前世からずっと一緒になるって決まってたんだ番外_春の夜に9

それは突然の訪問だった。

ある日、突然に耀哉様から天元を秘かに渡辺家にやるから話を聞いてくれ…と、手紙が届く。

状況から察するに、あまり良い話ではなさそうだ。

そう思いつつも仕事についてからはなかなか会う機会がない友人に会えることは嬉しくて、二人して酒や肴の準備にいそしんでしまう。


「なんだろうな。普段なら産屋敷の家の方に呼ばれるのに…」

「ん~…秘かにということだから、あるいは産屋敷の家では話すことができないようなことかもしれないぞ」


宇髄は耀哉様の命で訪ねてくるので、用件は耀哉様の用件なのだろうが、一応宇髄家から天元個人がという形で訪ねて来るらしい。

それだけでも何かあったのだろうということは容易に想像がついた。



こうして夕刻になると、下働きの人間が宇髄家からの客が着いたと連絡をしてきたので、部屋に通すように言いつける。

そして案内の者に誘導されて部屋に入ってきた姿を見て、ぎゆうが声をあげかけたのを、錆兎が慌ててその口をふさいだ。

錆兎だってびっくりしたが、人に知られぬようにということなのだから、使用人にだってバレたらまずかろう。

口を塞がれてもごもごやっているぎゆうに案内してきた使用人は少し驚いた眼を向けるが、そこで錆兎が

「なんでもない。宇髄とは込み入った話もしたいから、ここには人を近づけないように」
と、人払いを命じると、了承して下がっていった。



「さすが錆兎。判断早えなっ!」

使用人が下がって錆兎とぎゆう、そして天元ともう一人の連れの4人きりになると、天元はふはっと笑う。

「笑い事ではない。
耀哉様を同伴するなら先に言っておいてくれ。
俺だって驚いた」
と、困ったように眉尻をさげた錆兎が言うように、天元の横にいる宇髄家の家人に扮した連れは紛れもなく産屋敷耀哉様その人である。

これ、いいのか?まずくはないのか?と錆兎は思うわけなのだが、もちろん彼を驚かそうと思っていたずら心でお忍びで訪ねてきたわけではない。

「驚かせてすまなかったね。でも天元を責めないでやっておくれ。
今回は非常時でね。産屋敷やその息がかかった場所で話をするのは危険かもしれなかったから、私の一族に関係のない場所で話をしたかったんだ」

と、それはうっすらと予測はしていた事だが、改めて耀哉様の口から言われると、感じる緊張感が違う。

そして続いてその口から伝えられた言葉は、さらに衝撃的なものだった。


──実はね、月哉が行方不明なんだ。

正直ぎゆうにとってはどうでもいい相手だった。

というか、居ればとにかくぎゆうに話をさせろだの、錆兎はどこかへ行けだのうるさいので、むしろ静かになってちょうどいい…そんな風に思わないでもなかったのだが、一気に青ざめた錆兎を見ると、そんな単純な問題でもないらしい。


「…それは…東宮と第二皇子の対立と何か関係が?」
「…う…ん、それがわからないから困ってるんだ、実は」

錆兎の問いに耀哉様は本当に困っているという風に苦笑する。

「もし…もしもね、そうだったとしたら、産屋敷の分家が敵に回りかねない。
月哉の両親は一人息子の月哉をとても可愛がっているからね。
おそらく他の分家にも私産を全て投げうってでもなりふり構わず味方になるよう持ち掛けるだろう。
どういう形でどのあたりに根回しをしようとするかもわからないから、正直困ってしまってね。
今天元の家に秘かに調べさせているんだけど、本当にそうなのかわからないから私たちも下手におおごとにするわけにもいかないし、本当に個人的なお願いで申し訳ないんだけど、内密で錆兎の方でも気にかけてもらえないだろうか…」

「つまり…四天王の人間はもちろん、親たちにも言わない、飽くまで俺がわかる範囲で…ということですか」

「うん、そうなるね。
君は顔が広いから私たちには入ってこない情報も入ってくることがあるだろうし、彼はぎゆうに執着していたからね」

「最近ぎゆうを追いかけてこないが、どうかしたのか?と話題に乗せたり?」
「そうそう。頼めるかい?」
「ほかならぬ耀哉様の頼みなら」

「ありがとう!錆兎ならそう言ってくれると思ったよ。
事情が分かって解決したらちゃんと埋め合わせはするからね」
と、にこりと微笑む耀哉様に、錆兎は少し言いにくそうに、それでも

「あ~…それなら一つよろしいですか?」
と切り出した。

本当にそれだけだというのに、産屋敷家の人間は読心術の心得でもあるのだろうか。

「君と自分の娘を縁付かせたい親たちのことかい?」
と、本当に錆兎が願い出ようとしていたことを見事に当てて見せる。

「は?なぜそれを?!!」

「う~ん…なんとなく?
いいよ。そちらは任せて。
ことが終わったらとかじゃなく、錆兎が動きやすいように、錆兎の婚姻については産屋敷の方でしかるべき対応をするつもりだからと流しておくから」

「助かりますっ!」
と、とりあえずどうしてわかったかよりも、どう対処してくれるかの方が大切だと、錆兎は耀哉様に頭をさげた。


そして隣でぎゆうがやはり頭を下げるので、そこで敏い天元が

「ああ、そういうことな」
と、察して笑う。


こうして一つ、産屋敷家との裏取引が成立し、己のことに関しては平和になった代わりに、その後、錆兎もぎゆうも宮中にアンテナを張り巡らせることになった。

そしてその1月後、二人は思わぬ事実を知ることになるのである。


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