の袖がはらりと落ちて床に広がっていた。
──鬼狩りで名を馳せた渡辺の家と知っての急襲か?
と、声を出したということは、もう起きても良いということだろう。
ぎゆうがそれでも極力目立たぬように薄目を開けると、本体は斬れなかったようだが、賊の髪と着物の袖がはらりと落ちて床に広がっていた。
ぎゆうをかばうように前に立ちはだかって刀を構える錆兎から刀の間合いよりもう少し離れたくらいの位置にいるのはまぎれもなく鬼。
直衣のようなものを身に着けて一見すると人のようであるが、額に角が、口に牙が生えていて、爪も長く鋭い。
一人でいる時にこんなものに会ったならさぞや動揺しただろうが、今はぎゆうの前に錆兎がいるので、微塵も恐怖は感じない。
2人が共にある時になら恐れるものなど何もないのだ。
そもそもが鬼は錆兎に恐れをなしたようで、及び腰になっているように見える。
直衣のようなものを身に着けて一見すると人のようであるが、額に角が、口に牙が生えていて、爪も長く鋭い。
一人でいる時にこんなものに会ったならさぞや動揺しただろうが、今はぎゆうの前に錆兎がいるので、微塵も恐怖は感じない。
2人が共にある時になら恐れるものなど何もないのだ。
そもそもが鬼は錆兎に恐れをなしたようで、及び腰になっているように見える。
一旦は近づいたものの錆兎に斬りかかられて間合いを出て、今はもうこちらに踏み込むというより逃げるタイミングを探っているように思えた。
錆兎はこちらから踏み込んでいく様子は見せない。
そしてぎゆうが目を覚ましたことに気づいている。
ということは…やることは一つだ。
鬼が錆兎の気迫に気を取られている間に、ぎゆうも常に枕元に常備している弓を手に取る。
これが人の賊なら狙いは足なのだが、鬼は人よりは随分と丈夫にできていて、傷などもすぐ塞がるらしいので、足を射ても矢を刺したまま普通に逃げられる可能性が高い。
なので狙うのは目だ。
少なくとも矢を抜かねば視界が失われて逃げるのに障害になるだろう。
ということで、錆兎に気を取られながらも刀では届かない程度の距離があるので隙のある敵に狙いを定めてキリリと弓を引き絞り、矢を放つ。
シュン!!と夜の闇を切り裂くように飛んで行った矢は見事に鬼の右目に突き刺さった。
続いて左目もと弓を弾き絞る義勇だったが、その時鬼の口からこぼれた
──…ぎゆう………
というかすかな声。
え?と、どこかで聞いたようなその声に戸惑って、ほんの一瞬手が止まった瞬間に、鬼はすさまじい速さで撤退していった。
しまった!!と思うものの、人に非ざる者の跳躍力で、鬼はすでに外塀に。
「…ひ、人を…っ!!」
と、慌てて警護に伝えようと立ち上がりかけるぎゆうを、
「いや…あの速度ではもう追えないところまで逃げているだろうから無駄だ」
と、錆兎が止める。
そして、──それより……と、鬼から切り落とした髪と袖を丁寧に拾い上げ、布に包み、そして
──これは…耀哉様に届けねばな…
と、言った。
そうだ…思い出した。
錆兎はこちらから踏み込んでいく様子は見せない。
そしてぎゆうが目を覚ましたことに気づいている。
ということは…やることは一つだ。
鬼が錆兎の気迫に気を取られている間に、ぎゆうも常に枕元に常備している弓を手に取る。
これが人の賊なら狙いは足なのだが、鬼は人よりは随分と丈夫にできていて、傷などもすぐ塞がるらしいので、足を射ても矢を刺したまま普通に逃げられる可能性が高い。
なので狙うのは目だ。
少なくとも矢を抜かねば視界が失われて逃げるのに障害になるだろう。
ということで、錆兎に気を取られながらも刀では届かない程度の距離があるので隙のある敵に狙いを定めてキリリと弓を引き絞り、矢を放つ。
シュン!!と夜の闇を切り裂くように飛んで行った矢は見事に鬼の右目に突き刺さった。
続いて左目もと弓を弾き絞る義勇だったが、その時鬼の口からこぼれた
──…ぎゆう………
というかすかな声。
え?と、どこかで聞いたようなその声に戸惑って、ほんの一瞬手が止まった瞬間に、鬼はすさまじい速さで撤退していった。
しまった!!と思うものの、人に非ざる者の跳躍力で、鬼はすでに外塀に。
「…ひ、人を…っ!!」
と、慌てて警護に伝えようと立ち上がりかけるぎゆうを、
「いや…あの速度ではもう追えないところまで逃げているだろうから無駄だ」
と、錆兎が止める。
そして、──それより……と、鬼から切り落とした髪と袖を丁寧に拾い上げ、布に包み、そして
──これは…耀哉様に届けねばな…
と、言った。
そうだ…思い出した。
あれは月哉だった。
角が生え、牙が伸び、月明かりのみの薄暗さで見間違えたのかとも思ったが、錆兎がそう言うなら見間違いではないのだろう。
どうなっているのだろうか…
月哉は鬼だったのか?
それとも鬼が月哉の姿を借りていたのか…
角が生え、牙が伸び、月明かりのみの薄暗さで見間違えたのかとも思ったが、錆兎がそう言うなら見間違いではないのだろう。
どうなっているのだろうか…
月哉は鬼だったのか?
それとも鬼が月哉の姿を借りていたのか…
一体鬼と言う存在はどういうものなのか…
そんな思いがクルクルと脳内を回っているぎゆうに、拾い物を包み終わった錆兎は
「さて…明日からは忙しい。
まず天元に連絡を取って事情を話して…時間があればじい様達を訪ねて鬼について聞かねばならん。
だからぎゆうももう休め」
と、何事もなかったようにそう言うと、ぎゆうの腕を取って襖の中に引きずり込んだ。
もちろん自分もその隣に横たわる。
こんなことがあった直後に睡眠の心配とは随分と豪胆なことだ…と呆れはするものの、その錆兎が隣に居る限りはぎゆうも同じだ。
抱え込まれた錆兎の体温と匂いに安心してすぐに眠気が襲ってくる。
そうしてふわぁとあくびを一つ。
あっという間に眠りの世界に落ちていった。
Before <<< >>>Next (11月25日公開予定)
そんな思いがクルクルと脳内を回っているぎゆうに、拾い物を包み終わった錆兎は
「さて…明日からは忙しい。
まず天元に連絡を取って事情を話して…時間があればじい様達を訪ねて鬼について聞かねばならん。
だからぎゆうももう休め」
と、何事もなかったようにそう言うと、ぎゆうの腕を取って襖の中に引きずり込んだ。
もちろん自分もその隣に横たわる。
こんなことがあった直後に睡眠の心配とは随分と豪胆なことだ…と呆れはするものの、その錆兎が隣に居る限りはぎゆうも同じだ。
抱え込まれた錆兎の体温と匂いに安心してすぐに眠気が襲ってくる。
そうしてふわぁとあくびを一つ。
あっという間に眠りの世界に落ちていった。
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