相手はいつもぎゆうを追いかけまわしていたことは一部で有名だったため、それを理由にそれとなく周りに話題を振ってみても、捗々しい成果を得ることができないままだ。
そんな中で、それとは何か関係があるのかないのか、見回りに出た際に少し声をかけてみた町人から妙な話を聞く。
市中に鬼が出る…そんなまさに四天王を意識しているのか?と思われるような噂である。
鬼は大人の男くらいの大きさで、角と牙があり瞳孔が細いことを覗けば、まるで人と変わらぬように見えるそうだ。
その話をしていた者はその目撃者ということで、ただのホラ話なのか、それとも遭遇した者は皆殺されているのか、他に見たという者はいない。
ただ、実際にこの数か月ばかりの間に市中の家々で行方不明者が出ており、人さらいか神隠しか…はたまた数年前のような誘拐団かと騒がれていたので、鬼か否かは別にして調査は必要である。
錆兎やぎゆうの仕事は内裏や貴族の警護までであって、一般市民の治安については仕事の範囲外ではあるのだが、原因がわからぬ怪事なので今は町民の間にだけ起こっていても、いずれ貴族たちの方にも来るかもしれない…と、半ば強引にそちらの件を調べさせてもらうことにした。
初めに鬼のことを話してくれた町民にさらに話を聞くと、鬼が出たのは夜。
喰われたのは男やもめ二人で暮らしていたという男の弟だそうだ。
男はたいそう目が良かったため、遠目に見えたのだが、鬼はとても綺麗な男の容姿をしていて、身なりもまるで貴族のように上等だったらしい。
額の角も大きくはなくて目立たなかったため、弟を喰らっていなければ鬼だとはきづかないくらいだったと男は言った。
喰われた現場を見せてもらうと、掃除はなされたのだろうが床にかすかに血痕が残っている。
その後、家のものが行方不明になったと報告のあった家に行けば、全てそんな風に血の跡があった。
もちろんそこにその血の元になったのであろう遺体はない。
現場以外には血のあともないので、遺体はその場で消えたか血の跡がつかぬようにした状態で運び出したかだが、物盗りなどの犯行ならわざわざ価値のない遺体を運び出す意味もないだろう。
そこでたった一人ではあるが目撃者もいる事なので、同じ鬼の犯行なのでは?と思われたのだそうだ。
以前、お忍びの耀哉様から話を聞いたところによると、月哉が消えた晩には病に伏せる月哉の治療に医師が来ていて、その医師が帰る様子がなかったので家人が様子を見に行ったなら、月哉も医師もいなかったということである。
その現場にも血の跡が残っていて家じゅう大騒ぎになったのだが、館には当然警護の者もいて、正面からも裏口からも人が立ち去ったことはなく、家の四方も壁に囲まれていた。
なのでそこから出ようとしても誰かしらに見咎められるだろう。
こうして色々調べてみると、月哉も実は鬼に喰われたのでは?と思わないでもないのだが、予測の範囲を超えない状況では捜査は終われない。
言い方は悪いが、生きていて人質になっている可能性が少しでもあるのなら、産屋敷本家の害になる可能性があるのだ。
死んだと確実にわかるまでは探さねばならない。
──人の死の確証を求めて動くというのは…なんだか嫌なものだな…
その日は少しばかり風が吹いていて、耀哉様からの贈り物の梅の木から花びらがはらはらと夜風に舞っていた。
そんな中、それを遠目にみやりながら、錆兎がはぁ…と、ため息をつく。
「親父達が話す祖父様の鬼退治の話はなんていうか…もっとわくわくするようなおとぎ話みたいで、小さい頃からその話を聞くのが大好きだったんだが、実際に鬼が出るということは、こうやって被害者が出て、それを悲しむ家族がいてってことになるし…。
かと思うと権力争いに利用されるよりは鬼に喰われていたほうが…なんて期待して行方不明者の行方を調べることになるしな…。
鬼を探して退治してということは確かに人のためになる正義の行動なんだろうが、その過程に起こったことを考えると決して楽しんで良いような華々しいことではないよな」
ぎゆうにとっても…もちろん市政の人達にとっても錆兎は英雄だ。
鬼退治で有名な祖父を持っていることももちろんだが、錆兎自身の実績や人柄から皆に好かれている。
だから皆、錆兎にならと色々協力してくれるのである。
それでも天狗にならないで、だいたいの人の関心の目が向かない被害者家族の気持ちに寄り添って考えてしまう錆兎は優しい。
「それでも…お前はみんなの希望で支えだ。
お前がいるから悲しみに沈みつつも被害者家族は絶対に仇をとってもらえると、それを支えに生きていけるし、鬼に怯える街の人間たちは鬼に怯えながらもお前ならば鬼を倒してくれると信頼している。
鬼退治で有名な祖父を持っていることももちろんだが、錆兎自身の実績や人柄から皆に好かれている。
だから皆、錆兎にならと色々協力してくれるのである。
それでも天狗にならないで、だいたいの人の関心の目が向かない被害者家族の気持ちに寄り添って考えてしまう錆兎は優しい。
「それでも…お前はみんなの希望で支えだ。
お前がいるから悲しみに沈みつつも被害者家族は絶対に仇をとってもらえると、それを支えに生きていけるし、鬼に怯える街の人間たちは鬼に怯えながらもお前ならば鬼を倒してくれると信頼している。
かつて情けない童だと嘲りを受けていた俺がお前に救われて今とりあえず祖父の孫として認められるくらいにはなっているように、皆がお前に支えられてるんだ。
だから…お前は堂々と生きろ。
お前のしていることは間違ってなんかいない。
それでもお前を攻撃してくる奴がいれば今度は俺が守るから。
絶対にお前を守るから」
本当に錆兎は何もかもが完璧だ…とぎゆうは改めて思った。
ただ少しばかり優しすぎる。
だから、
──錆兎はとても面倒見の良い子だけど…しばしば自分の身を振り返らないから、錆兎の身は君が気にしてあげるといいね。
と、耀哉様にそう言われたあの日から、自分だけはそんな完璧すぎるから誰も守ってくれない錆兎を守る人間になろうと思っている。
──錆兎…お前の心を慰めさせて…?
ふわりと白い腕を錆兎の首に回して頭を引き寄せると、
──…ぎゆう…すまん……
と、抵抗もなく錆兎の顔が近づいてくる。
10歳の時から慰める時にはずっと重ねられてきた唇。
互いに15になった今ではそれで止まることはない。
──ぎゆう…ぎゆうっ……俺のぎゆう……
褥に横たわって何度も名を繰り返し呼びながら自分を激しく求めてくる錆兎をぎゆうは柔らかく受け止める。
錆兎に求められている…それだけでぎゆうはこの上なく幸せな気持ちになった。
何度も何度も頭の中が真っ白になる世界まで昇りつめさせられて、錆兎を慰めるつもりが自分の方がすっかり満たされて眠りに落ちる。
そこからもうっすら意識がある時もあれば完全に落ちている時もあるが、錆兎が優しい手つきで身を清めてくれるのが心地よくて、ぎゆうはたいていは眠ったふりをしていた。
その日はたまたま意識はあった。
少し温まった湯につけた手ぬぐいで錆兎が身を清めてくれている間も眠ったふりをしている。
そうして全て清め終わると、これはいつものことなのだが、錆兎は自分の夜着をぎゆうに着せて、自分はぎゆうの夜着を身に着けた。
そうするとすっかり錆兎の匂いに包まれてぎゆうはとても安心するのだが、錆兎も同じように感じるからそうするのだろうか…
そうだったら嬉しいなと思うと、自然に顔がほころんでしまう。
──ぎゆう…お前、どんな幸せな夢を見てるんだ…?
だから…お前は堂々と生きろ。
お前のしていることは間違ってなんかいない。
それでもお前を攻撃してくる奴がいれば今度は俺が守るから。
絶対にお前を守るから」
本当に錆兎は何もかもが完璧だ…とぎゆうは改めて思った。
ただ少しばかり優しすぎる。
だから、
──錆兎はとても面倒見の良い子だけど…しばしば自分の身を振り返らないから、錆兎の身は君が気にしてあげるといいね。
と、耀哉様にそう言われたあの日から、自分だけはそんな完璧すぎるから誰も守ってくれない錆兎を守る人間になろうと思っている。
──錆兎…お前の心を慰めさせて…?
ふわりと白い腕を錆兎の首に回して頭を引き寄せると、
──…ぎゆう…すまん……
と、抵抗もなく錆兎の顔が近づいてくる。
10歳の時から慰める時にはずっと重ねられてきた唇。
互いに15になった今ではそれで止まることはない。
──ぎゆう…ぎゆうっ……俺のぎゆう……
褥に横たわって何度も名を繰り返し呼びながら自分を激しく求めてくる錆兎をぎゆうは柔らかく受け止める。
錆兎に求められている…それだけでぎゆうはこの上なく幸せな気持ちになった。
何度も何度も頭の中が真っ白になる世界まで昇りつめさせられて、錆兎を慰めるつもりが自分の方がすっかり満たされて眠りに落ちる。
そこからもうっすら意識がある時もあれば完全に落ちている時もあるが、錆兎が優しい手つきで身を清めてくれるのが心地よくて、ぎゆうはたいていは眠ったふりをしていた。
その日はたまたま意識はあった。
少し温まった湯につけた手ぬぐいで錆兎が身を清めてくれている間も眠ったふりをしている。
そうして全て清め終わると、これはいつものことなのだが、錆兎は自分の夜着をぎゆうに着せて、自分はぎゆうの夜着を身に着けた。
そうするとすっかり錆兎の匂いに包まれてぎゆうはとても安心するのだが、錆兎も同じように感じるからそうするのだろうか…
そうだったら嬉しいなと思うと、自然に顔がほころんでしまう。
──ぎゆう…お前、どんな幸せな夢を見てるんだ…?
と、錆兎が温かい手でぎゆうの頬に触れながら、とても…とても優しい声音で問いかけてくる。
もちろんぎゆうが起きているとは思ってはいないようだが。
ぎゆうが起きていようが寝ていようが、錆兎はこの上なく優しいのだ…と思うと、心も体も幸せでいっぱいになった。
もちろんぎゆうが起きているとは思ってはいないようだが。
ぎゆうが起きていようが寝ていようが、錆兎はこの上なく優しいのだ…と思うと、心も体も幸せでいっぱいになった。
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